異世界にいったったwwwww
外伝3
退屈で死にそうだ。彼女――皆川真希は、ひとり授業中の机の上に伏せていた。四月である。
  真新しい教科書のページの擦れる音が何十も重なって聞こえた。それだけで、吐き気がしそうだった。斜めにメガネのレンズへ真上の蛍光灯の光を反射した。
  (バカみたい。)
  まだ、春先であるため肌寒い。暖房が効きすぎている。頬が熱を帯びて赤くなる。真希は机の上に真新しい教科書を立て、盾のようにして使用していた。真新しい紺色のブレザーも、気に食わない。
  「え~、次に12ページの……」
  教卓から教師のダミ声が室内いっぱいに響く。
  耳障りに感じながら真希は窓の外に目線を逃がす。
  国道沿いに近い学校であるため、時折、トラックの路面を走る地響きのような震えの感覚がする。気のせいかもしれないが……。サイレンなどの音も頻繁にしてくる。
  その何気ない風景が、真希にとっては苦痛の種でしかない。苛立ちながら、ノートの上に頬をへばりつかせて、シャーペンの芯を無用にカチカチと出す。昨日までは連日の雨であったために、教室の窓にへばりついた雨粒が微かな太陽の光を含んで、新鮮な小さな輝きをしている。
  「……羅生門」
  と、廊下側の女子生徒の、伏せがちの声で音読が始まった。学生特有のたどたどしい棒読みであるが、不思議な喚起力があるように、真希は思った。
  それからしばらくして、段落ごとに生徒が交代交代で読む。
  ……と、突然「皆川ッ!」と叫ぶ声があった。
  真希は一瞬驚いたように脊椎に電流が流れたが、4秒ほどしてから物憂い顔を起こしてメガネのレンズにかかった髪の毛を左手の白い細い指で払う。
  「はい」
  なるべく仏頂面にならないようにしたつもりだった。
  ……が、どうやら随分淡白な返事だったのだろう。教師生活三十年にさしかかろうとしている男性の小太りの禿げた教師が唾を飛ばして、教卓を叩いているのがわかった。激昂しているのだ。
  だが、真希にはそれが他人事のように思われた。まるで耳が深いプールに沈んだように外界の音が遮断されていた。
  何気なく周囲を見る。
  窓側の生徒たちは奇異の眼で真希をジロジロと眺めるようにして嗤い、反対の廊下側の生徒たちは関わらないようにしようと、教科書や板書の素振りでごまかしていた。そして、残りの真希の周囲の五名程は、僅かに席をずらして、真希から離れる雰囲気をだした。
  妙な静寂が、真希は不愉快であった。まるで、無言で異物を排除しようとするときのアノ感覚である。
  しばらくすると、
  「後で、職員室にこい! わかったかッ!」
  眉間に皺をつくり、出席帳をもう一度バン、と教卓に叩きつけた。
  「……はい」
  返事をするだけで、もう十分だろうと彼女には感じられた。
  「皆川さん? でいいよね?」
  昼休み、真希がヘッドフォンをして惣菜のパンを囓っていると、男子生徒が彼女の肩を軽く叩いた。不機嫌に眉が歪みながら、その方向をむきつつ、ヘッドフォンを首にかけた。
  「なに?」
  男子生徒は、人の良さそうな笑顔を真希にやる。
  「ああ、あの先生が読んでるから行ったほうがいいよ。あっ、ん~でもこれから委員会の集会あるから先にソッチに顔を出してから……」
  ペラペラと話し始める彼に真希は反感を覚えつつ、
  「なんで私が委員会なんかに……」
  すると、男子生徒は言いにくそうに「最初の役員決めのとき、なんの役員にもなってなかった皆川さんが結果的に学生会の委員に……」
  「押し付けた?」
  「まさか。正直メンドウだけど、俺も行くし、そんな時間かかんないしいこうよ。」
  真希は肩を竦めた。
  真新しい教科書のページの擦れる音が何十も重なって聞こえた。それだけで、吐き気がしそうだった。斜めにメガネのレンズへ真上の蛍光灯の光を反射した。
  (バカみたい。)
  まだ、春先であるため肌寒い。暖房が効きすぎている。頬が熱を帯びて赤くなる。真希は机の上に真新しい教科書を立て、盾のようにして使用していた。真新しい紺色のブレザーも、気に食わない。
  「え~、次に12ページの……」
  教卓から教師のダミ声が室内いっぱいに響く。
  耳障りに感じながら真希は窓の外に目線を逃がす。
  国道沿いに近い学校であるため、時折、トラックの路面を走る地響きのような震えの感覚がする。気のせいかもしれないが……。サイレンなどの音も頻繁にしてくる。
  その何気ない風景が、真希にとっては苦痛の種でしかない。苛立ちながら、ノートの上に頬をへばりつかせて、シャーペンの芯を無用にカチカチと出す。昨日までは連日の雨であったために、教室の窓にへばりついた雨粒が微かな太陽の光を含んで、新鮮な小さな輝きをしている。
  「……羅生門」
  と、廊下側の女子生徒の、伏せがちの声で音読が始まった。学生特有のたどたどしい棒読みであるが、不思議な喚起力があるように、真希は思った。
  それからしばらくして、段落ごとに生徒が交代交代で読む。
  ……と、突然「皆川ッ!」と叫ぶ声があった。
  真希は一瞬驚いたように脊椎に電流が流れたが、4秒ほどしてから物憂い顔を起こしてメガネのレンズにかかった髪の毛を左手の白い細い指で払う。
  「はい」
  なるべく仏頂面にならないようにしたつもりだった。
  ……が、どうやら随分淡白な返事だったのだろう。教師生活三十年にさしかかろうとしている男性の小太りの禿げた教師が唾を飛ばして、教卓を叩いているのがわかった。激昂しているのだ。
  だが、真希にはそれが他人事のように思われた。まるで耳が深いプールに沈んだように外界の音が遮断されていた。
  何気なく周囲を見る。
  窓側の生徒たちは奇異の眼で真希をジロジロと眺めるようにして嗤い、反対の廊下側の生徒たちは関わらないようにしようと、教科書や板書の素振りでごまかしていた。そして、残りの真希の周囲の五名程は、僅かに席をずらして、真希から離れる雰囲気をだした。
  妙な静寂が、真希は不愉快であった。まるで、無言で異物を排除しようとするときのアノ感覚である。
  しばらくすると、
  「後で、職員室にこい! わかったかッ!」
  眉間に皺をつくり、出席帳をもう一度バン、と教卓に叩きつけた。
  「……はい」
  返事をするだけで、もう十分だろうと彼女には感じられた。
  「皆川さん? でいいよね?」
  昼休み、真希がヘッドフォンをして惣菜のパンを囓っていると、男子生徒が彼女の肩を軽く叩いた。不機嫌に眉が歪みながら、その方向をむきつつ、ヘッドフォンを首にかけた。
  「なに?」
  男子生徒は、人の良さそうな笑顔を真希にやる。
  「ああ、あの先生が読んでるから行ったほうがいいよ。あっ、ん~でもこれから委員会の集会あるから先にソッチに顔を出してから……」
  ペラペラと話し始める彼に真希は反感を覚えつつ、
  「なんで私が委員会なんかに……」
  すると、男子生徒は言いにくそうに「最初の役員決めのとき、なんの役員にもなってなかった皆川さんが結果的に学生会の委員に……」
  「押し付けた?」
  「まさか。正直メンドウだけど、俺も行くし、そんな時間かかんないしいこうよ。」
  真希は肩を竦めた。
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