異世界にいったったwwwww
会談
――そう遠くない未来、きっとこの世は地獄になる。
美しいフルートの音色に似た声で囁く。その声はどこか甘美で妖艶で滑らかで、多分、いやもし耳朶に微熱混じりの吐息が吹きかけられるだけで、危うくとろけてしまいそうになるだろう。
だけど、違う。少なくとも《彼女》にとっては本当はこの人間界のことなんてどうでもいい。《蘇》国王は思った。この「風の魔術師」は黒いローブに身を包み、なにを考えているのかすら理解できない異形の者であるということに。理解する必要性すらないのかもしれない。とかく、事態は深刻である。
「……貴様は確か、盗賊の使者であるな。」
確かめるように、蘇王は羊紙と不敵な笑を浮かべる目前の彼女に視線を交互にみやる。
くすくす、と鈴の愛らしい音色のような笑い声をたてて静かに頷く。不遜、不敵、どうとでも言いようはある。が、この女には不気味なほどの「穏やかさ」が備わっているのだ。
謁見の間は二人をおいて他にいない、通常では考えられることではない。しかし、魔術師相手では通常は通用しない。本気になれば万の兵を相手にしても容易く殺し尽くすだろうからだ。
「ウチの炎の魔術師が殺された。」
「ええ、存じています。」
「チッ。貴様たちの計略の内ではないのか? 穀物庫の連中は潰されてしょうがなく併合した。」
と、僅かに風の魔術師の眉が微動した。
「――仕方なく? ふっふっ。お戯れを。《そう》差し向けた計略は王ではなくて?」
「ふん。であれば、何故魔術師を殺させてまでこのような回りくどい方法を取らねばならん。そのせいで、新しい魔術師を用意せねばならぬのだ。」
「――ええ、ですから盗賊で交渉条件を示しましたでしょう? 私をこちらの国に派遣する代わりに様々な譲歩をして欲しいのです。簡単でしょう?」
忌々しげに舌打ちをする。そうだ。彼女の言うとおりだ。政略的にも戦略的にも魔術師がいないことは大幅な戦力の減退を指し示すものであった。
二人の間には、言葉の交渉が静謐なようで、その実、恐ろしい位の人間の運命を狂わせるような取り決めを決めてゆく。どこか、事務的に……。どこか、愛玩でもするように……。人間の命が「駒」と形容されるだけでもマシな部類だ。およそ、この二人は……いや、盗賊側と蘇王は支配圏《拡張》という事を狙っている。国土であり、支配権であり、或は……世界すべての影響かもしれない。だが、それは善悪論ではなくどこまでも事務的に。
時々、女は笑う。
蘇王は彼女が何歳なのかもわからなかった。老けては見えない。せいぜい、一〇代の後半から二〇半ばであろうか? わからない。が、この女は蘇王がこれまで見てきた女とどこか違う雰囲気を有していた。
「ところで……。」
と、女は話題を区切った。王は不意を突かれた形となった。
「うむ。」
魔術師の女はそれまで悠然とした面持ちを改め、
「真希、という少女をご存知ですか?」
「いや。」
そうですか、と冷たい唇に細かな皺をつくった。長い睫毛の奥に潜む瞳は王から目線を逸らしている。王は忌々しげに再び舌打ちをする。恐らく傾国の美女というのはこのような女をいうのであろう。そのために古来からの賢王たちもまた、幾度となく歴史書に痴態を晒した。
蘇王は、それを自覚的に捉え、息を整える。
「その者がどうしたのだ?」
「いいえ。別に。では宜しくお願いします。三ヶ月ほど……ですが、御主人様。」
その声音は嫌味が大分含まれていたのにも関わらず、蘇王はそれについては一言も言及せず、玉座から視線を天窓へと逃がした。
美しいフルートの音色に似た声で囁く。その声はどこか甘美で妖艶で滑らかで、多分、いやもし耳朶に微熱混じりの吐息が吹きかけられるだけで、危うくとろけてしまいそうになるだろう。
だけど、違う。少なくとも《彼女》にとっては本当はこの人間界のことなんてどうでもいい。《蘇》国王は思った。この「風の魔術師」は黒いローブに身を包み、なにを考えているのかすら理解できない異形の者であるということに。理解する必要性すらないのかもしれない。とかく、事態は深刻である。
「……貴様は確か、盗賊の使者であるな。」
確かめるように、蘇王は羊紙と不敵な笑を浮かべる目前の彼女に視線を交互にみやる。
くすくす、と鈴の愛らしい音色のような笑い声をたてて静かに頷く。不遜、不敵、どうとでも言いようはある。が、この女には不気味なほどの「穏やかさ」が備わっているのだ。
謁見の間は二人をおいて他にいない、通常では考えられることではない。しかし、魔術師相手では通常は通用しない。本気になれば万の兵を相手にしても容易く殺し尽くすだろうからだ。
「ウチの炎の魔術師が殺された。」
「ええ、存じています。」
「チッ。貴様たちの計略の内ではないのか? 穀物庫の連中は潰されてしょうがなく併合した。」
と、僅かに風の魔術師の眉が微動した。
「――仕方なく? ふっふっ。お戯れを。《そう》差し向けた計略は王ではなくて?」
「ふん。であれば、何故魔術師を殺させてまでこのような回りくどい方法を取らねばならん。そのせいで、新しい魔術師を用意せねばならぬのだ。」
「――ええ、ですから盗賊で交渉条件を示しましたでしょう? 私をこちらの国に派遣する代わりに様々な譲歩をして欲しいのです。簡単でしょう?」
忌々しげに舌打ちをする。そうだ。彼女の言うとおりだ。政略的にも戦略的にも魔術師がいないことは大幅な戦力の減退を指し示すものであった。
二人の間には、言葉の交渉が静謐なようで、その実、恐ろしい位の人間の運命を狂わせるような取り決めを決めてゆく。どこか、事務的に……。どこか、愛玩でもするように……。人間の命が「駒」と形容されるだけでもマシな部類だ。およそ、この二人は……いや、盗賊側と蘇王は支配圏《拡張》という事を狙っている。国土であり、支配権であり、或は……世界すべての影響かもしれない。だが、それは善悪論ではなくどこまでも事務的に。
時々、女は笑う。
蘇王は彼女が何歳なのかもわからなかった。老けては見えない。せいぜい、一〇代の後半から二〇半ばであろうか? わからない。が、この女は蘇王がこれまで見てきた女とどこか違う雰囲気を有していた。
「ところで……。」
と、女は話題を区切った。王は不意を突かれた形となった。
「うむ。」
魔術師の女はそれまで悠然とした面持ちを改め、
「真希、という少女をご存知ですか?」
「いや。」
そうですか、と冷たい唇に細かな皺をつくった。長い睫毛の奥に潜む瞳は王から目線を逸らしている。王は忌々しげに再び舌打ちをする。恐らく傾国の美女というのはこのような女をいうのであろう。そのために古来からの賢王たちもまた、幾度となく歴史書に痴態を晒した。
蘇王は、それを自覚的に捉え、息を整える。
「その者がどうしたのだ?」
「いいえ。別に。では宜しくお願いします。三ヶ月ほど……ですが、御主人様。」
その声音は嫌味が大分含まれていたのにも関わらず、蘇王はそれについては一言も言及せず、玉座から視線を天窓へと逃がした。
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