異世界にいったったwwwww

あれ

マックス将軍

マックス将軍は驚くべき報告を受けた。


「――行方不明だった最左翼支隊、無事合流できたとの報告です!」


野営していた陣地に久々の吉報が届いた。ボールドウの率いた軍勢が俄かに押されつつあった。中原の玄関口の都市国家と幾つかの河川に架かる主要の橋頭堡が全て奪取された。これにより、中原流入への勢いは減速し、更に主人であるガルノスが別の国の内紛の為にこの場にいないということだった。


 表向きは執務のため、と言い訳をするが実際の内情を知っている騎士からは「まさか、自分ひとりで逃げたのでは?」という不安が囁かれだした。


 北方の賢王麾下の忠実な臣下達は着実に中原への秩序回復を行っている。そのため、マックスにも全軍の士気低下が如実に感じられた。




 つい、数日前。


 マックス率いる左翼軍は都市国家陥落のため、周囲を固める砦の攻略に向かっていた。夜発し、未明にかけて到着するハズだった。しかし、四刻ほどから濃霧に囲まれ、折り悪く五刻頃に敵軍と遭遇してしまった。いわゆる、遭遇戦である。乱戦、白兵戦の類であり、味方同士での同士打ちも頻発した。




 マックスは内心忸怩たる思いを隠し、陣頭指揮に当たった。幸い、敵軍は予備軍のないために早々に引き返した。けれども、砦攻略に向かうはずだった計画を大きく変更せざるを得ない状況とされたことも事実である。




 その中でこれまでの激戦をくぐり抜けた部隊長の姿がないことにマックスは気がついた。彼は最左翼を担当し、常に粘り強い戦いで貢献してきた人物である。




 (よもや、討たれたか?)


 不吉な想像が頭を掠める。




 しかし、結局はそれも杞憂であった。


 「よかった……」


 胸をなで下ろす風に呟くマックスに対し、伝令兵は言いにくい顔で続ける。


 「恐れながら、一つ、問題が。」


 「問題? どういうことだ?」


 「ハッ、軍法会議ものの……」


 「どういうことだ? 裏切りか?」


 「いいえ、この数日間で、かの部隊内での食人行為があったとの報告がありました。」


 「食人? ま、まさか……」マックスは乾いた笑いを漏らし、その実頬は氷のように冷たく固まっていた。


 2


 食人、カニバリズムについて考えてみようと思う。




 ミニョネット号事件は米国の作家エドガーランポーの予期したのでは? と囁かれるほどの有名な事件である。食人とは文字通り人間が人間を喰らう行為である。通常の道徳観念のある人々でればそれは忌諱されるべき行為である。




 しかし、翻って考えようと思う。現在の地球上の人類でも食人を行う民族は少数ではあるが存在する。それが合理的目的か否かは置いておき、嘗ての文化として存在もしていた。


 例えば有名な事例には三国志演義の劉備をもてなす男主人がある。彼は自分の妻を料理として差し出すというものである。これは当時の貴人をもてなす一つの文化だったと言われている。……が、当然であるが現代の我々にはそれは忌諱されるべき事案である。




 確かに、人が人を喰らう合理的な理由はない。また、寄生虫の関係で脳みそがやられる、という実際的な問題もある。けれども、だからと言って、人間が人間を喰らっては絶対にいけない、と言うならば極限に取り残され、生き残る術として行われる食人にもその理論は通用するだろうか?




 これに関連する問題に、かつて都市伝説であった「ミミズ肉」というものがある。




 ミミズ肉とは、ミンチ状の肉、つまり挽肉の原料がミミズではなかろうか? という噂である。しかし、このミミズ肉を考案した人物(噂を流した元凶)は相当の天才であると、考えられる。理由はいくつかあるが、最も凄いと考えさせられるのはミミズは切断による増殖が可能な訳である。もっと正確にいうならば、個体数が増えるのだ。それは原料としてまことに優秀である。


 また更に、牛や豚のような家畜と違い、生皮を剥ぎ取り、内蔵を取り出す、という工程が簡略化できる。ただ、ミンチにして、他の肉と混ぜてしまえば良いのだ。しかも、それが増えるのだ。


 ただ、唯一の問題はそのような調理が「気持ち悪い」という拒否反応である。それが故に都市伝説として広まったのだから……




 けだし、ある種の合理性を追求した場合寧ろこのミミズ肉ほど合理的なものはない。


 仮に、その拒否反応はミミズ肉によってのみにしか適応されないのであれば、たとえば牛や豚の皮がなく筋肉質が剥き出しの状態で闊歩させると、ミミズと同じ段階で嫌悪感の議論が可能である。また、そこまで極端にならずとも、普段我々が食す肉は家畜を殺す「合理的」な工場で処理が施されている。


 豚、牛は察処分されるために連れてゆかれるのがわかるらしく、相当苦労するらしい。


 そういう観点から見ても、ミミズは最良といえる。何より、罪悪感がない。また、明治の日本では牛肉は忌諱の対象であった。しかし、時代の順応と共に嫌悪を抱かず食べるようになった。


 つまり、「生理的嫌悪」であったり、「気持ち悪さ」さえ克服できれば、ミミズもまた最良の食材として扱えてしまう、少なくともそういう合理的判断が下せるわけである。


 要するに、人間というのは適応の生物である。今現在我々が当然や当たり前という部分が、生理的、本能的に持っている所にまで道徳が順応しているとしても、いずれはその道徳は変化するのだ。


 現人類と、少し未来の、或は少し過去の人々を区分するのは「嫌悪」と「道徳律」と「適応」なのかもしれない。


 また、我々はこの地球上に未だ食人族があって、それを忌諱しているとはいえ、それも一つの文化であるということを理解せねばならない。まして、異世界という我々の常識では推し量れない人々を勝手に水量して、自分の価値観を押し付けてはならない。




 ……と、長々と無用なことを記した。


 何が言いたいか、といえば、この異世界でも当然食人は忌諱されるべき存在であった。いくら、異世界の文化とはいえ、人類の思考する点は然程の差異はないということであろう。




 マックスはただ呆然と、


 「秘密軍法会議にせよ。」


とだけ力なく命令した。




 彼は、他の同僚とは異なる場所で作戦を遂行しているのだ。主人ガルノスの帰還の日まで、なんとしても軍を支えなければならないと自負していた。

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