異世界にいったったwwwww

あれ

再会の卓

「それにしても軍師か」と反芻するように口にした。「……軍師とはよく言ったものだ。この老体は軍事顧問という位置がよいのだがな」


 すると真剣な顔つきでグリアが、


 「お戯れを。貴殿とであれば或は……」




 青臭い反応にガンツは暫し眉を曲げ、諦めたように小さく頷く。


 「ここで良い機会だ。この世には……或は純軍事的な意味合いで言えばこのガンツを凌ぐ男があることを教えよう」


 秘密だ、とでも言いたげに声を潜め煙草を片付けはじめた。


「まさか、そんな男なぞいるはずがない……」


「ところが! いや、ガルヴァーヌ学派は優秀な門徒が多く中でもアーロンの懐刀である男もガルヴァーヌ学派の一門と聞き及びますぞ」




ガルヴァーヌ学派とは、我々で知るところの陽明学やあるいは古学、更にグノーシス主義的な意味合いを持っている。けだし、我々のそれと違い、学問体系は完全には確立してはおらず尚模索の段階であり、その意味では諸子百家の頃を彷彿とさせる。


席を立つとグリアは怪訝な表情をしながら部屋を歩き回る。


「なぜ今そのような話しを? もし、このグリアの軍師がお嫌ならハッキリ明言して頂きたい」


するとガンツは「アッハハハハ。そう血気にはやらずとも良いでしょう。そうではなく――他日、いよいよ大事を成すとなれば必ず必要な男です。まぁ、一般的に言えば変人ですがな」




 グリアはやや勘ぐる調子で、


 「名をお聞かせ給わん」


 皮肉に訊ねる。


 「その男の名……リーク・ベル・ハルト。彼は星読み(この世界でいう天文学者、あるいは測量士、測量士、など多岐にわたる職業。しかし、世間では尊敬されず、寧ろ変人の職業とされている。)でありますが、嘗てガルヴァーヌ学派の中でも異端児を多く育てた塾がありましてな。そこで、彼は知る人ぞ知る男なのです。軍事は誰も認めませんでしたが、このガンツの見識によると、常人を超えた存在」




 淡々と、しかし真に迫った言葉で告げる内容にグリアは心を動かされつつあった。中級国家を大型都市国家程度に育て上げた矍鑠とした老人にこうまで言わせる人物。それがどのような人物なのか……会ってみたくなっていた。


「思うに『智龍ちりゅう』とでも形容しましょうか。人徳は皆無ですが、才能は本物です」




 グリアが目を瞠り、やがて或意思の焔が灯った。




 「約束しよう。他日、その男を訪ね、必ず重く用いよう」




 『おいおい、まてまて。そんな話し、オラァたちは聞いていないぞ』




 どこかで聞き覚えのある声がした。まさか、とグリアは声の方向……部屋の扉口の裏から気配がする。




 「まさか……ザルか!?」




 そう叫ぶと、扉を乱暴に開け放ち澱んだ紫煙の空気を新鮮な大気と混ざり合い数個の影が靴音をたてた。


 「このモグラも忘れては困るぞ」小鼻をヒクヒクさせ、鼻を啜る。




 「――おお、モグラ。お前たちがいれば百人力だ。しかし、どういう事情だ?」




 ザルとモグラは顔を見合わせ難しい顔をしながら見合わせていた。


 おもむろにモグラが口を開く。




 「事情は後で説明する。それより、後続の到着もできた……全部あつまると大小合わせて五十艘がこのノーグに到着する手筈だ。んで、大将どうする?」




 久々の言葉だ。




 「ほーぉ。大将と呼ばれているのか」




 さらに扉の奥には灼けた肌の黒い男が佇んでいる。……荒くれバウ。そう、彼が腕組みをして話しを聞いていた。


 「アンタ、人望はあるんだな。バザールやあちこちで潜伏していた黒馬の民を名乗るバカな連中がアンタを追いかけて欲しいとコッチに頼んできやがった。ハッ、泣けるね。まぁ、実際荷物の護衛がないとキツイしなぁ」




 目下、中原は大戦争の渦中である。兵力を持たないまま戦争をすることは裸であるのと同然だ。




 「……護衛の数がどれほどかわからんが、それを考慮して作戦を立案しよう」


 ガンツは白い雪のような髭を揉み、思案深い息を漏らす。




 バウ及び現状確認で計算した兵数が次の通りであった。




 ……黒馬の古参兵 三〇〇


 ……船員の兵力 五〇


 ……その他(ガーナッシュ援軍) 一五〇




 合計 五〇〇




 計算簿を付け終わったガンツが羽ペンを紙の上に置き、改めて唖然とする。よくもこんな兵力で中原の諸国に喧嘩を売ろうとしている事実に。




「中々の大軍勢を率いるなぁ」


 ガンツは隣の若者に意趣返しの皮肉を吐かざるを得なかった。




 しかし、青年はただ金髪の旋毛を峡谷を抜けて吹き付ける風を気持ちよさそうに受けながら「やるからには泣き言は無駄だ。さぁ、地獄へようこそ」


 空のように澄んだ瞳を巨大な川面に投げかける。太陽に照らされた黄金の甍のように数十艘の船が輝く。小さな波の揺れで船体が微かに上下に運動していた。初冬の空気は混じりけのない純粋なものだった。




 かくして、グリア商隊は僅かな手勢を以て敵中を征こうとしていた。




 

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