異世界にいったったwwwww
外伝2
大陸の歴史上この仮面の男について何ら知る手立てを持たない。というのも、そもそも彼が何者であり、また、どのような生い立ちで現れたのかを誰も知ろうとしない。
彼――黒仮面は謎に包まれた人物である。
たったその一言が合言葉のように人々の口伝によって伝播し記録された。彼はワイバーン部隊を率い、混沌とした戦線各地で有名を馳せた。勿論、地方により差異が含まれる。それを考慮しても、黒仮面の男伝説は様々な形で変容し現在に至っているという。
曰く、右の手は常に戟を手挟み且つ、血に濡れていた。曰く、人々は黒仮面を恐れた一方で慕いもした。まるで天の災いの具現化と称されることもあれば神の与えし恩恵とも言われた、まさに二律背反の存在。
彼にまつわる唯一最古の記録が、王宮日誌の書記官が記した一節。
〈黒仮面の男、宮廷の大庭園にて要人を警護す。〉
これだけが、彼の手がかりである。名前も勿論ない。いや、無いと言うよりも意図的に抹消させられたように、資料には虫食い部分が多く散見された。黒仮面の男――果たして彼の正体は……
午後の日差しは鈍色をした真鍮の様な雲に遮られていた。
この日、宮殿を訪れた要人は傍を随行する男の異様な気配に圧倒されていた。
「な、なあ貴殿はどこの生まれだ?」歩を止め親しげに問うてみた。
「……」
しかし、黒い仮面がまるで皮膚のように冷たく、要人の何か言いたげな視線を撥ねつける。
……はぁ、と溜息を洩らす。息苦しいことこの上ない。なぜ、このような男を護衛につけたのだろう。今度は睨めつける様に上から下まで吟味する。見たところ、身長は170位だろうか? 大柄とは言い難い。身体は漆黒の天鵞絨マントを羽織り体格も分からない。
気味が悪い。居心地そうに要人は咳払いをして襟を正した。丁度、視界に白いモンシロチョウが入ってきた。それを意味もなく瞳で追った。靴を一つ前にさし出す。緩んだ足場は褐色の土である、肥料を撒いた後のようだ。蝶を追った意識は、自然に生垣から庭園の全景を捉えるようなった。
一枚の黄色い花弁が目についた。鮮やか黄色のフリージアの咲き誇る生垣。この迷路のような道半ばで要人は「ある人物」を待っていた。その人物は、この庭園が殊のほか気に入っていた。
「アア、来たか」
生垣から顔を見せたのは温和な老人の顔だった。
「いえ、そんな事はございません。お会いできて嬉しく思います。前国王」
ははは、と笑いながら首を振る。と、要人の後ろの黒仮面に気がついた前国王は露骨に嫌な顔をするように、頬を痙攣させ口の端を嫌悪に歪めた。
「チッ、そいつが近くにいるのか……まあいい。とにかく、お話を――」
取り繕うように前国王は作り笑いで表情を塗り固めた。要人も機微をよく心得ており、深く質問せずに要件を切り出した。
それから二人はすぐに黒仮面の存在なぞ忘れたかのように喋りだした。また、無視された彼の方も人から邪険にされることに慣れた様子で彫像のようにただ単に屹立している。僅かに仮面の下からは呼吸のする気配のみが感じられた。
彼がこの役職につくまでおよそ三年かかった。だが、当時としてそれは異例の出世である。
彼……黒仮面が、いかにしてこの場に立つのか――少し、時計の針を戻そうと思う。
彼――黒仮面は謎に包まれた人物である。
たったその一言が合言葉のように人々の口伝によって伝播し記録された。彼はワイバーン部隊を率い、混沌とした戦線各地で有名を馳せた。勿論、地方により差異が含まれる。それを考慮しても、黒仮面の男伝説は様々な形で変容し現在に至っているという。
曰く、右の手は常に戟を手挟み且つ、血に濡れていた。曰く、人々は黒仮面を恐れた一方で慕いもした。まるで天の災いの具現化と称されることもあれば神の与えし恩恵とも言われた、まさに二律背反の存在。
彼にまつわる唯一最古の記録が、王宮日誌の書記官が記した一節。
〈黒仮面の男、宮廷の大庭園にて要人を警護す。〉
これだけが、彼の手がかりである。名前も勿論ない。いや、無いと言うよりも意図的に抹消させられたように、資料には虫食い部分が多く散見された。黒仮面の男――果たして彼の正体は……
午後の日差しは鈍色をした真鍮の様な雲に遮られていた。
この日、宮殿を訪れた要人は傍を随行する男の異様な気配に圧倒されていた。
「な、なあ貴殿はどこの生まれだ?」歩を止め親しげに問うてみた。
「……」
しかし、黒い仮面がまるで皮膚のように冷たく、要人の何か言いたげな視線を撥ねつける。
……はぁ、と溜息を洩らす。息苦しいことこの上ない。なぜ、このような男を護衛につけたのだろう。今度は睨めつける様に上から下まで吟味する。見たところ、身長は170位だろうか? 大柄とは言い難い。身体は漆黒の天鵞絨マントを羽織り体格も分からない。
気味が悪い。居心地そうに要人は咳払いをして襟を正した。丁度、視界に白いモンシロチョウが入ってきた。それを意味もなく瞳で追った。靴を一つ前にさし出す。緩んだ足場は褐色の土である、肥料を撒いた後のようだ。蝶を追った意識は、自然に生垣から庭園の全景を捉えるようなった。
一枚の黄色い花弁が目についた。鮮やか黄色のフリージアの咲き誇る生垣。この迷路のような道半ばで要人は「ある人物」を待っていた。その人物は、この庭園が殊のほか気に入っていた。
「アア、来たか」
生垣から顔を見せたのは温和な老人の顔だった。
「いえ、そんな事はございません。お会いできて嬉しく思います。前国王」
ははは、と笑いながら首を振る。と、要人の後ろの黒仮面に気がついた前国王は露骨に嫌な顔をするように、頬を痙攣させ口の端を嫌悪に歪めた。
「チッ、そいつが近くにいるのか……まあいい。とにかく、お話を――」
取り繕うように前国王は作り笑いで表情を塗り固めた。要人も機微をよく心得ており、深く質問せずに要件を切り出した。
それから二人はすぐに黒仮面の存在なぞ忘れたかのように喋りだした。また、無視された彼の方も人から邪険にされることに慣れた様子で彫像のようにただ単に屹立している。僅かに仮面の下からは呼吸のする気配のみが感じられた。
彼がこの役職につくまでおよそ三年かかった。だが、当時としてそれは異例の出世である。
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