異世界にいったったwwwww

あれ

二十三

時化が已んで、豊穣に――海面の表から沸き立つ煙の流動があった。徐々にそれらは集結して濃い霧のヴェールへ変貌してゆく。海猫が比翼を広げて、鳥の集団の一羽はそこを離れ、今だ明けない空を滑空していく。


 尖塔が幾重も陸地に聳えた影が、霧に覆われていった。岸壁の肌を舐めるように波は裂け、潮の音と匂いを満ち充ちとひろげた。会議堂、商工会議施設、礼拝所、街の辻辻に暗い蔭を投げた。


 ――ゴーン、ゴーン、ゴーン。




 三つ、鐘が鳴り響く。恐らくグノーシス教か何かの宗教施設の鐘だろう。赤い屋根の下辺が広がった梁の下に黒鉄の鐘が慄えた。周囲を囲む半円形の輪郭を包む霧も心なしか振動するように見まごうた。




 「さぁ、出航だぜ!」


 港で凛とした声がする。
 通常、このような濃霧の荒れる海を出航するのは、禁忌とも言える行為だ。しかし、ことバザールにおいては、潮の流れが容易に掴めるようになり、かつ、風が複雑な入江を縫ってやってくるために熟練の船員は寧ろ出航日和とさえいう。


 ……そして、これはガーナッシュ公国一世一代の大勝負の幕開けでもあった。このために、敢えて人目につきにくい濃霧の日を選んだ。


 海猫は岸に並べられた樽や、張られたロープなどに群がるように降り立ち各々鳴き出した。生臭い魚介の香りがした。


 グリアは声を張り上げたあと、ふと岸沿いに置かれた石碑の蔭に刻まれた文字を思い出した。


 《なんじ永久が旅人なり――さればこそ、ゆかれよ、我も又旅人なり。》


 グリアは必ず、この言葉を心中で繰り返す。この肉体も、また仮のすみかである。そう彼には諒解された。この石碑は嘗て、このバザールが創設された当時にちまたで流行した言葉らしい。まだ戦火の傷跡生々しい頃であるがゆえ、どうしてもそのような連想に結びつく。






 (いい言葉だ……。)






 彼は、ふとこの言葉を読んだ時を脳中に浮かべた――。

「異世界にいったったwwwww」を読んでいる人はこの作品も読んでいます

「ファンタジー」の人気作品

コメント

コメントを書く