異世界にいったったwwwww
二一 関門の決別
――ガルノスは、自室に帰る回廊の辺りで息を喘がせやってくる部下をみた。
「一体どうした?」
怪訝な顔で訊ねた。
部下はなるべく歯の根の浮いた口を押さえ、
「たった今、我々衛兵四人以外、全体八名、皆死にました!!」
……ハッ、まさか。
ガルノスはその言葉を理解するのに苦労した。
「なぜ? 一体なぜなのだ? 手を下した連中は?」
部下曰く、ガルノスが退出してまもなく、部屋に残された衛兵団を突如として城の兵士が襲いかかってきた、という。
なんとか、難を逃れて主人の身を案じ駆けつけてきた……という次第で、それ以外の自軍の使節団を含めた武将の所在もわからない、という内容である。
ガルノスは信じようがないが、しかし、目の前の彼らは血糊がこびりついたレーザーアーマーを身に付け、剣を握っている。信じるしかない。回廊に連なるランタンの灯りがいやに眩しい。
「わかった、とにかく他の者たちと合流しよう。それから、急いで厩舎から繋いだ車と馬を放ち、逃げよう。……パジャ殿の討伐許諾書はある。今、逆にかの部屋に向かえば、討たれるだろう」
急ぎ、部下に下知をやる。
皓々と月の深い夜が確実に落ちていく。
部下二人と共に、ガルノスが目指したのは、自軍の使節団や武将たちが待機しているであろう、宿舎であった――が、当然そこに人気はない。不安にかられながらも、気配がないのだからいっそ、清々しく捜索することが可能であった。とはいえ、まるで人もない。
城内のうち、宿舎は独立していたため、中庭を隔て、また仇敵の牙城へと潜伏せざるを得なかった。
が、どこやら、人の気配がする。それも、なんだか、懐かしい感覚のソレであった。もしや、と直感を頼りに(この直感は、戦地で鍛え抜かれた本能のモノと同義である)回廊を進む。剣を抜き、危機に備える。
と、前方から夥しい人の影がきた……。
「兄上、これは一体どういう事ですか!?」
異母兄弟がガルノスに喚く。神妙な顔で彼の話しを伺う。
ようやく、出会い安堵をする暇もなく捲し立てた彼を、とめる人はいない。
――なんでも、会議の終了し、夜が更けようとした頃、自軍の武将の幾人かが牢獄に繋がれることになった、という。突然の事で、無論狼狽したが、一度ガルノスと相談させろ、と目の前の冷酷な連行用紙を差し出した判事に怒鳴るも、城の兵士に円陣で囲まれ、半ば軟禁のように大会議室の一つに無理やり押し込まれられた……らしい。
「馬鹿な!」
しかし、どれも事実である。この部屋に居並ぶ代々使える老将、勇将たちの顔ぶれを眺めても、ウソは言っていない。や、寧ろ場内に不穏な陰一つなく、城はまるで蛻のからであったし、回廊と部屋を調べ尽くすと、偶然出会った具合で現在に至るのだ。それから、分隊として牢獄に向かわせた連中も合流できたと、報告がきた。
「どうも、途中から不自然に見張りの数が減って、終いには誰もいなくなって……まさか、兄上の命が……と思い、探して。また、不思議なことに、他の使節団や国の太守もありませなんだ。」
「よい、わかった。とにかく、不気味だ、逃げよう。」
冷や汗を抑えることができないガルノスも戦場とまた違う意味での危機感を覚えた。
(今は厩舎が……この分だと、燃やされているか、潰されているか)
ところが、彼の予想と違い、下知をくだし分かれた部下二人が厩舎をいとも容易く確保した……と、連絡にきた。
「はて?」
首をかしげたくなるが、最早いかなる理由も必要ない。
(パジャめ、もしや我々をこの城で殺すつもりか!!)
憤怒をこらえ、今は目の前の五〇〇弱の自軍を故郷まで帰ることに専念せねばなるまい。
「行くぞッ!!」
その一言は、部下に説明は必要ないものだった。
「「ハッ!!」」
それより、一刻たたずガルノスたちは鞍にのり、城門を目指した。事前索敵でも不信なことに、敵の影はやはり無いのだが、どこの小さな門も閉ざされていた。
「もしや、正面門が……」
「そうです、正面のみが、開け放たれております」
一時停止していた一団の先頭でガルノスは左右に首をふり、知恵を仰ぐ。弟と、老将はガルノスの命令一つだ、と言わんばかりに顔を凛々しく整えている。
(……その城門の外は伏兵だろうな。しかし、ままよ、さすれば天下にパジャの悪名は轟くまで)
胸の内に思ったことを、すぐに復唱するように、部下に後ろに振り向き叫ぶ。皆、然り、と言わんばかりに右腕を挙げ、正面門の突破を支持した。
「兄上、まるで我々が留まる、この庭の花のように踏み散らされますなぁ」
ふと、弟がいう。なるほど、ガルノスも目線を下げると、どうやら中庭らしく、百合の花が月光に照らされてわずかに泥の間からみえた。幾本の馬脚は不気味な影だった。
「突貫!!」
それより、約七〇〇メートルほどを全力でガルノスたちは、走る。
しばらくすると、漆黒の目前に、かの漆黒に聳えた城壁、高さ約50メートルが行先を門に集約させようとしているようにみえた。
粒の如きガルノスたちは弓箭と等しく、四角い的に連続し、数珠繋ぎとなった。
と、高い城壁の山の上から声が振る。
「今だッ!!」
ふと、ガルノスは首を後ろに向ける。
そこには、北方の賢王と、傍にたつパジャがいた。城壁の上に篝火が大量に焚かれた。攻撃の準備だろうか?
城壁は丸太橋がまだ架けられており、下の巨大な側溝を唯一渡している。
「今だ、進め進め!!」
ガルノスは、身近に焚かれていた篝火の灯篭を一つ盗んだ。……火の粉がパラパラと散り、片方の眸でしかと、北方の賢王とパジャを片目に灼きつける。暗渠の夜、浮かんだ二つの姿に恥辱の念が絶えない。
……しかし、意外にも城壁の兵士たちは攻撃しない。
はてな? と訝しむと、後ろから老将が嗄れた声でいう。
「他の国の代表たちも、城壁の上で、我らを見送っていますぞ!!」
「――なに?」
しかし、彼の言うとおり、彼らは、皆城壁の上で松明を焚き、我々を見送っているではいか?
関門を突破した頃、北方の賢王が法螺を吹かせた。この音色は旅立ちの唄である。
「まさかッ!」
その時、巨大な闇が覆い給う草原に飛び出したガルノスは悟った。パジャの真意を……。
つまり、表立ってはガルノスたちの見送りといい、その実は、《遠州》討伐を許諾する代わりに、ガルノスたちを手切れとしたのだ。そうすれば、心象を、都市国家の代表たちの心象を悪くせず、しかしガルノスには真意を悟らせるのに成功できる。
「謀りおったな!!」
しかし、もう遅い。この疾走する集団は帰路にあり、都市国家連合の会議に弾かれたのだ……それもパジャの策により。
そのあとに、彼らが脱退したのだ、とパジャは説明するだろうことも!
(だが、よい。みておれ、この借りは必ず返すぞッ)
ガルノスたち約五〇〇は五街道の内の一つを辿り、着実に故郷への距離を縮めた。
後、この時の事を歴史書にこう記される。
――関門の別れ
と。だが、忘れてはいけないのは、この平和に見える別れが、多くの血と屍を捧げる祝祭日となることを……。
「一体どうした?」
怪訝な顔で訊ねた。
部下はなるべく歯の根の浮いた口を押さえ、
「たった今、我々衛兵四人以外、全体八名、皆死にました!!」
……ハッ、まさか。
ガルノスはその言葉を理解するのに苦労した。
「なぜ? 一体なぜなのだ? 手を下した連中は?」
部下曰く、ガルノスが退出してまもなく、部屋に残された衛兵団を突如として城の兵士が襲いかかってきた、という。
なんとか、難を逃れて主人の身を案じ駆けつけてきた……という次第で、それ以外の自軍の使節団を含めた武将の所在もわからない、という内容である。
ガルノスは信じようがないが、しかし、目の前の彼らは血糊がこびりついたレーザーアーマーを身に付け、剣を握っている。信じるしかない。回廊に連なるランタンの灯りがいやに眩しい。
「わかった、とにかく他の者たちと合流しよう。それから、急いで厩舎から繋いだ車と馬を放ち、逃げよう。……パジャ殿の討伐許諾書はある。今、逆にかの部屋に向かえば、討たれるだろう」
急ぎ、部下に下知をやる。
皓々と月の深い夜が確実に落ちていく。
部下二人と共に、ガルノスが目指したのは、自軍の使節団や武将たちが待機しているであろう、宿舎であった――が、当然そこに人気はない。不安にかられながらも、気配がないのだからいっそ、清々しく捜索することが可能であった。とはいえ、まるで人もない。
城内のうち、宿舎は独立していたため、中庭を隔て、また仇敵の牙城へと潜伏せざるを得なかった。
が、どこやら、人の気配がする。それも、なんだか、懐かしい感覚のソレであった。もしや、と直感を頼りに(この直感は、戦地で鍛え抜かれた本能のモノと同義である)回廊を進む。剣を抜き、危機に備える。
と、前方から夥しい人の影がきた……。
「兄上、これは一体どういう事ですか!?」
異母兄弟がガルノスに喚く。神妙な顔で彼の話しを伺う。
ようやく、出会い安堵をする暇もなく捲し立てた彼を、とめる人はいない。
――なんでも、会議の終了し、夜が更けようとした頃、自軍の武将の幾人かが牢獄に繋がれることになった、という。突然の事で、無論狼狽したが、一度ガルノスと相談させろ、と目の前の冷酷な連行用紙を差し出した判事に怒鳴るも、城の兵士に円陣で囲まれ、半ば軟禁のように大会議室の一つに無理やり押し込まれられた……らしい。
「馬鹿な!」
しかし、どれも事実である。この部屋に居並ぶ代々使える老将、勇将たちの顔ぶれを眺めても、ウソは言っていない。や、寧ろ場内に不穏な陰一つなく、城はまるで蛻のからであったし、回廊と部屋を調べ尽くすと、偶然出会った具合で現在に至るのだ。それから、分隊として牢獄に向かわせた連中も合流できたと、報告がきた。
「どうも、途中から不自然に見張りの数が減って、終いには誰もいなくなって……まさか、兄上の命が……と思い、探して。また、不思議なことに、他の使節団や国の太守もありませなんだ。」
「よい、わかった。とにかく、不気味だ、逃げよう。」
冷や汗を抑えることができないガルノスも戦場とまた違う意味での危機感を覚えた。
(今は厩舎が……この分だと、燃やされているか、潰されているか)
ところが、彼の予想と違い、下知をくだし分かれた部下二人が厩舎をいとも容易く確保した……と、連絡にきた。
「はて?」
首をかしげたくなるが、最早いかなる理由も必要ない。
(パジャめ、もしや我々をこの城で殺すつもりか!!)
憤怒をこらえ、今は目の前の五〇〇弱の自軍を故郷まで帰ることに専念せねばなるまい。
「行くぞッ!!」
その一言は、部下に説明は必要ないものだった。
「「ハッ!!」」
それより、一刻たたずガルノスたちは鞍にのり、城門を目指した。事前索敵でも不信なことに、敵の影はやはり無いのだが、どこの小さな門も閉ざされていた。
「もしや、正面門が……」
「そうです、正面のみが、開け放たれております」
一時停止していた一団の先頭でガルノスは左右に首をふり、知恵を仰ぐ。弟と、老将はガルノスの命令一つだ、と言わんばかりに顔を凛々しく整えている。
(……その城門の外は伏兵だろうな。しかし、ままよ、さすれば天下にパジャの悪名は轟くまで)
胸の内に思ったことを、すぐに復唱するように、部下に後ろに振り向き叫ぶ。皆、然り、と言わんばかりに右腕を挙げ、正面門の突破を支持した。
「兄上、まるで我々が留まる、この庭の花のように踏み散らされますなぁ」
ふと、弟がいう。なるほど、ガルノスも目線を下げると、どうやら中庭らしく、百合の花が月光に照らされてわずかに泥の間からみえた。幾本の馬脚は不気味な影だった。
「突貫!!」
それより、約七〇〇メートルほどを全力でガルノスたちは、走る。
しばらくすると、漆黒の目前に、かの漆黒に聳えた城壁、高さ約50メートルが行先を門に集約させようとしているようにみえた。
粒の如きガルノスたちは弓箭と等しく、四角い的に連続し、数珠繋ぎとなった。
と、高い城壁の山の上から声が振る。
「今だッ!!」
ふと、ガルノスは首を後ろに向ける。
そこには、北方の賢王と、傍にたつパジャがいた。城壁の上に篝火が大量に焚かれた。攻撃の準備だろうか?
城壁は丸太橋がまだ架けられており、下の巨大な側溝を唯一渡している。
「今だ、進め進め!!」
ガルノスは、身近に焚かれていた篝火の灯篭を一つ盗んだ。……火の粉がパラパラと散り、片方の眸でしかと、北方の賢王とパジャを片目に灼きつける。暗渠の夜、浮かんだ二つの姿に恥辱の念が絶えない。
……しかし、意外にも城壁の兵士たちは攻撃しない。
はてな? と訝しむと、後ろから老将が嗄れた声でいう。
「他の国の代表たちも、城壁の上で、我らを見送っていますぞ!!」
「――なに?」
しかし、彼の言うとおり、彼らは、皆城壁の上で松明を焚き、我々を見送っているではいか?
関門を突破した頃、北方の賢王が法螺を吹かせた。この音色は旅立ちの唄である。
「まさかッ!」
その時、巨大な闇が覆い給う草原に飛び出したガルノスは悟った。パジャの真意を……。
つまり、表立ってはガルノスたちの見送りといい、その実は、《遠州》討伐を許諾する代わりに、ガルノスたちを手切れとしたのだ。そうすれば、心象を、都市国家の代表たちの心象を悪くせず、しかしガルノスには真意を悟らせるのに成功できる。
「謀りおったな!!」
しかし、もう遅い。この疾走する集団は帰路にあり、都市国家連合の会議に弾かれたのだ……それもパジャの策により。
そのあとに、彼らが脱退したのだ、とパジャは説明するだろうことも!
(だが、よい。みておれ、この借りは必ず返すぞッ)
ガルノスたち約五〇〇は五街道の内の一つを辿り、着実に故郷への距離を縮めた。
後、この時の事を歴史書にこう記される。
――関門の別れ
と。だが、忘れてはいけないのは、この平和に見える別れが、多くの血と屍を捧げる祝祭日となることを……。
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