異世界にいったったwwwww

あれ

出発に向けて4

 奇跡……というモノは形容できるような状態であるだろうか。




 あるいは、奇跡というのは現象とでもいうべきであろうか。人間が、動植物が、或は万物そのもの達が及ぼす関係性の間にこそ〝ソレ〟が介在するのであろうか。誰かが言った。「不条理に満ちている、然るに変革せるは個人になく世界にあり」と。また、誰かが言う。「いやいや、この世の全ては現象であり流動的であり、全てが掴みどころのない水のようなものであるのだ」と。




 1




 皆川真希は曠野を随分長い間走っており、すっかり前後左右の感覚が狂ってしまった。いや、或は自分が何をするために疾走しているのかも分からなくなってしまっている。月は見えない。周囲はただ不気味な薄靄のかかった枯れ木や灌木が鬱蒼と茂るばかりであった。足裏には凍えた大地が足裏の肉の感覚を通して伝わる。




 気温氷点下三度を推移――






 「……っ、はっ、はぁっ」




 肺が苦しい、脇腹が走りすぎで激痛が突き抜ける。けれども、あと一キロもしないうちにバザールの外壁が見えるハズだ……。一抹程度でしかなかった不安が時間に比例して胸の底から膨張する。最悪の事態が頭を過る。本当は馬を使えればよかったのだけれども、生憎出発状況からして悠長と言わざるを得ない。




 (苦しいッ――)




 物理的にだろうか? それとも心象的にであろうか? ……ううん、多分どちらともだ。




 墨汁を水で溶かしたような薄い闇が幾層も積み重なってできた永い夜。段々とできた地平の勾配の稜線は空気の闇と僅かに区別できる程度だ。ただ燦然と夜空の星々の鋭い灯下のような輝きのみが地上へと細かく降り注ぐ。








 「なんで……どうして、連中がッ!!」






 喘ぎながら、叫ばずにはいられない。どうして、バザールに≪盗賊≫が侵攻してくる理由があるのだろう?私は様々な考えを振り払った。だのに思考は心配、不安、そういう言葉で装飾できるくらい増殖して泣きそうだ。あの時全て奪った元凶。大切だった人々の命を容赦なく刈り取った。この異世界で出会った大好きな人たちの、ささやかに生きて喜び悲しむ存在を一切消し去った――




 全部全部、ぜんぶぜんぶ、殆どを――私の目の前から奪い去っていった。






 私の前から一体どれほど奪えば気がすむのだろう。あの時から、〈皆川真希〉という一個のちっぽけな存在を自覚せざるをえなくなった。








 2






 時計の針を少し戻す。






 〈郵便基地〉






 偽物の商会に身を寄せていたグリア一向は今後の作戦を協議していた。




 「そんで、具体的なことをどうするかはもう決めているようだな」






 壮一はテーブルの方で肉を齧りる。椅子の下で右足は貧乏ゆすりをしていた。




 「……うむむ。どうしたものやら」どこか恥じるようにグリアは口籠る。




 「――そりゃあ、」




 モグラが言いかけて、そこで中断した。




 扉が突然に轟音を立てて開かれ、一同はそこに注視せざるを得なくなった為である。そこに佇むのはウールドその人であった。表情は凄愴を極めており痩身となっている現在の肉体を加味して考えれば、幽霊のような雰囲気が漂っていた。






 「ど、どうした?」




 思わず吃るようにグリアが訊ねる。










 5秒が永遠のような長さを感じた後、漸く乾いた唇の間から言葉が漏れた。






 「バザールが盗賊の侵攻を受けているらしい……ッ」




 「ま、まさか」




 壮一が空笑いをしようとした……しかし、タイミングを同じくして建物の外で人々の狂乱に満ちた緊張した空気が木霊する。それから、巨大な焔がさく裂するような地響きと振動がその場にいる全員に否応なく、皮膚感覚で思い知らされた。




 「ここも、今襲われている」




 呟くようにウールドは言うとその場で膝から崩れ落ちて倒れた。

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