異世界にいったったwwwww

あれ

十七

 「中原は、どうやら騒がしいらしいな」


 ピーニクは、長い指を地図の上に何度も落とし、リズムをとる。笑うように、彼は等高線を眺めた。


 「……ええ、そのようで。ですが、主、いえ、ピーニク様。どのような手段でこの状況を……」不安げに商人兼、情報将校は思わず真意を吐露する。


 「なに……」
 一つも顔色を変えず、彼は真剣に地図を見入る。


 (一体なにをお考えなのだ……)
 不安の速度が急に増す。確かに彼、ピーニク・ガーナッシュは、ガーナッシュ公国の行政面では無類の才能を発揮していた。それが今のバザールにおける商工会長という座をもたらしたのも事実である。
 彼は、また商人という観点から言えば、無能ではない。


 ――だが。


 だが、である。生憎、彼を凌ぐ商人の才能をもった男が彼の隣に肩を並べ歩いているのだ。


 その名をグリアという。


 バザールでも一時期話題になったし、無論公国の方でも問題となった。が、あくまでも建前上はバザールは自治の都市である。その自由さに天秤をかければグリアという男の存在も黙殺をされざるを得ない。〝状況”次第であるが……。


 この情報将校もまた、実のところ、グリアという男の存在を面白く思っていた。なにも、主人のピーニクに不満など一つもない。しかし、グリアという金髪の縮れた毛の、まるで子供のように無邪気な眸の男は、たった一度の戦の負けによって、ある種の威厳というか風格を備えた〝英雄”として俄かに孵化しようとしているのである――。


 乱世の男児に、彼に惹きつけられない訳がない。


 歴史は必然である。一体、この不思議なカリスマ性を備えはじめたグリアはなにをしでかすのだろう……。


 グリアの周囲の人間は誰しもそう思った。




 大陸の盗賊討伐軍を向こうに、たったちっぽけな戦力で戦い、生き残った。


 それだけではない。


 実のところ、最近では《銀の匙》号の周辺をうろちょろし、航海を学ぼうとしているし、本格的な商売というやつを自らに蓄えようとしている。


 ピーニクもまたそれに全力で応援するような形である。




 「もしや、グリアというのは商人に一番向いているのではなかろうか」




 ガーナッシュ商会系列の店主がポロッとそのような発言をした。しかし、全く彼の言うとおりである。
 もし、生まれが違い、立場が違えば、恐らく、グリアは一代で大規模な商人集団を率いるだろう。


反対に、ピーニクは、黒馬の砦のような長であればすぐさま穀物庫の連中の配下に下り、ゆくゆくはその元で着実な内政を行ったのではないだろうか……。


 これは、あくまでも推測である。




 そして、才能というヤツは時に残酷である。必ずしも、求める才能とは別の才能を誰か望まぬ人間が所持している可能性が殊のほかおおい。




 「つまりね、歴史というやつの最高の調味料、スパイスはね、〝皮肉”なんですよね……」


 ある歴史作家が笑いながらそう語った。全くそのとおりである。




 この時のグリアとピーニクの関係も無論そのような因果によって結びついてる。










 そして、当のグリアは、未だこのバザールの地で力を蓄えていた。

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