異世界にいったったwwwww
生者
一
暗闇――〝完全なる〟という形容詞が当てはまるならば……この山頂付近に都合よく存在する洞窟の内部ほど、その言葉に適当な空間はない。
ひゅ ひゅ ひゅ
笛のように鳴り響く冷たい大気の温度も、今の麻痺した皮膚では感知ができない。
エイフラムは蘇生する死者の如く醒めた。悪酔いした気分である。だが、妙に充実した気分になっている。恐らく、己はこのような極限の境遇……それも他者の責任を背負い込まずに済むやり方が一番気分がいい。自分が死ぬのは自分が決めたことだけだ。
正しい。因果という奴だろうか。
クマの毛皮はチクチク首筋を刺す。今更だが僅かな感覚神経が腹ただしい。仰向けになった己は4メートル四方の空間で、折れ曲がったように無様な右腕を伸ばす。今が何時頃なのかは分からない。だが、人間界とは異なる時間こそがこの山脈唯一の掟のようにも思われた。――生死。これほど人間にとって単純明快な事柄があるだろうか。これほど誰しもに当てはまる事柄があるだろうか。
肉体には限界がある。そう思い知らされたのは人間ではなく〝自然〟であった。エイフラムの皮膚が裂け、筋肉の筋が数本見え、骨も拳のあたりが剥き出しになっているのが分かった。暗闇が薄暗く視界に溶け込んでいた。いや、同化したのは俺の方か。
動かねば――生きねば。少なくとも、龍に出会うまで、この命が尽きることは許されない。
「はっはっは」
犬の乾いた鳴き声みたいな咳混じりに笑った。
誰かの命を預かるのはいやだ。だが、誰かの命を酷使されるのは心地よい。あの義兄グリアであれば尚更。腹が減った。俺はここで飯を喰いたい、食いたくなっている。飯だ、飯だ……咽も嫌に乾いている。
脳みそがおかしくなっている。
エイフラムは自覚するだけの理性がほんのわずかに残っていることが理解できた。
上半身を少し引き起こす。あと数十メートル。普通の人間ならば不可能であるし、自殺行為というより、自殺のそものだ。
(だが違うぞ……)
自殺とは違う。
俺には目的がある……。静かに、執念を燃やした。気魄が闇の奥で膨らんでいた。僅かな光源が数条差し込んだ。未だ吹雪は続いている。
エイフラムは心の水底で新たな泉の水が湧くのを感じた。
濃緑の粘着質な液体が詰まった小瓶を僅かな持ち物の中から探り当てた。幸い、砕けていない。この気色の悪い液体は痰のような色艶をしている。気持ちが悪い。が、飲まねばならない。そうせねば、現状は打破できないようだ。
『麻酔、というモノだ』
唯一とってよい選別の品に、門番の老人から手渡されたのは麻酔という薬品であった。土着の薬学が発達した山脈周辺の村でも稀な一品らしい。
その効果は抜群であるらしい。が、如何せんその効果を実証し帰ってきたものはいないという。というのも、この薬品は全て山頂登山者にのみ与えられるからだ。
エイフラムは迷いなく小瓶の栓を抜き、飲み干す。空腹の胃袋に久方ぶりの内容物がやってきた……それとは別に、ひどい味である。まるでゲロを再び飲み込むような感覚だ。胃の腑が燃えるように熱い。嘔吐の感じが胃袋から食道にかけてやってくる。それを押さえる。耐え難い苦痛であった。
…………時間が経過した。
効果があったかは分からない。だが、一時的に躰が異様な浮遊感に襲われている。興奮状態とでも言うべきか。
エイフラムが飲み込んだこれは、我々で知るところの麻酔でも何でもない。一種麻薬のような成分を含んでいるのだ。例えば、古代文明にも人身御供として幼い子供が噛むコカの葉と同様の儀礼でもあった。
暗闇――〝完全なる〟という形容詞が当てはまるならば……この山頂付近に都合よく存在する洞窟の内部ほど、その言葉に適当な空間はない。
ひゅ ひゅ ひゅ
笛のように鳴り響く冷たい大気の温度も、今の麻痺した皮膚では感知ができない。
エイフラムは蘇生する死者の如く醒めた。悪酔いした気分である。だが、妙に充実した気分になっている。恐らく、己はこのような極限の境遇……それも他者の責任を背負い込まずに済むやり方が一番気分がいい。自分が死ぬのは自分が決めたことだけだ。
正しい。因果という奴だろうか。
クマの毛皮はチクチク首筋を刺す。今更だが僅かな感覚神経が腹ただしい。仰向けになった己は4メートル四方の空間で、折れ曲がったように無様な右腕を伸ばす。今が何時頃なのかは分からない。だが、人間界とは異なる時間こそがこの山脈唯一の掟のようにも思われた。――生死。これほど人間にとって単純明快な事柄があるだろうか。これほど誰しもに当てはまる事柄があるだろうか。
肉体には限界がある。そう思い知らされたのは人間ではなく〝自然〟であった。エイフラムの皮膚が裂け、筋肉の筋が数本見え、骨も拳のあたりが剥き出しになっているのが分かった。暗闇が薄暗く視界に溶け込んでいた。いや、同化したのは俺の方か。
動かねば――生きねば。少なくとも、龍に出会うまで、この命が尽きることは許されない。
「はっはっは」
犬の乾いた鳴き声みたいな咳混じりに笑った。
誰かの命を預かるのはいやだ。だが、誰かの命を酷使されるのは心地よい。あの義兄グリアであれば尚更。腹が減った。俺はここで飯を喰いたい、食いたくなっている。飯だ、飯だ……咽も嫌に乾いている。
脳みそがおかしくなっている。
エイフラムは自覚するだけの理性がほんのわずかに残っていることが理解できた。
上半身を少し引き起こす。あと数十メートル。普通の人間ならば不可能であるし、自殺行為というより、自殺のそものだ。
(だが違うぞ……)
自殺とは違う。
俺には目的がある……。静かに、執念を燃やした。気魄が闇の奥で膨らんでいた。僅かな光源が数条差し込んだ。未だ吹雪は続いている。
エイフラムは心の水底で新たな泉の水が湧くのを感じた。
濃緑の粘着質な液体が詰まった小瓶を僅かな持ち物の中から探り当てた。幸い、砕けていない。この気色の悪い液体は痰のような色艶をしている。気持ちが悪い。が、飲まねばならない。そうせねば、現状は打破できないようだ。
『麻酔、というモノだ』
唯一とってよい選別の品に、門番の老人から手渡されたのは麻酔という薬品であった。土着の薬学が発達した山脈周辺の村でも稀な一品らしい。
その効果は抜群であるらしい。が、如何せんその効果を実証し帰ってきたものはいないという。というのも、この薬品は全て山頂登山者にのみ与えられるからだ。
エイフラムは迷いなく小瓶の栓を抜き、飲み干す。空腹の胃袋に久方ぶりの内容物がやってきた……それとは別に、ひどい味である。まるでゲロを再び飲み込むような感覚だ。胃の腑が燃えるように熱い。嘔吐の感じが胃袋から食道にかけてやってくる。それを押さえる。耐え難い苦痛であった。
…………時間が経過した。
効果があったかは分からない。だが、一時的に躰が異様な浮遊感に襲われている。興奮状態とでも言うべきか。
エイフラムが飲み込んだこれは、我々で知るところの麻酔でも何でもない。一種麻薬のような成分を含んでいるのだ。例えば、古代文明にも人身御供として幼い子供が噛むコカの葉と同様の儀礼でもあった。
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