異世界にいったったwwwww

あれ

調査

グリア商隊(後に、衛軍輸送部隊の一角として記録されるが正確に言えばこれは誤りである)12月中旬から翌年の1月まで正確な記録は残っていない。
とはいえ、当時の事を回顧録として様々な関係者に当たった重要な資料が近年発見された。それによると、主戦場となっている中原都市国家群の郊外である属州を目指し、そこに至る道が難所として点在していることが分かった。
どれほどの難所かといえば、標高4千メートル以上の山脈の背梁を渡り、崖のような下り道を進むものであった。酸素濃度も薄く、登山装備も満足にない彼らにとって、また物資輸送という観点からも容易な作業とは到底言えなかった。





 小隊(この時点で軍事的正確を帯び、衛軍の隷属と見做された為、こう記す)ノーグ村を発したのは12月13日から15日と予想される。
出発当日、朔日から散発的に起こった夜吹雪の終りであった。早朝、澄んだ大気は光を浴びて微粒子が燦爛と反射しているのがみられた。地平は霜が降り、飴細工のような色調に凍えていた。
 冬装備として橇を新たに新調し、馴鹿に牽引させた。更に、火槍は追って商会各店舗より出荷される予定であり、受け渡し地点にノーグが選ばれた。
 ただ、心配なことがある。
 近隣の村を襲った衛軍の残党である。彼らは独立行動を行っている為、ほとんど高級な野党といって差し支えない状態だった。無軌道な行動が影響を被るか考えるだに恐ろしくなっていた。
「連中の対処はどうしましょうか?」
グリアが分厚い黒の外套に身を包み、喋る度に白い息で視野が曇る。
「――そうですなぁ、ひとまず此方の戦力は最大で八〇〇で、相手は倍以上。手を出さずに考えても到底、無視できる存在ではない。思うに、此方の物資を奪う可能性すらある。敵は人でなく獣。ゆめゆめお忘れなく」
厳しい口調でガンツが白鬚を捻る。深い眼窩から地平の彼方を望んでいる。
「それにしても、我が娘たちの行く先のご配慮……まことにかたじけない」
「いいや、当然のことです。当分は商会の店舗に向かって頂き、そこで得られた情報から安全な地域へとお移りいただくというだけのこと」
「ハハッ、この齢になると肉親の心配だけが頭にありましたが冷静に考えればこのガンツ、そもそも家庭人ではないことを失念しておりましてなぁ」
苦い顔に僅かな微笑が含まれていた。それは一番の本音だったのだろう。




午前6時半というのが彼らの出発した時間だと推測される。
まずノーグを発し、巡礼者の使う古道を村人に案内させ、次いで尾根ルートかあるいはカルデラルートを選択し、山脈に挑んだ。しかし、ここで問題となるのがグリア率いる小隊がどれほど衛軍の情報を掴み連絡できていたか、という点である。


ここに面白い文章がある。
「古人曰く、動植物を媒介とし、連絡する。尚、その方法異端審問の為に人材多く失い今に伝わらず」
これは当時、といってもグリアたちの時代から下って150年後のことである。この時は民間伝承を継承する地域の人々が虐殺されていた。理由として、単純なことに信仰問題がある。旧中原地域はこの文書のかかれた時代には抜殻同然で、往時の面影はどこにもなかった。その空白地域に各国から異教徒や迫害を逃れた人々が移り住んだ。彼らは国教を信じない代わりに民間の療法や技術を引き継いだ。国教の教えには民間伝承は悪魔の教えとして伝えられた為、人々は150年かけて放棄せねばならなくなった。しかし寧ろ、問題は教会の言い分以上に村や町などのコミニュティー内で監視傾向と同調圧力が高まった結果であった。


 話が脱線した。ともかく、筆者が類推するにまず伝書鳩での通信が考えられる。また、その伝書鳩にスキュレータ暗号を施すことによって機密を担保したと考えられる。なぜ、そう言えるのか? 筆者は偶然、宗教虐殺時代に遺された遺跡の発掘調査に随行したことがある。ここで、様々な出土が期待された。
 結論から言えば、大戦果であった。虐殺時代の遺物、つまり牢屋の中で隠された文字が次々と煉瓦壁から発見された。が、残念なことに文字が欠けてしまったり、判読不可能文字があるために完全とは言い難かった。脱線ついでに、もう一つ語らせていただく。筆者はその中でも心を打ったのは牢獄内で白骨化した人々の遺骸であった。家族単位で白骨化しているものもあれば、拷問のあと夥しい遺骸。また、石質の壁に刻まれた当時を物語る悲痛な叫びの記録。彼らは爪や歯、あらゆる方法で解読されない古代文字で記録を刻んだ。筆者はそれを解読するたびに、ある複雑な気分になっていった。だが、それはあくまで本稿には関係がない。




それらの新資料を参考に今回の事を総合するとまずこういう事である。
グリアはノーグ到着時に伝書鳩(各村には通信用の鳩を飼っている場合がある。ノーグはその可能性が極めて高い)から、連絡を行う。尚、商会出発前に衛軍の位置はあらかじめ教えられていたものと考えられる。その場所へ伝書鳩を飛ばす。この当時は頻繁に戦争で伝書鳩を利用されたため、鷹などで妨害される危険もあったが、その場合にスキュレータ暗号が活用された。


 と、ここまでで連絡手段は判明した。
 では問題の登山ルートである。当然だが、季節は冬でしかも標高四〇〇〇メートル級の山々で最も困難な時期といえる。まして積荷の部隊。ここで、筆者は長く足踏みするハメになった。予想と事実などというのは常に近似状態にあるか乖離状態を帯びている。時々その両方の顔をみせる事実が発見される例もある。それは、世紀の発見という奴である。





「急報、南里三、正斜方位西南里二・五より敵襲あり」
 偵察兵が戻るなり言い放つ。
 ノーグを出発し、登山ルートに至らんとしていたグリアたちはここにきて歯噛みをした。まさか、このような正確な時点で襲われるとは。対策という大作方法がない。第一、全ては急場しのぎから始まった輸送作戦なのだ。それをグリアの機転と皆の努力を以て乗り越えてきたのだ。
 そもそも、八〇〇の輸送部隊が残党風の軍勢数千に襲われればまともに対処する手立てがない。
(……なぜ、こうも厄介ごとが)
 思えばこの旅は危機につぐ危機で、気の休まる頃がない。
流石にグリアといえども意気阻喪の風が見られた。
「とにかく、登山口まで目前だがやむを得ない。山の斜面を背中になるべく遮蔽物の多い場所に陣を張り敵を迎え撃つ。幸い、軍事物資を輸送している、それを活用しよう」
 ガンツがつぶさに周囲の兵の状況をみながら伝令兵に言い添える。老将の長年の経験が発揮されていた。部隊はひとまず、遭遇予定時間の二刻半をひたすら迎撃の用意に追われた。
 「まことにかたじけない。直ぐに命令を出すのが俺の役目だったが……」
その様子を馬上から眺めながらグリアはポツリと漏らした。
「いや、何の。軍事顧問としてはやりがいがありますな」
快活に体格のよい老人は笑う。


 更に急報!


別方面に飛ばしていた偵察兵が戻るなり叫んだ。


「今度は一体なんだ?」
内心冷や汗をかきながらグリアは敢えて鷹揚に頷いた。



コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品