異世界にいったったwwwww

あれ

四十三

アーロン・ヴィルド・グ・エフェール


 後年、アーロン・ヘールズと名を残す男、現在いまはまだ、一豪族の倅として帝国領を出、父とともに海を越えて親族の国へ逃げた。


――帝国とは一体なんであるか?


 その疑問は尤もである。しかし、まずは大陸の大まかな説明をしたい。
大陸は大きく分けて、本土、南大陸、北大陸と三つに分かれている。それを隔てるのは、海と言って差し支えない巨大な海溝が横たわっている。大陸自体は一つであると言えるのだが、海底に沈殿した地層もまた巨大で、結果として三つの大陸が分裂しているように見える。


 本土の遥か遠く、独自の文化圏を構築した南大陸は帝国と呼ばれる王朝が支配を固めていた。430年余りもの時間、国家を存立させた。とはいえ、既に苔むした遺物ともなっていた。本土とは常に交易により限られた場所でのみの交流をした。
 気温は、南大陸とされているが、寒い。夏季は最高二〇度前後、冬季は氷点下二〇度にもなる。当然、極寒の大地である。
 その場所で、アーロンは育った。父は当時から官吏としても優秀な貴族であった。帝国は貴族議会の書記にアーロンの父を選んだほどだ。それは、議会の記録を任せるに足る人物と見込んでのことだった。が、その嫡子アーロンは悪童といえ、且つ又、神童としてその名を帝国に轟かせていた。アーロン一四歳の頃の逸話がある。


 アーロンはある日、遠方の使いに出された。その折、ある商人が彼の遥か遠い場所で立ち往生をしていた。それを見かねた彼は商人に掛け合い、なんとか隘路を越した。その時、騾馬に牽かせたのだ。まず、老騾馬を先頭に、して、若い騾馬を後続に。不思議に思ったアーロンの下男が訊ねた。
 「――何故、騾馬をこのようになさる?」
 「老いた騾馬は荷物を牽くことは難しいが、難しい道を簡単に登る知恵も体も持っている。その後ろを若い騾馬で牽かせれば簡単に物事が運ぶ」
 と言ってのけた。
 これは、地球の我々で知るところの韓非子の教えと同じである。が、無論、彼は韓非子なぞ読んだことはない。つまり、生きた知恵により彼自身が獲得したモノである。とはいえ、英邁な主である、とその歴史書の文末は結ばれている。実際はわからない。


とはいえ、アーロンは乱世の雄である。
 戦争でもまた、功績を残していた。
 彼の初陣は、一六歳のとき。ミシュワール領、クナンクルセイ地区での大規模な反乱であった。不平をもった農民をはじめ、没落貴族どもの徒党を交えた、一種のカルト教団が主導となり、兵乱を起こした。
 いち早く対応すべく、アーロンは四〇〇の兵を連れ打って出た。対する敵は四万にもなろうとしていた。まず、彼は補給路となるいくつかの道を丹念に調べ上げた。そして、父の援護がくる約四日間を敵勢に悟られることなく情報を正確に味方に流した。そして、その間の偶発的な戦闘で敢えて味方の実数を曖昧にさせた。
 元々、戦争のプロではない。いわば、現状に不満のある貧しき民だ。彼らは烏合の衆であった。ときに、アーロンの見事な策略と、近隣の村や街の破壊に勤しむ反乱軍に味方する世論ではなかった。
 ――父が到着する頃、敵勢の分断に成功していたアーロン。父の私兵約八〇〇〇の兵は本体の一〇〇〇〇の敵勢を大いに潰した。その噂を瞬く間に広め、寛大な処置をするゆえ、武器を捨てよ、と流布させた。


 華々しい初陣は帝国の首都に伝わった。そして、直接皇帝の拝謁の後、恩賜が与えられた。


 さて、この男、アーロンは今浅い眠りから醒めようとしていた。





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