異世界にいったったwwwww
決事
 第三次揚陸にまで作戦の範囲が及んだ。
無論、グリアもウールドもこの作戦にどれほど可能性を見出していたかは今となっては不明である。しかし、この武器の運搬は彼らにとっては半ば運命であったのかもしれない。
「正直に言おう。無謀だ。」
珍しく、グリアの口から消極的な意思が零れた。
――だろうな、とウールドは椅子に深く腰かけたまま呆然としている。今回の作戦は大雑把にいえば、何度も敵地に潜り込み補給を敢行するのだ。通常、戦争で困難なミッションのうちに揚陸は最大級に困難とされている。それは、つまり敵にみすみす裸の腹をさしだして寸前で避けるという行為と違いがない。
覚悟を決めなくては、到底できる話しではない。どれほど成果を残しても捨て駒。
(それをやるのか……。)
黯然というより、むしろ諦観がウールド麾下の商会を蝕んだ。彼らもいつ、捨て駒にされても分からないという気分は多分にあっただろう。しかし、それがこのような時期、このような形で帰着したのは誰しも予想もしないことであった。それは、死刑宣告とほぼ同義であったわけである。やり口があからさまである。
第一次
本国商隊数十隻、防備を固め遠州にほど近い海域にて輸送。
第二次
ウールド商隊と本国(三分の一)商隊が輸送、中原のほぼ最端に位置する運河まで輸送。
第三次
ウールド商隊、交戦域を予定される湾流から輸送拠点までの運搬。
最早、明らかであった。王がウールドを消そうとしていることは公然の秘密でもなくなったことを世間に知らしめることとなった。
「父上は満足なのだろうな。しかし――。」
怒りと哀しさを交えた声が、僅かに上ずらせ続ける。
「部下まで殺す必要はないだろうと思う。有能な連中も付き従ってくれる。無駄なことをしたいようだ、我が父上は。」
それが目的なのだ、それが。
「生きる方法を俺も今まで試行錯誤してきた。だが――正直言わせてもらえば今回は相手が悪い。いや、俺たちも実際に都市国家と戦って肌身で感じた。だからいえる。力ってのは実感しないと分からない。」
グリアは冷静に、無機質に分析する。それは自らを戒め最善の勝利をモノにするために練り上げられた彼の戦略眼ともいえた。博徒にも二種類いる。一方は直感で勝つやつ。もうひとつは、練り上げに練り上げ、その最善の選択しをいくつも用意しておいて、選ぶ。
「俺は、その後者だ。」常々口癖のように語って聞かせた。
実際に前回の沿岸部への輸送の秘策も、以前から彼が秘蔵した計画の一要素に過ぎなかった訳である。それが運良く適用できたに過ぎない。少なくとも、彼はそう思っていた。
(だが――)
それとは別にグリアはガルノスなる人物に興味が惹かれていた。まるでマグマのような人物だと、彼の略歴を眺めながら思いを馳せた。この状況でまで己が胸を躍らせていることに気がつき、自己嫌悪の嘲笑を鼻で鳴らす。
「とにかく、私はともかく貴君ら黒馬の人々は……」
「いや、俺はやる。確かに他者は知らん。が、俺はやるぞ。」
「決断が早いな。それとも自殺志願者か?」
珍しい皮肉にグリアは目を見開き、口を歪め、
「そりゃあ、お前と行動を共にする奴は遅かれ早かれそうなるだろう。馬鹿いうな。」
恩知らずな奴め……と、肩を聳やかせる。
コンコン、と扉が叩かれる。「入れ」というと、一人の男が入室した。
「おお、お前か。」
そこには、40代絡みの日焼けした海の男がいた。彼は長年ウールドの右腕として活躍していた。
一瞬、固まった顔を改、
「よく来たな。もう知っているだろう?」
計画の事は既に通達済であるとはいえ、気が晴れない。それというのも、この作戦の第二次の現地指揮官にウールドの副官が選ばれたのだ。それは当然の人選といえた。長年の海の知識、経験、また大規模な輸送の経歴。除外されるハズがない。
「考え直してもいいぞ。今なら……」
ウールドはそういいたかった。しかし、これは自分の命令ではない。それが痛いほどにこの苦難を乗り越えてきた部下に諭しても無駄ということが自明であることを証左していた。
「親方、あの酒くれませんかね? オレ最近カカァに酒を止められてて、長期航路は久々だ。そのお供にいいでしょう?」
ウールドはあの琥珀色の酒のことをいっているのだな、と直感した。
「ああ。構わん。」
「待て!」グリアが大声で叫ぶ。
「待て。あれは俺のだ。返せ」
横槍を入れられた副官は驚きながら、「まだもらってもないのに急にどうしたんですか?」
「辛気臭くて、まるで形見分けごっこをみてる気分だ。いいか、俺は――」
と、グリアが言いかけて、副官は彼のその後に続けようとしたい言葉を理解し、遮った。
「……無理だ。無理さ、今回は。いくらあんたとはいえ、このごに及んでまた奇策で乗り切ろって算段だろうが、今回ばかしは違う。海はオレの領域だ。だがら分かる。いや、世間の波は今回ばかりは荒い。気持ちだけで十分さ」
そうか、と呟くとグリアは副官の後ろをすり抜け、ドアを開くと出て行った。
「酒、いいでしょ?」
「ああ。好きにしろ。」
とかく、ガーナッシュは正式に大戦へと参加することが決まった。
無論、グリアもウールドもこの作戦にどれほど可能性を見出していたかは今となっては不明である。しかし、この武器の運搬は彼らにとっては半ば運命であったのかもしれない。
「正直に言おう。無謀だ。」
珍しく、グリアの口から消極的な意思が零れた。
――だろうな、とウールドは椅子に深く腰かけたまま呆然としている。今回の作戦は大雑把にいえば、何度も敵地に潜り込み補給を敢行するのだ。通常、戦争で困難なミッションのうちに揚陸は最大級に困難とされている。それは、つまり敵にみすみす裸の腹をさしだして寸前で避けるという行為と違いがない。
覚悟を決めなくては、到底できる話しではない。どれほど成果を残しても捨て駒。
(それをやるのか……。)
黯然というより、むしろ諦観がウールド麾下の商会を蝕んだ。彼らもいつ、捨て駒にされても分からないという気分は多分にあっただろう。しかし、それがこのような時期、このような形で帰着したのは誰しも予想もしないことであった。それは、死刑宣告とほぼ同義であったわけである。やり口があからさまである。
第一次
本国商隊数十隻、防備を固め遠州にほど近い海域にて輸送。
第二次
ウールド商隊と本国(三分の一)商隊が輸送、中原のほぼ最端に位置する運河まで輸送。
第三次
ウールド商隊、交戦域を予定される湾流から輸送拠点までの運搬。
最早、明らかであった。王がウールドを消そうとしていることは公然の秘密でもなくなったことを世間に知らしめることとなった。
「父上は満足なのだろうな。しかし――。」
怒りと哀しさを交えた声が、僅かに上ずらせ続ける。
「部下まで殺す必要はないだろうと思う。有能な連中も付き従ってくれる。無駄なことをしたいようだ、我が父上は。」
それが目的なのだ、それが。
「生きる方法を俺も今まで試行錯誤してきた。だが――正直言わせてもらえば今回は相手が悪い。いや、俺たちも実際に都市国家と戦って肌身で感じた。だからいえる。力ってのは実感しないと分からない。」
グリアは冷静に、無機質に分析する。それは自らを戒め最善の勝利をモノにするために練り上げられた彼の戦略眼ともいえた。博徒にも二種類いる。一方は直感で勝つやつ。もうひとつは、練り上げに練り上げ、その最善の選択しをいくつも用意しておいて、選ぶ。
「俺は、その後者だ。」常々口癖のように語って聞かせた。
実際に前回の沿岸部への輸送の秘策も、以前から彼が秘蔵した計画の一要素に過ぎなかった訳である。それが運良く適用できたに過ぎない。少なくとも、彼はそう思っていた。
(だが――)
それとは別にグリアはガルノスなる人物に興味が惹かれていた。まるでマグマのような人物だと、彼の略歴を眺めながら思いを馳せた。この状況でまで己が胸を躍らせていることに気がつき、自己嫌悪の嘲笑を鼻で鳴らす。
「とにかく、私はともかく貴君ら黒馬の人々は……」
「いや、俺はやる。確かに他者は知らん。が、俺はやるぞ。」
「決断が早いな。それとも自殺志願者か?」
珍しい皮肉にグリアは目を見開き、口を歪め、
「そりゃあ、お前と行動を共にする奴は遅かれ早かれそうなるだろう。馬鹿いうな。」
恩知らずな奴め……と、肩を聳やかせる。
コンコン、と扉が叩かれる。「入れ」というと、一人の男が入室した。
「おお、お前か。」
そこには、40代絡みの日焼けした海の男がいた。彼は長年ウールドの右腕として活躍していた。
一瞬、固まった顔を改、
「よく来たな。もう知っているだろう?」
計画の事は既に通達済であるとはいえ、気が晴れない。それというのも、この作戦の第二次の現地指揮官にウールドの副官が選ばれたのだ。それは当然の人選といえた。長年の海の知識、経験、また大規模な輸送の経歴。除外されるハズがない。
「考え直してもいいぞ。今なら……」
ウールドはそういいたかった。しかし、これは自分の命令ではない。それが痛いほどにこの苦難を乗り越えてきた部下に諭しても無駄ということが自明であることを証左していた。
「親方、あの酒くれませんかね? オレ最近カカァに酒を止められてて、長期航路は久々だ。そのお供にいいでしょう?」
ウールドはあの琥珀色の酒のことをいっているのだな、と直感した。
「ああ。構わん。」
「待て!」グリアが大声で叫ぶ。
「待て。あれは俺のだ。返せ」
横槍を入れられた副官は驚きながら、「まだもらってもないのに急にどうしたんですか?」
「辛気臭くて、まるで形見分けごっこをみてる気分だ。いいか、俺は――」
と、グリアが言いかけて、副官は彼のその後に続けようとしたい言葉を理解し、遮った。
「……無理だ。無理さ、今回は。いくらあんたとはいえ、このごに及んでまた奇策で乗り切ろって算段だろうが、今回ばかしは違う。海はオレの領域だ。だがら分かる。いや、世間の波は今回ばかりは荒い。気持ちだけで十分さ」
そうか、と呟くとグリアは副官の後ろをすり抜け、ドアを開くと出て行った。
「酒、いいでしょ?」
「ああ。好きにしろ。」
とかく、ガーナッシュは正式に大戦へと参加することが決まった。
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