異世界にいったったwwwww

あれ

海の交渉

……一度、盗賊という奴を信用して痛い目にあった事がある。
落ち度があったとすれば、それは完全に「人」を信用した、嘗ての俺個人の問題だ。グリアは守衛の後ろを歩きながら、ひとり穏やかに反省の念を深める。
潮の匂いが更に濃くなった。
ふと、左右を見ると不規則な岩盤の隙間から海が覗いている。打ち付ける海嘯は雫となって砕け、うみねこの鳴き声を聴きながら岩襞の細い通路を通る。足元は砂粒だが、途中から天井が強く翳り、細い光も途絶えた。
「ほぉ、こりゃあ、デカイなぁ」思わず縮れた金髪を靡かせ、感嘆の声をあげた。
守衛の一人が頭を回し、
「まあ、始めての奴はだいたいそう言うからな」
自慢げに笑った。
一定の感覚でカンテラの温かみを帯びた光が連続して湿った闇の道を照らす。その点在した灯りの背景には僅かな輪郭だが、巨大な難破船が体を浅瀬に左舷を稍傾け、岩礁に支えられながら均衡を保ち、海に浸りながら存在しているのが灯りの輪と重なることで漸くわかる。
「これはどうしたんだ?」
別の守衛が答える。
「お頭がみつけたんだ。どこかの貨物船か探検の船だろうな」
嘗てグリアの知る船、銀の匙号より3倍の大きさがある。それだけでも驚愕していたのに、更に通路の各部分に侵入者を排除する罠が仕掛けてある。巧妙な位置にあり、思わず恐怖より関心と興味が先立った。



さ、着いたぞ。
衛兵二人がカンテラを掲げながら通路の半ばで立ち止まっていう。
グリアが仄暗い道に目が慣れてきた頃、そう告げられた。まだ目が馴染んでいないのだろうか、と訝った。しかし、周囲を見回しても一向部屋らしき部屋もなければ扉もない。はて、と「部屋かなにかではないのか?」気軽に訊ねる。が、内実グリアはいつでも鍔を切れるように左手に神経を集中させる。
と、守衛の一人がカンテラをもうひとりの守衛に預け、踵を返す。
「……パウに会いに来たんだよな?」その声は真剣そのものだった。
思わず態度の変調に困惑したグリアだったが、
「ああ」強く頷く。「会いに来た。パウに――」
返答に満足したのだろうか、「ガハハハハハ」と笑う。
「ワシがパウだ」
「――は?」


「いや、騙すつもりはないのだ。ワシがパウだ。荒くれパウ。よろしく頼む」
差し出された手を見つめながら、グリアはようやく理解した。


「それでワシに用とはんだ?」
通路の三叉路のような仄暗い地面に直接腰を下ろす。グリアはそれにならい座した。天井の鍾乳洞から水滴がポタポタと落ちる。
「実は、運搬に協力して欲しい」
単刀直入に願い出る。グリアには盗賊という連中を心の底で嫌悪した。仮に彼らが信用できる連中であったとしても……だ。だが、それ以前に今回の話しにノッてきてくれるかどうかが又問題でもあった。彼らの協力を得られれば輸送の問題を解決してくれるだろう。
「フム……干しアワビはいかがか?」
パウは海の男らしく、逞しい筋骨をもっている。髭とモミアゲが繋がっている。鯨の刺青を彫っている。幾重もの傷跡は歴戦の戦士のそれと変わらない。
「……で、話しにのって頂けるか?」
アワビをかじりながら、グリアは焦れた。生憎時間がない。本当であれば交渉を根気づよくする場面であることは承知の上である。更に、海の盗賊にも又、グリアは無意識の嫌悪を持ちながら喋っていた。
その態度を知ってか知らずか、パウは話しを上手くはぐらかした。
「グリア、といったか。アンタはなんで、そうまでして中原へ火槍を輸送したいんだ?」
「それは……友、ウールドの為だ」
ほう、と嘲笑に似た表情で更に問う。
「じゃあ、そのウールドを寄越してくれ。アンタは根本的に思考が明確で、恐らく正しいんだろうな。まあ、平凡な変人と違って見所もある。」
「――だったら」
しかし、グリアの期待はピシャリと撥ね付けられた。
「が、それだけさ。ワシたちは元は漁民だ。が、このご時世普通に生きていくだけじゃあ食い扶持を保てねぇ。弱けりゃ喰われる。そうだろ?」
「ああ」
グリアの脳裏に苦しい思い出が甦り、苦いものがこみ上げる気分だった。
「だろうな。アンタ自身、なにをしてこれた? それがワシたちを動かすだけの信用にたる実績か? いいか、ワシたちはカネも物品も勿論必要だが、仕事を共にする奴には一番必要なモノが〝信用〟なのさ。どれだけ偉そうな言葉を吐く奴でも信用がなけりゃ仕事はしない。どうだ?」
暫しグリアは躊躇ったが、
「俺は、――俺はある砦を指揮して都市連合の五倍の精鋭と戦った。こうして、俺は生きている。ガーナッシュでは各商会で平均になるように航路と計画を立案し、成功させた」
パウは動物的な顎を止め、
「なるほど……まあ、嘘はホザいてないようだな」沈黙が二者間に流れた。「詳しい内容をきこう。契約はそれからだ」
グリアは僅かに安堵した――が、信用はしていない。盗賊の手合いには二度と信用して痛い目には会いたくない。あくまで、任せる範囲を決めるだけだ。更に交渉はこれからだ、と肚を引き締める。



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