異世界にいったったwwwww

あれ

出発にむけて9

 ……胸が疼く。なんだって、俺はこんな気分になるんだろう。しかし、初めて俺はこの異国の少女――〈マキ〉という娘と2人きりでいるような状態はなかったハズだ。今まで俺は武略、自己の腕っぷし、勘、そういったことばかり考えていた。無論剣の腕前だったら義弟のエイフラムの方が強いし、武略にしろ、何にしろ上には上がいる。見上げれば果てはない。




 十四の頃から俺は黒馬の民を統率する者として育てられてきた。常に黒馬の民の事を考え、生き、全てを捧げることを教えられた。それから数十年……なぁ、言葉にしたらこんな簡単なことってねぇよな。俺は今ままで奴隷の開放で英雄気取りだったんだ。俺は今まで誰かに感謝されて生きていると思ってきたんだ。だがそんなもん全て全て、……本当に全て幻影でしかなかったんだ。






 俺は、一体俺はあの砦の陥落の時、何をしていたんだ? 偉そうなテェメ自身は――ああ、そうだァ。俺のせいで全てを失った。いいや見殺しにした! 生きている俺は、本当は臆病者の俺はこんなところで、息を殺して生きている……




 気が付くと、俺はマキの細くて脆そうな両肩に手を置き、強く彼女の存在を感じていたんだ。




 『私を信じて』




 そういった彼女――マキの眼にはいっぺんの曇りもなかった。その瞳の奥には芯があった。俺には何も備えてはいない物を、彼女は全て持っていた! きっと、俺じゃなくてこういう娘が俺の主であれば、どれほど生きやすいか。こんなにも、弱くて……そうだ、初めて助けたあの日のマキとはまるで別人だ。彼女の吐くと息の微熱が俺にはよく知覚できる。何故こんなにも敏感なのかは俺すらも分からない。






 ……もしかしたら、俺はこういう〈マキ〉のような少女を本当は〝必要〟としているのかもしれない。






 黒馬の民の奴らが俺を慕い、ついてきてくれる、そういう必要性とは方向の違うモノなんだ。それも、もちろん嬉しい。だけども――誰か隣で添って歩き支えてくれるような存在が本当はいてほしかったのかもしれない。だが、俺にはもう何もかも遅過ぎた。誰かを個人の感情で繋ぎ止めるようなことをしてはいけない。少なくとも、俺の見殺しにしてきた砦の仲間の霊が俺を許さないだろう。俺が生き残った黒馬の連中を導き終わるまで、俺が個人としての幸福を手に入れることも、望むことも許されはしないだろうから。




 時々、俺は分からなくなる。嘗て見殺しにした黒馬の連中からもらった物品を見るにつけ、触れるにつけ、言いようもない悲しみというか寂しさがこみ上げる。……俺は、誰かからもらった刺繍の上手い手ぬぐいや、革でできた腰当、首当て。そういうのは全部俺の身に着けているものだった。






 すると、真希の手が、指が、俺の腕に触れるのをみた。






 まるで俺の今ままでの逡巡を読み取るような感じがした。いいや、俺の勘違いだって事は知っている。だけれども、俺がもし、もしも……許されるのだったら、全ての罪から赦されるのでれば、今この時がふさわしいとさえ思える。俺の重荷をこの瞬間に下ろしたくなった。






 真希が俺の容子をキョトン、とした容子で眺めていた。それから、苦笑いしている。






 (そうか……そうだったな。彼女は)




 弟の名がグリアには浮かんだ。あのいつだって俺に憧憬の念を抱いていた弟。しかし、俺にはわかる。本当に凄いのはお前の方なんだぜ、って事だ。いつも眠たげな顔をしながら、俺や他のバカどもが逃げたしたくなるような厄介な仕事をお前が率先して引き受ける。そんでもって、解決しやがる。なぁ、弟よ。お前は本当にすごい奴だよ。




 グリアは諦めというか、それに近い感情の苦しいと息を吐く。




 なんで、俺は おエイフラムに好意を持つ娘なんぞに俺の全てを赦されたくなるような気持になるんだろうな。






 未だかつてどんな戦場でも味わったことのない苦しみがグリアの胸の疼きを更に深めた。今まで、どんな女の前だって、情けない顔をした事はなかった。まして、年下の少女に自分の弱い部分なんて見せることはないと思ってきた――






 『いいじゃないですか、情けなくて。勝てば。』




 そういう少女の笑みが、グリアの戸惑いを一時的に綺麗に洗い流してくれた。






 ……ああ、そうだな。俺は、俺の大事な弟と、そいつを好いてくれてる娘と両方を守ればいいんだ。それが、俺の立場なんだな。






 それからグリアは思いっきりに、笑ってやった。真希はグリアの内心の苦闘を知らず、屈託なく微笑み返す。それが返事のように――






 

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