異世界にいったったwwwww

あれ

検問

暗い水面に十三ほどの燈火が点った檣が前方から二つ程、確実にやってきた。警備兼・通商管理の地域巡回船である。中原の河川に通じる場所は当然、幾つもの巡邏じゅんらがある。
昔は検問なぞ大した事はなかった。




賄賂の横行も嘗てはあったのだが、現在はパジャの管理下のもと厳しくした。結果として役人の腐敗はマシになったものの、現在のグリアにしてみれば余計なお世話となっていた――



「おい、貴様たちッ。そこの商船。停止しろ」
空気筒から警備水兵が叫んだ。五隻先行していた運河商隊の針路を塞ぐ為、「ハ」の字型に追い詰めだした。これでは停船せざるを得ない。マストから一部始終を眺めたグリアは腕を組んだまま、憮然とした表情で成り行きを見守っていた。


「符割はあるか?」


符割ふわりとは、昔日本と支那大陸の貿易で利用された道具である。あらかじめ一つの文字を書いた板がある。それを真っ二つに割る。貿易の折り、正式な貿易相手かどうかを保証する物として活用された。……が、実際は人間同士の顔なじみの信用の方が信頼性を担保されていた。


――それはともかく


元々用意していたガーナッシュ商会の符割を持った船員がグリアの傍に駆け寄る。
「どうしましょう? 大将」近づく燈に目を凝らしながら、船員は息を呑む。
が、未だグリアは沈黙を守りつつ高い鼻梁を前に固定している。
甲板にはワラワラと船員たちや輸送の人夫など、彼らが醸し出す不安や緊張の空気が船全体に澱んでいた。




両舷に警邏船の梯子か掛けられ、一三人ほどの警備水兵が甲板にやってきた。周囲は異様に灯火で明るくなり、目が眩む。運河の水面には幾重もの波紋が浮かび、その水膜の表面には仄かな淡い橙色に染まっていた。その川面を眺めるガーナッシュ船員達は皆、悠久の時に思いを馳せた。一時しのぎの現実逃避である。


ともかくも、不気味な検問が始まった。
まず、甲板のチーク板を踏む音が幾つもあり、木床は不気味な軋みを上げた。
「こちらが、符割です」
船員の差し出した符号を乱暴に受取った男は右に控えていた部下らしき男の掲げて持った松明をひったくり、自らの手元に寄せる。


「なるほど、確かにこれはガーナッシュで発行されている正式なモノだ」
ほっ、と渡した船員が息をついたのも束の間。
「しかし、定期連絡にガーナッシュの商船がこの運河を渡ってくるという報告は一度も受けなかったぞ。なぁ――」
と後方へ確認をとる警備の水兵。部下も書類を捲る音をたてながら「ええ、連絡はありません」と同意した。
「これは一体どういう事かな?」
目前の船員に詰問した。突然の切り返しにタジタジとなって、すっかり口篭ってしまっていた。普段、喧嘩慣れした船員たちも遠巻きに事の推移を見守る。現状の危うさを理解している為下手に手出しができない為であった。


ギィ、ギィ、と唐突に床を踏む別の靴がある。
「ここの責任者は俺だ。どうした」
意外にも大きな声が周囲にこだまする。
薄い夜の闇から、縮毛の金髪をした大男が口ごもる船員を退け、現れた。その自若泰然とした様に警備水兵は暫し唖然とした。





「ほう、貴様が……」
威厳を保つように襟首を正し、
「では現状を知っているだろうな。・中原は今、戦争にある。怪しいものは皆、ここで止めている。ガーナッシュは有名だが、キサマらはそれを偽った輩とも限らん。定期連絡が入っていない。また、積載している荷物に万が一、武具などがあれば言い訳はどうなさるおつもりか?」
皮肉のたっぷりと効いた口ぶりでグリアに訊ねる。無論、警備兵長である彼はこの商隊を「クロ」だと思っている。


……さぁて、とグリアは顎の無精ひげを一つ撫でながら欠伸を漏らす。


「……ん? ああ、そうでありましたなぁ。如何せん此方も連日連夜輸送運搬の繰り返しで眠くて眠くて」憚ることもなく、無遠慮に欠伸をする。
兵長は苛立った容子を抑え、
「ではこの積荷はどこへもっていく?」
「そりゃ、ノーグ村でしょうな。あそこ以外に接岸できる場所はないもんでね」
「ほぉ……」神経質そうな細い目を更に細め、「どんな要件だ、一応荷物を調べさせてもらうぞ」
後ろに固まった警備兵たちが槍や剣を握り、船員たちを威嚇しながら歩き出した。


「貴殿、名前を名乗れ」
「――グリアだ」
「グリア……どこかで聞いたことのある名前だ。まあ、いい。見聞する為、ついてこいグリア」
まるで連行されるように周りを敵に囲まれながらグリアは船の倉庫へと向かいだした。
不安になったのか、
「グリアさん、一緒について行きます」
先程口ごもった船員がいうと、
「来るなッ!」
鋭く反射的に吼えた。
その声は他者を絶対に威圧し肝を冷やすような声だった。思わず周囲を囲む敵兵も腰を砕かれそうになった。グリアは悠然と首を回し、「……その気持ちは感謝する。さ、行きましょう。案内します」
事も無げに先を促した。









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