異世界にいったったwwwww

あれ

十四

 ……息ができない。殆ど、のど輪を押しつぶす膨大な圧力のようであった。まるで、万力でギリギリと絞られるような感覚だ。


 深い泥濘のような闇の底なし沼にハマったみたいだった。肩から下が全部闇の沼に飲み込まれていく。喘ぎ、何度も懸命にもがいてみても、それま全くの無意味であることを、時間が無情な顔で教える。


  ……エイフラムはその残酷なまでの絶望を高圧電流が直接流されるみたいに、肌にも、骨にも、そして魂の底まで感じ取っていた。




 (あの時の……繰り返しか……。)




 エイフラムは《あの日》におこった出来事が何度もリフレインする――それと、安い酒を飲んだあとの悪酔いのような恐怖心があるのを、己が感知していた。


 これは、夢である。そう、自分に言い聞かせれば言い聞かせるほど、度重なる後悔……己の非力さ、死にきれなかった弱さ、世界の不条理に対する恐れ……。


 何度も、何度も、瞼の裏に泛ぶ助けを求める同胞の顔――。




 「うぁあああああああああああああああ!!」




 エイフラムはそこで、夢が途切れ、目覚めるのを自覚した。




 肩と胸部が大きく波を打たせている。汗が止まらない。顎に伝う冷たいものを、手甲で拭う。
山の近い土地であるため、夜は肌寒く、吐く息も室内ですら白くなっている。軒先には小さな氷柱もある。
 地表には霜が薄く降りている。


 窓辺から黄金の蜜色の月光が揺籃と、雲間から差し込む。カーテンが窓の隙間風に僅かに震えた。


 (……夢だ。夢なんだ。)


 あの日以来――この鼓動打つ心臓が己の物で無くなったあの日から、この命の猶予が少ないことを確実に感じている。


 「お若いの、大事ないか?」


 手元に蝋燭の灯りを引き寄せた老人が寝床から起き上がって、エイフラムへ心配の眼差しを送っていた。


 居心地悪いように、顔を背けながら、青い唇と、茶色い髪を薄い闇に溶け込ませて、うなずく。


 何度か、僅かに「そうか、そうか、大変だな」と言いながら老人は台所の水瓶から木製の器に水を満たして持ってきた。


 「すまない……。」エイフラムは震える手でそれを受けろると、ごくごくと、喉をならして飲んだ。


 この、鼓膜に寄り添うような鼓動は、憎むべき人間の臓器だ。


 しかし、それによって、自分が生きながらえている事に関しての運命の皮肉に笑わざるを得なかった。




 怪訝そうに眺めつつ、


 「お若いの、あと三刻もすれば朝日が昇る。さすれば、まず登山用の装備を揃えなさい。もう少し先にも村がある。そこでなら買えるだろうよ。旅人の行先に幸多からんことを……。」


 老人は呟くように祈りを捧げ、また寝床に戻った。


 吹き消されたあとの中、月光に掌をかざして、もう一度、握り締める。




 (古龍の巣……。)




 眉には強い意思を秘めて、まだ止まない興奮を抑えようとした。





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