異世界にいったったwwwww

あれ

市場

 
 人々はそこを〈巡礼の道〉と称し、褒めたたえた。――無論、今となっては嘗てのことである。




 いまや荒廃した世界では宗教は人間集団を巨大な混乱の作用を齎す機械に過ぎない。いくら理想が尊かろうと、なんであろうと人間が巨大な集団を構築する時点で、元々の理想はお題目となる。綺麗事程度にしかその理想は口々で語られはしないのだ。




 この異世界の宗教の大原則はすなわち、裕福か貧困状態でなければ成立しえないような程度のモノしか存在しえない。この異世界人たちは、つまるところ生物には過ぎたる「知性、知能」に苦しんだ。その心理的な解決に「宗教」をつくった。


 だが、長い時間をかけてそれを文化にした。そこには、所詮人間程度の血がいくらか流れただけだった。人々を統治し、集団をある一点の目的にまで到達させることが、どの時代の支配層にも共通する考えである。それは「誰が」支配していたから、という単純な話しではない。つまり、人間は原初の頃から統治するための目的を作り替えた。




 花崗岩などの岩盤がその国土地面の半分以上を占めるワシャール山脈付近の国々は貿易、傭兵で栄えた。小さな国々はそれぞれ、権益を争う戦いをしながら共存していた。この地で巡礼者たちは一路「神殿」なる地を目指して旅をした。石畳の敷かれた道はおよそ7千キロにも及ぶ規模で雄大な自然にあったと伝わっている。最も、現在では半ば朽ち果て欠けた道の残骸があるだけである。




 ……しかし、この神殿とは現存はしていない。


 理由の一つは、他宗教の大規模な破壊にあった。この神殿には膨大なそれまで培われた知的体系の図書館があった。それこそ、この異世界人たちが文字を発明して以来、育てた書籍を打ち壊し、燃やした。




 それゆえ、現在残っているこの異世界の地の文明は、それぞれ図書館から書き写しされた僅かな書籍の代替品によって文明が発展したという訳である。






 
 ―ー長々と語った若い、白いローヴを羽織った学者風の青年は金をせびるような表情をした。壮一は意訳ではあるが、この周辺地域の歴史を知った。
 この青年は色黒の肌に深いほうれい線が刻まれている。壮一は軽くため息をついて銅貨を一枚取り出し差し出すと、彼は首を振り「3枚だ」と憮然と言い放った。脇に控えていたザルがぬっ、と進み出ると青年は銅貨をひったくってそそくさと立ち去った。




 この市場はワシャールの端に位置するところであった。14日に一度市場が開放され、そこで人々は売り買いをする。農業があまり発達していない国であるが、幸いこの近隣はまだ土壌が農業に適しており、それゆえ14日に一度でも良い状況であった。




 「あのクソガキ、ぼったくるなら覚悟決めろッ、て話しだ。」


  ザルは青年の姿が消えてからも怒っていた。


 「まあそういうな。情報は金だ。金は情報、少なくともオレの世界では常識だ。」






 それにしても、臭い、不衛生な場所である。




 排泄物はその辺にしっぱなしで道が糞尿にまみれ、食べ物屋台も、何らかの残飯に小蝿がたかっている。犬や鶏が放し飼いにしている。だが、これは衛生観念としてむしろ普通である……のだが、違いがあるとすれば多少金が集まるところであれば何らかの秩序があるはずであるが、この市場はそうでないらしい。




 殆ど野放図に人々は盗み、殺し、死ぬ。






 久々に異郷の地に来たのだ、と真希はその風景を眺めるにつけ思った。今までの黒馬の砦やバザールこそがこの世界での例外であって、これが本来の人間の〈野生〉の側面なのだろうと思い直した。それが厩舎まで向かう道のりでの僅かな光景だった。






 「……オデはここでいい」




 馬から降りてすぐ、少年が口を開く。真希は手綱を厩舎のある一画で繋ごうとした時であった。「そう。でも……」と喋ろうとして、辞めた。今彼に語り変える言葉は少なくとも自分たちにはない。彼の父を殺したのだ。それで一緒に行動しているだけでも異常なのだ。いずれ、この少年は私たちを殺しに来るだろう。




 「分かった」




 今更「許して」というのはむしが良すぎる。真希は父とザルを探しに向かった。




 それにしても驚いたのが、殿を務めたハズのザルが大量の遺留品であろう敵兵の財産類を両肩に満載しながら入口の棕櫚の木が佇むところで待っていたことだ。無論、血が夥しく体表を覆っていることからも尋常でないことが伺える。しかし、一々そんなことに気を配っていたら頭が狂う。いや、そうじゃない。もっと正確に言うならば……精神がもたない。




 壮一は壮一で、「お、生きてたか」と軽く笑い挨拶した程度だ。














 その壮一とザルはこの市場が今更、通常の場所と違うということを認識した。






 硝石、硫黄などが大規模に露天屋台で売買されていた。どうやら、彼らは「火薬」の原料と知って売っている。この地域の地面は岩盤だらけだが、しかし他の地域よりも最も火薬の原料が採掘されるのだ。






 「こりゃあ、急いでグリアに知らせねーとなあ」




 ザルが露天に並ぶ商品を一々仔細に眺め、いった。無論壮一も同意する。とはいえ……。








 (誰がこの火薬の情報を流したんだろう……)






 火槍のつくり方の方が単純である。それでもこの異世界では誰が火薬という存在を広めたのだろうかと訝しがる。それともこの文明段階で自然的に発生するのだろうか? 




 だがこれによってはっきりとしたことがある。それは、この異世界の戦争の死傷者が膨大になるということ……人類が遭遇した大規模な近代戦ではその文明の利器が人々を屠殺していく様子に恐怖したハズだった。例えば第一次世界大戦。だけども、反省もせずに更に地球を覆う殺し合いをやった。






 つまるところ、人々は他生命に迷惑をかけながら傲慢にも人間社会の支配層の決定戦に熱中した訳である。






 それと同等のことがこの異世界でも始まろうとしていた。

コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品