異世界にいったったwwwww
出発にむけて3
1
真希は大きく乱雑に切られた根菜類の欠片を木製のスプーンの先で突いて器の底で転がした。薄いスープの中の具材が波打ち小さくぶつかり合う。
頬杖をつき、ぼーっ、としていた真希は不意に聞かれた足音に振り返った。
「……あっ、おかえり。どうだった?」
「なんとか、峠は越した」壮一は血痕を点々と衣服に付着させており、今も頬に滴る血を手の甲で拭っている。大分少年の治療に苦戦したのだろうと容易に推測できた。
「待って。ほら、この布使って」
膝の上に置いた布を握ると、席を立ち扉の方向へ向かう。
「悪いな」
「ううん。別にいいよ。――今、ちょうどグリアが寝てるみたいだから二階に行く時は静かにね」
分かった、と言い残すと壮一も階段をのぼっていった。疲れた背中を見送りながら真希は周囲を見渡す。この場所は偽商会のすぐ裏手にある宿舎の一つである。元々は詰所としてつくられたらしい。店主は流石に店先では目立つから、なるべく目立たずに事を収めようとして、ここに案内した。そういう訳で、正直一行にはこの場所は助かる。
竈を一瞥する、寸胴が銀色に輝いている。実はこれも日本からの輸送品である。壮一直伝の「簡単野戦スープ」と称する単なるスープを見よう見まねで彼女は作った……のだが、食えないほどマズくもなければうまくもない味に仕上がった、という自己評価を真希は下した。
先程味見させたザルは酒の匂いを漂わせながら「薄いなぁー」とボヤく。すかさず真希は筋肉質の脇腹に肘打ちを喰らわす。
「イテェ!」と肘の入りどころが良かった為に、ザルは思わず叫んでその場を退散した。
(それにしても、どんな経緯で――)
少年とグリア達の出会いに疑念こそ残っていたが、真希はゆったりと肩を落として思考の回路を一旦止めた。モグラももうすぐ入ってくるだろうから、無理やりにでもこのスープを飲ませようと画策した。
2
「端的に言うと、危機的状況だ」
モグラがマントの砂埃を叩きながら入ってきて早々口を開いた第一の言葉がソレであった。真希は思わず問い返した。
「ウチでいつも危機的状況じゃない時ってあったの?」
イスを引いて座すと、深刻そうに指を組んでいたモグラの顔が苦虫を噛み潰したような顔になる。恐らく図星を突かれたのだろう、と一人真希は忖度し、手元で器用に「野戦スープ」を注ぐ。寸胴のおかげでまだ温かい。湯気が若干のぼっていた。
「……まあ、それはいい。グリアがあの坊主を助けた経緯は壮一に話した。コッチの事情も無論話した。だが、意外な偶然もあるもんだとつくづく思ったな。いやそういう事じゃない。ともかく、――あ、どうも」
真希の差し出した器を一瞥し、モグラは指を解いてスプーンを手に取る。
「温かい料理は久しぶりだ……」そういうと、そのまま口に運ぶ。
「どう?」
眼鏡の奥の期待の篭った視線を気まずそうに逸らすモグラ。
「ねぇ、どう?」
「――ゴホン。とにかく、憲兵隊の捜索はこの際置いておく。今一番厄介なことは、輸送だ、それも激戦が予想される場所へ火槍を運搬せにゃならん。いくら砦陥落から生き残ったとはいえ、今度は相手が悪すぎる」
「ねえ、だから〝味〟は?」
話しをかわしたモグラへ半ばキレ気味に真希が訊ねる。
首を真希の反対方向へ動かしながら、モグラは咀嚼する顎をゆっくりペースに落としていった。その態度に業を煮やした真希は机を強く両手で叩き立ち上がる。
「――っ、だ か らッ!」
と、そこへ運良く(?)階段からアクビを漏らしながら降りてくる者があった。その靴音を耳ざとく聞き、モグラは声をかける。
「おお、グリア。どうだ、よく眠れたか?」
白い歯を見せながら、金髪の旋毛を一つ掻き、「ああ、お陰様でな」言いながら首筋を揉むように左手を動かす。
真希は座っていた席を立ち上がり、「大丈夫?」と気遣った。
ああ、と答えるとグリアは視線を竈へ流す。
「お、飯か。ご同席してもいいか? そういえば、丸一日なにも食ってないのでな」
モグラは長方形のテーブルの奥から、首を小刻みに振った。
……だが、残念なことにグリアにはその思いは届かなかった。
真希は含羞む様子からもわかるとおり、大分精神的に落ち着いたようだ。きっと、彼の脳中には次の策を巡らしているのだろう……と、一個の男の姿を眺めながら思う。
気遣ってやらねばと、
「だったら一緒に野戦スープと……あ、確か燻製肉があるからそれも一緒に」と竈脇に置かれた背嚢に目を移す。
「何ィ! では、最初から燻製肉の方を……」
モグラが強く訴えた。が、真希は無視し、そのまま準備に取り掛かった。
真希は大きく乱雑に切られた根菜類の欠片を木製のスプーンの先で突いて器の底で転がした。薄いスープの中の具材が波打ち小さくぶつかり合う。
頬杖をつき、ぼーっ、としていた真希は不意に聞かれた足音に振り返った。
「……あっ、おかえり。どうだった?」
「なんとか、峠は越した」壮一は血痕を点々と衣服に付着させており、今も頬に滴る血を手の甲で拭っている。大分少年の治療に苦戦したのだろうと容易に推測できた。
「待って。ほら、この布使って」
膝の上に置いた布を握ると、席を立ち扉の方向へ向かう。
「悪いな」
「ううん。別にいいよ。――今、ちょうどグリアが寝てるみたいだから二階に行く時は静かにね」
分かった、と言い残すと壮一も階段をのぼっていった。疲れた背中を見送りながら真希は周囲を見渡す。この場所は偽商会のすぐ裏手にある宿舎の一つである。元々は詰所としてつくられたらしい。店主は流石に店先では目立つから、なるべく目立たずに事を収めようとして、ここに案内した。そういう訳で、正直一行にはこの場所は助かる。
竈を一瞥する、寸胴が銀色に輝いている。実はこれも日本からの輸送品である。壮一直伝の「簡単野戦スープ」と称する単なるスープを見よう見まねで彼女は作った……のだが、食えないほどマズくもなければうまくもない味に仕上がった、という自己評価を真希は下した。
先程味見させたザルは酒の匂いを漂わせながら「薄いなぁー」とボヤく。すかさず真希は筋肉質の脇腹に肘打ちを喰らわす。
「イテェ!」と肘の入りどころが良かった為に、ザルは思わず叫んでその場を退散した。
(それにしても、どんな経緯で――)
少年とグリア達の出会いに疑念こそ残っていたが、真希はゆったりと肩を落として思考の回路を一旦止めた。モグラももうすぐ入ってくるだろうから、無理やりにでもこのスープを飲ませようと画策した。
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「端的に言うと、危機的状況だ」
モグラがマントの砂埃を叩きながら入ってきて早々口を開いた第一の言葉がソレであった。真希は思わず問い返した。
「ウチでいつも危機的状況じゃない時ってあったの?」
イスを引いて座すと、深刻そうに指を組んでいたモグラの顔が苦虫を噛み潰したような顔になる。恐らく図星を突かれたのだろう、と一人真希は忖度し、手元で器用に「野戦スープ」を注ぐ。寸胴のおかげでまだ温かい。湯気が若干のぼっていた。
「……まあ、それはいい。グリアがあの坊主を助けた経緯は壮一に話した。コッチの事情も無論話した。だが、意外な偶然もあるもんだとつくづく思ったな。いやそういう事じゃない。ともかく、――あ、どうも」
真希の差し出した器を一瞥し、モグラは指を解いてスプーンを手に取る。
「温かい料理は久しぶりだ……」そういうと、そのまま口に運ぶ。
「どう?」
眼鏡の奥の期待の篭った視線を気まずそうに逸らすモグラ。
「ねぇ、どう?」
「――ゴホン。とにかく、憲兵隊の捜索はこの際置いておく。今一番厄介なことは、輸送だ、それも激戦が予想される場所へ火槍を運搬せにゃならん。いくら砦陥落から生き残ったとはいえ、今度は相手が悪すぎる」
「ねえ、だから〝味〟は?」
話しをかわしたモグラへ半ばキレ気味に真希が訊ねる。
首を真希の反対方向へ動かしながら、モグラは咀嚼する顎をゆっくりペースに落としていった。その態度に業を煮やした真希は机を強く両手で叩き立ち上がる。
「――っ、だ か らッ!」
と、そこへ運良く(?)階段からアクビを漏らしながら降りてくる者があった。その靴音を耳ざとく聞き、モグラは声をかける。
「おお、グリア。どうだ、よく眠れたか?」
白い歯を見せながら、金髪の旋毛を一つ掻き、「ああ、お陰様でな」言いながら首筋を揉むように左手を動かす。
真希は座っていた席を立ち上がり、「大丈夫?」と気遣った。
ああ、と答えるとグリアは視線を竈へ流す。
「お、飯か。ご同席してもいいか? そういえば、丸一日なにも食ってないのでな」
モグラは長方形のテーブルの奥から、首を小刻みに振った。
……だが、残念なことにグリアにはその思いは届かなかった。
真希は含羞む様子からもわかるとおり、大分精神的に落ち着いたようだ。きっと、彼の脳中には次の策を巡らしているのだろう……と、一個の男の姿を眺めながら思う。
気遣ってやらねばと、
「だったら一緒に野戦スープと……あ、確か燻製肉があるからそれも一緒に」と竈脇に置かれた背嚢に目を移す。
「何ィ! では、最初から燻製肉の方を……」
モグラが強く訴えた。が、真希は無視し、そのまま準備に取り掛かった。
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