異世界にいったったwwwww

あれ

老骨

〈播〉の国、高等顧問のガンツは困惑した表情で若き主をみた。




「……おい、ガンツ。余の命令に逆らうとでもいうのか?」


「いいえ、そういうワケでは決してございません。ですが、この時局でガルノス派に与するというのは些か危険という他ありません」


議会堂の執務を王が行う一室にひる過ぎの柔らかな日差しが差し込む。ワインレッドのカーテン、絨毯は陰影を明確にした。


若き〈播〉の国主は視線を彷徨わせる。想い出したかのように、「なあ、ガンツ」と意地悪く口を曲げる。


「貴様、先代の王に大層気に入らてれておったな。それで軍制改革やら政治改革、他にも着手したと聞き及ぶ」


漆黒の軍服を纏った老境ではあるが、鍛え抜かれた男――ガンツは深く礼をする。


「その御恩忘れてはおりませぬ」


なにも、責めているワケではない。と若き国主はいった。


ガンツは内心、嫌な予感がしていた。いいや、そんな予感であればとうの昔から……国主の交代と時期を同じくして感じていたのだ。


『あのバカ息子がもし、この国を悪しき方向へ導くならば、貴様と他の家臣で国を奪っても良い』死の間際、先代の国王はそうガンツに語りかけた。しかし、ガンツも又他の家臣もそれを了承する筈がなかった。それから、国王の死去後、すぐに王位継承権問題が勃発した。この国のしきたりとして、国王が死に一番早く王宮に駆けつけた者を王とし、さらに王命で発布することが条件とされていた。


(まさか――)


ガンツ他の先代国王に仕えた忠臣たちは驚いた。慣例であれば王位継承は長男であり、形式的な継承争いは行っても実際の殺し合いはしないのが、それまでであった。が、今度は状況が違う。四男だった王子が突如辺境の領国から兵と常備軍の若手将校を率い、王都に迫った。突如のことに、長男の王子は王都の守備兵数百て対峙したが、結果は無論目に見えていた。


たった五日の間に王命で発布を行い、かくして〈播〉の国は若き王の手中におちた。


それ以来、といってもまだ数ヶ月のことである。しかもその国内不安も収まらない中、突如中原での大戦が始まった。到底、ガンツにはついてゆくことのできない事態である。彼自身はガルノスとも接近していたが、それはあくまで通商での問題であって純軍事的な安全保障においてはむしろパジャに接近していた。その為、先見的な軍事改革はパジャの資金援助故に成功したとっても過言ではない。とはいえ、常備軍はあくまで防衛の為の装備であって、決して戦争を行う為の手段の目的化はガンツ自身が避けたいと考えていた懸念である。


(それをこの若い国主はどうだろう……ただの戦争狂いだ)


「なぁ、そちは以前ガルノスに接近しておったな?」


「はっ、しかし彼とはあくまで通商での……」


カッ、と目尻を開き、若き国主は怒鳴る。


「貴様、この余をたばかるかッ!!」


「滅相もございません、しかし、お考え直しくださいませ。万一にもガルノスには勝利できる確証がありません」


ゆったりと、ガンツを見下す。


「だから? 余の采配で救えばよい。幸い、軍の将校は余のことを信頼しているぞ」


粛清の嵐が三週間で行われた。無論、ガンツの古馴染であった有能な将校も数多く処刑台に上がった。また、この若き国主は内心ガンツを憎悪している。しかし、この国の政治軍事経済の要がガンツであることもよく理解しているために顧問という立場で生かしているにすぎない。そういう状況が続くと流石のガンツも眩暈に似た感覚を覚える。


「ともかく、余及び〈播〉の常備軍予備役含め全て一万五千はガルノス派へと与する。今より宣戦布告をパジャに送る」


 この若き国主は劇的なまでの成果が欲しいのだ! それも兵卒の命を対価として……なんという不埒な男だろうかッ。思わずガンツは歯噛みする。


「で、ですが……」


「くどいッ、それ以上喋れば処刑台に送るぞッ」


ガンツは視界がボヤけて暗くなったような気がした。――もう、この国は駄目なのかもしれない。あの先代の王と築き挙げた国家は今、この若き王により滅ぼされようとしている。今から軍を説得しても王への忠誠を誓う将校ばかりでだれが老骨の言葉を聞くだろう。議会も同じだ。王、及びその一派の議会制圧は既に完了している。教会も――手が回っているだろう。そういう暗い政治力にはこの若き国主は長けているのだ。


若き国王は嘲笑混じりに、ガンツに視線をむけ、


「ご苦労だ。いままで国のために尽くしてくれた恩に余は報いて貴様の命だけは助けてやる。さあ、どこへなりともゆくとよい。ただし、この国の土は再び踏むでないぞ」
ガンツの白い髭に隠れた口は悔しさに血が滲んでいた。



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