異世界にいったったwwwww

あれ

襲撃3

 誰かが言っていた――「確からしさ」には、その発言者自身に対しての心理作用中に高い信仰が含まれていると。よく意味までは分からない。けれど、それでいいのかもしれない。本当に重要なことは、私が誰かの言葉を無意識に引用して現在いまに至る根源を自覚させてくれることだから。




 私――名前は皆川真希。日本だと9月で16になる。昔、何かで怪我をして左の骨盤から股関節にかけて皮膚に白っぽく変色した傷跡が今でも残っている。身長は158くらいで、体重はこっちの世界にきてから計測していない。……もしかしたら痩せているかもしれないし、むしろ太っているかもしれない。動物性蛋白質を豊富にとっているし、毎日鞍の上にもいるから筋肉がついたかもしれない。……いいや、多分太った。




 もし、日本で普通に生活していて、普通の女子高生をしていたら 「世界」なんて言葉に心躍らせ真面目に考えもしなかっただろう。進学にしろ、就職にしろ私は社会の構造の一部分に無自覚に自発的に変色する事だって出来る筈だった。それは今から思うととても尊く憎らしい対象だ。人は誰しも必ず自己が何者であるかということを否が応でも一度は自覚せねばならない時がやってくるからである。


 1




 橅の幹がいやに群立する林。葡萄色の光が天井から枝の隙間を縫い薄く曳かれた。太陽は高く揺らめいて、粉っぽい土壌の表面を馬蹄が足跡をつけていく。乗馬というのは本来、そう簡単ではない。馬の気性はその馬の種類、個性によって全く異なる。だが、調教する人間の腕によって変化は如実に現れる。真希の乗った馬はよほどしっかり訓練されたのであろう、よほどのこと……たとえば銃声などにも全く動じる様子を見せなかった。もしかしたら、この馬は勝気な性格なのかもしれない。歯をきしり合わせて、鼻息が荒かった。興奮の種類でも、怯えとは対極的なタイプのソレだった。ボーガンを肩に舁き目前に放心した少年を載せている。ステンレス製の矢じりがカチャカチャと右の腰のホルダーから鳴る。これで〝この子〟に命を救われるのは2度目だ、と真希は内心で感謝し銃把を優しく撫でた。


 生きることは逃げることなのではないか、と半ば冗談半分に真希の座右の銘になろうとしていた。


 「おい、坊主!」


 朗々とよく響く声で少年に語りかける。――しかし、というべいか当然であるが壮一と真希、そしてザルの3人は彼にとっては仇である。真希の馬の鞍の左の穴に通された縄には彼の「父」の首が1個ぶら下がっていた。


 人体の頭蓋骨は大変に重い。ボーリングの球体を思い浮かべてもらっても差し支えないだろう。布にくるまれた球体は嘗て何者かであったであろう一部であったのだ。最早人体を離れてしまえば唯物的な肉塊と言っても差し支えない。


 (それがこの異世界の住人の常識的な観念……。)


 まだ上手く納得のゆく心境ではないが、しかしそうしてゆかねば自らの頭が狂ってしまいそうになる。


 「……。」


 少年は黙ったまま、馬の鬣を一心に掴んでいた。その姿は砦を放棄して逃げる真希自身だということが、彼女の心と瞳に投影された。


 「あなたの〝お父さん〟をどうしたい?」


 真希は囁くでもなく、ただ喋りかけていた。少年は眦をきつくキィ、と睨んだが寂しさと悲しさを多分に含んだ輝きを帯びていた。それを見て取った真希は愈々胸が痛くなった。……復讐に終わりがないのは需要があるから。人の心に関係なく復讐という現象は絶えず生まれる。恰も海の波に似ている。海に「波をつくらないで」といくら叫んだって変わりはしない。


 達成感より後ろめたさが残る……でも、復讐をしなければきっと自分を恨んでいた。「どうして、復讐しないの?」と。


 意識の外から、


 「とりあえず、追手の息のかかっていない市場にいけばなんとかなるかもしれない。」


 壮一は腕時計型の通信機器を執拗に眺めていた。日本からの配達がくる空間が分かったのだろうか。


 「……ザルは?」


 どうせすぐ追ってくるだろう、と軽く言い捨て壮一は「あと、1時間くらいで小さな市場がある。そこにいこう。」


 と、真希に伝えた。生憎の北風の激しさが募り始め、しかし壮一の声に一々頷く。
 

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