異世界にいったったwwwww

あれ

出発にむけて2

 1




 自由商業都市バザールに至る五街道のうち、陸路と海路を結ぶ重要拠点の一つ。そこは別名郵便顔づと名付けられた。重要拠点〈郵便基地〉と呼ばれるこの地は一日約6千トン以上もの物資が行き交う。殊に穀物の価格変動が極めて激しく、大陸各地に輸送されるまでには再び大きく変化しているだろう。




 言ってみればバザールの姉妹都市である。






 真希と壮一は凡そ12マリ先のバザールの手前、郵便基地にて最後の休憩をとっていた。




 「この馬はもう走れんらしい。チッ、牛にしておくべきだった……」と、無茶なことをボヤくザルが腕組みを思い出した。






 3人は連日の強行な旅に疲れていた。そういう時ほど、無理に行軍する愚かさも重々承知している。また、移動の途中に日本から送られる物資の詰まったスーツケースを二つ拾うことにも成功した。あらかじめ指定された場所に定刻通りに到着できるとは限らない。また誰かが盗む恐れもあった。が、幸いに3人は郵便基地に続く半ばの道で回収が成功した。


 巨大な白色の大型スーツケースは長旅の馬で運ぶのにも十分に難儀したのだが。


 とはいえ正直に言えば真希は殆ど生理用品が尽きて不便が生じていた。その為、タイミングとしては助かる事この上ない訳である。例えば排便は野外でも慣れた。とはいえ、それ以外に必要な物品を凡そ数ヶ月ぶりに入手した訳である。


 (助かった……)


 ホッ、と胸を撫で下ろす間もなく慌ただしく郵便基地のウールド派の商会の店先で図々しく居座っていた。








 居座る事の発端――いや不運な中年の店主について語るべきである。彼は軒先へ突如出現した3人の放浪者をなし崩し的に二階へと招かれざるを得ない状況と雰囲気となっていた。


 ……実態を詳しく語るならば、単なる脅迫であった。まず、店先に馬でとまるとザルが戸を叩き出てきた店主に「交渉」を持ち出した。無論、口のうまい壮一が交渉担当である。しかし、店主も災難である。早朝そうそうに変な連中が店先で勝手を述べるのだ。不審な顔から迷惑顔に変わり「無理だ、ムリ」と拒絶を続けたものの、結局『なぁ、いいだろ!? 顔見知りなんだぜウールドの旦那とはよぉ!』というザルの殆ど脅迫まがいの頼みと、店主の首の裏に回した太い腕で決着がついた。










 「……何かあればグリアの3人達とも合流する手筈だろう」


 遠隔通信機器を太い腕で器用に弄る壮一にザルが訊ねる。


「そうだ」


めんどくさそうに背中で答える。


「しかし、こちらは目的は達成したハズだろう? ならばとっととバザールへ帰ろう」


相手にしない態度にザルは何を思ったか「分かった」とだけ付け加えた。


 丸テーブルに小さな腰掛け椅子に腰を下ろした壮一に、ドシ、ドシ歩んで寝台のような羽毛の詰まった家具に背中を凭れると、巨漢の豪傑は歯に挟まった滓を木の枝でチッ、チッ、と突く。






 「ここ最近の大陸全体、特に中原の情報が欲しい」




 「それが目的?」真希が窓際で黄昏のような光線を浴びた街の輪郭を窓際に佇みながらいう。




 唐突な横槍に多少驚きながら「そうだな。これも長年の勘だ」とだけ娘に言い添える。ふーん、と心ここにあらず、という風な返事で窓の外から一望できる城壁をみている。




 そう、窓の地平線の終わりに壁がある。郵便「基地」というだけあり、軍事拠点としての機能も十分果たしていた。とはいえ、ここ15年はまともに実戦で活用された試しはない。けれども、堅固な作りの城塞を敢えて攻めようという人間はいない。




 この地はバザール同様、独立商人の自治で成立している。






 真希は窓の真反対側に置かれたスーツケースに足をむけようとした時――ダッ、ダッ、ダッ、と階段を急にのぼる足音がした。3人は肩を浮かせて警戒をした。しかし、それも一瞬である。店主が大急ぎで樫の木で出来た漆塗りの扉を開き、「あ、あの……」と口をパクパクと空気を呑む。




 ――はて? どうしたのだろう。




 真希は店主に落ち着くようにいうと、店主は汗を手の甲で拭いながら言葉を並べる。




 「た、大変だ。今、主人さまたちが帰ってきた……」






 それのどこが、一体大変なことなのだろう? と、訝しむザルと壮一を横目に真希は何かに思い至ったように店主の左肩を押し退かして階段を降りた。






 2








 「……真希!? なのか?」






 ギョッ、と眼球を一回りさせるような勢いで喋るのはモグラだった。






 彼はボロボロになった馬車の荷台で悪戦苦闘をしていた。血の固まった衣服と頬を見るになにかあったに違いない。




 「どうしたの?」




 「この少年を助けたい。悪いが手を貸してくれ」




 真希は荷台を覆う白い布の側面を周り、モグラが顔を出していた荷台の尻の方に赴く。と、そこに横たわっていたのは例の少年だった。思わず真希は息が詰まりそうになった……全く事情が理解できない。けれども、運命だと直感もした。5秒ほど活動を停止させた彼女の躰はボールが跳ねたように急いで父と緊急救命道具を運ぶことをようやく思い出した。








  ブーツの踵に高い砂ぼりの柱が幾つも構築されてては風に消えた。






 3






 要するに暖簾のれんの「無断使用」での商売だった。




 「すまない、あんたらの撤退のあと……仕事が無くて……許してくれ」




 許しを請うのは、ウールド派の商店の看板を掲げ商売をしている店主――つまり、真希たちが休憩していた店主である。彼の弁に呆れかえりながらも内心、感謝をしていたのは当のウールドである。グリアの奇策の為に多少の動員と資金が必要となり、予てより削減対象であった郵便基地の支店を畳んだことを今更ウールドは後悔していた。まさかバザール(本店)の目と鼻の先の場所が思わぬ形で活用できるとは! という新鮮な驚きであった。




 しかし、あくまで毅然とした態度で、




「そうか、しかし商人にとっての暖簾はタダではない。信用という重要な資源を削られる恐れがある。が、その話しは後だ。今は店を利用させてもらう」






 「へ、へぇ。そりゃあもう……」






 店主は終始畏まっていた。






 4






 グリアは珍しく腰に佩いた剣の鞘を神経質に触りながら反対の手の指で顎の髭を掻き毟る。






 「……どうした?」




 ザルが久しぶりの朋友、もとい現在は主格の男にいう。久々の再会の言葉もなく――である。




 「火槍の調達だ」つぶやくように吐き捨てる。




 壮一は先程少年の手当に大急ぎで真希と共に下へ降りた。しかし、それに構わずいつもの癖でグリアは考え始めると周囲が見えなくなるタイプらしい。金髪の旋毛をわしゃわしゃ、とかき混ぜて深い彫りの顔を無表情にする。




 そりゃあ、ご苦労なこった、というとザルは勝手に戸棚に仕舞われた酒瓶を抜くと、グラスを二つ出し丸テーブルの上で注ぎだした。ゴポ、ゴポ、と景気のいい音が部屋にみちる。




 「お前もあとで飲めよ」




 と言い残すと一気に飲み干した。

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