異世界にいったったwwwww
八
奥に通ったグリアが、今度は絶句する番であった。
「……なんだ、この量は」
薄暗い部屋には、壁一面に火槍が飾られていた。それだけでなく、各所の地図であったり、鎧甲冑、武器の一式に至り、また貴重な薬品、様々な軍事上で必要になるであろうものが、満載であった。
表向きの普通の商会ではない。それは薄々感づいていはいた。が、この本格的なまでの武具や、周辺物までとなると、バザールを歩き回らねばならぬと思われた。しかし、このガーナッシュという名前は、いわば、武器商人の新興勢力であるといってよい。
「どうです?」
ピーニクは涼しい顔で微笑む。
「ああ、あんたのとこと契約したい。」
すかさず、身分の確認のため「失礼ですが、お客様は……」と言葉を待った。
グリアは無意識に頷きながら、
「ああ、黒馬の砦の首領、グリアだ。」
それだけ言い切ると、火槍などに魅入られたように、つぶさに室内を見回っていく。まるで少年が虫かごをのぞくようであった。
(なるほど……盗賊くずれか。)
そう察知しながら、しかし、黒馬の経歴を考えれば、都市国家の血筋とも言える。
(おれは、この男に賭けてみたい)
なんとなく、この大柄の男を面白く感じた。
「お客さん、今日はいい酒がある。一献どうだ?」
ピーニクはふと、そう思った。
「ああ、いただこう。契約はそこからか?」
微笑み、
「ええ」
ピーニクは商会の中で火槍の流通経路を変更する案をすぐさま模索した。
商会の二階のテラスは、バザールを一望できる。大陸でも屈指の絶景を誇る海岸沿いが広がり、夕日の落ちる寸前の姿まで克明に見ることができた。海鳥の影もある。潮の匂いもうまい。
「どうですか?」
グラスに、琥珀色の酒が注がれる。さる、南方の果物を醸造して作られた希な酒である。
グリアはなにか考えるように難しい顔をしながら、グラスを受け取る。
「火槍はどれくらいしますか? 1つで」
「今ですと、牛3頭くらいですね」
「ほお、しかし、まあ高いですな。」
「しょうがないでしょう、まだ生産は鍛冶師のみですので。」
グリアは閃いた顔をしながら、テラスの小さな場所を歩き始めた。
「と、なると、部品や黒色火薬などだけとなると、安くなりますか?」
訝しげな顔をしながら、ピーニクはうなずく。
「ええ、可能です。しかし……」
そこまで、聞くと、グリアは大きく喜び、グラスの酒をごく、ごく、と喉をならして飲み干した。
「できる……できるぞ。して、一体どれくらいでしょうか?」
「……100金貨くらいですね」
グリアは大きくため息をついた。
「帝国通貨ですか? 商会通貨ですか? それとも……」
「中原金貨で、です」
「馬鹿な! 牛より高い!」
「しょうがないでしょう。部品だけだと、それだけでも高い。完成品で売ることが前提ですので。」
ピーニクは相手の交渉の力量を探りながら、口をグラスのふちに1つ、つける。
すると、グリアはわらった。
「そうだ。すると、その希少な部分の金属溶接などを、こちらでやらせてくれないか? その対価として火槍を欲しい。」
ピーニクは、むせた。しばらく、咳をしてから、
「どういう理屈でそうなったのでしょうか?」苛立ちながら相手を睨む。
グリアはそれを無視するように、
「こちらは黒馬の民です。金属の扱いはお手ものでござれば、問題もないでしょう」
(そうか、いや、しかし)
今度は、ピーニクが思考する番であった。
グリアはそわそわしながら、薄暗くなってきた空と、風を受けながら、瓶からドクドクと酒を注ぐ。
「わかりました。お受けしましょう。そのかわり……」
「そのかわり?」
「どれくらい必要なのでしょうか?」
「1200」
「せ……1200!?」
それだけで、一財産築けるほどのものであった。
深い嘆息ののち、ピーニクが、
「まず、貴殿がなにをしたいか、洗いざらい話してください。」
内心、客に内情を聞くのは商人としては禁忌であることを思い出したが、どうやら乗りかかった船に思えてきた。だが、果たして、相手は話すだろうか?
その危惧を越えるように、グリアはためらいもせず、黒馬の砦の内情、財政状態、さらに今後の展望を話しだした。
一つには酒の力もあろうが、なによりグリアはこの若い商人のピーニクという人物を気に入ったということが大きい。
それを察知した彼は、
「しかし、仮に戦争となれば、勝てますか?」
すると、暗い顔で首をふる。
「まったく、難しい。おそらく無理だろう。」
その正直さがピーニクにはこ気味良い。
「アハハハハハ。うん、分かりました。こちらも全力で応援しましょう、もし、負けるようなことがあれば、いつでも私を頼ってください。」
すると、明るい顔で、グリアが、
「いや、俺より女子供を受け入れて欲しい。」
ピーニクは肩を竦めて、
「ええ。ですが、私はあくまで貴殿と契約したのです。ぜひ、貴殿が壮健なる姿を見せて欲しいものですな」
グリアに似合わない苦笑いをしながら、グラスを目前に差し出す。
「乾杯ですかな」
「ああ」
二つのグラスは小さな響きと共に、夜空の澄んだ空気に伝う。
その瞬間から二人は同志として、強い盟約によって結ばれた。
……黒馬の砦の反乱のつい数ヶ月前で出来事である。
「……なんだ、この量は」
薄暗い部屋には、壁一面に火槍が飾られていた。それだけでなく、各所の地図であったり、鎧甲冑、武器の一式に至り、また貴重な薬品、様々な軍事上で必要になるであろうものが、満載であった。
表向きの普通の商会ではない。それは薄々感づいていはいた。が、この本格的なまでの武具や、周辺物までとなると、バザールを歩き回らねばならぬと思われた。しかし、このガーナッシュという名前は、いわば、武器商人の新興勢力であるといってよい。
「どうです?」
ピーニクは涼しい顔で微笑む。
「ああ、あんたのとこと契約したい。」
すかさず、身分の確認のため「失礼ですが、お客様は……」と言葉を待った。
グリアは無意識に頷きながら、
「ああ、黒馬の砦の首領、グリアだ。」
それだけ言い切ると、火槍などに魅入られたように、つぶさに室内を見回っていく。まるで少年が虫かごをのぞくようであった。
(なるほど……盗賊くずれか。)
そう察知しながら、しかし、黒馬の経歴を考えれば、都市国家の血筋とも言える。
(おれは、この男に賭けてみたい)
なんとなく、この大柄の男を面白く感じた。
「お客さん、今日はいい酒がある。一献どうだ?」
ピーニクはふと、そう思った。
「ああ、いただこう。契約はそこからか?」
微笑み、
「ええ」
ピーニクは商会の中で火槍の流通経路を変更する案をすぐさま模索した。
商会の二階のテラスは、バザールを一望できる。大陸でも屈指の絶景を誇る海岸沿いが広がり、夕日の落ちる寸前の姿まで克明に見ることができた。海鳥の影もある。潮の匂いもうまい。
「どうですか?」
グラスに、琥珀色の酒が注がれる。さる、南方の果物を醸造して作られた希な酒である。
グリアはなにか考えるように難しい顔をしながら、グラスを受け取る。
「火槍はどれくらいしますか? 1つで」
「今ですと、牛3頭くらいですね」
「ほお、しかし、まあ高いですな。」
「しょうがないでしょう、まだ生産は鍛冶師のみですので。」
グリアは閃いた顔をしながら、テラスの小さな場所を歩き始めた。
「と、なると、部品や黒色火薬などだけとなると、安くなりますか?」
訝しげな顔をしながら、ピーニクはうなずく。
「ええ、可能です。しかし……」
そこまで、聞くと、グリアは大きく喜び、グラスの酒をごく、ごく、と喉をならして飲み干した。
「できる……できるぞ。して、一体どれくらいでしょうか?」
「……100金貨くらいですね」
グリアは大きくため息をついた。
「帝国通貨ですか? 商会通貨ですか? それとも……」
「中原金貨で、です」
「馬鹿な! 牛より高い!」
「しょうがないでしょう。部品だけだと、それだけでも高い。完成品で売ることが前提ですので。」
ピーニクは相手の交渉の力量を探りながら、口をグラスのふちに1つ、つける。
すると、グリアはわらった。
「そうだ。すると、その希少な部分の金属溶接などを、こちらでやらせてくれないか? その対価として火槍を欲しい。」
ピーニクは、むせた。しばらく、咳をしてから、
「どういう理屈でそうなったのでしょうか?」苛立ちながら相手を睨む。
グリアはそれを無視するように、
「こちらは黒馬の民です。金属の扱いはお手ものでござれば、問題もないでしょう」
(そうか、いや、しかし)
今度は、ピーニクが思考する番であった。
グリアはそわそわしながら、薄暗くなってきた空と、風を受けながら、瓶からドクドクと酒を注ぐ。
「わかりました。お受けしましょう。そのかわり……」
「そのかわり?」
「どれくらい必要なのでしょうか?」
「1200」
「せ……1200!?」
それだけで、一財産築けるほどのものであった。
深い嘆息ののち、ピーニクが、
「まず、貴殿がなにをしたいか、洗いざらい話してください。」
内心、客に内情を聞くのは商人としては禁忌であることを思い出したが、どうやら乗りかかった船に思えてきた。だが、果たして、相手は話すだろうか?
その危惧を越えるように、グリアはためらいもせず、黒馬の砦の内情、財政状態、さらに今後の展望を話しだした。
一つには酒の力もあろうが、なによりグリアはこの若い商人のピーニクという人物を気に入ったということが大きい。
それを察知した彼は、
「しかし、仮に戦争となれば、勝てますか?」
すると、暗い顔で首をふる。
「まったく、難しい。おそらく無理だろう。」
その正直さがピーニクにはこ気味良い。
「アハハハハハ。うん、分かりました。こちらも全力で応援しましょう、もし、負けるようなことがあれば、いつでも私を頼ってください。」
すると、明るい顔で、グリアが、
「いや、俺より女子供を受け入れて欲しい。」
ピーニクは肩を竦めて、
「ええ。ですが、私はあくまで貴殿と契約したのです。ぜひ、貴殿が壮健なる姿を見せて欲しいものですな」
グリアに似合わない苦笑いをしながら、グラスを目前に差し出す。
「乾杯ですかな」
「ああ」
二つのグラスは小さな響きと共に、夜空の澄んだ空気に伝う。
その瞬間から二人は同志として、強い盟約によって結ばれた。
……黒馬の砦の反乱のつい数ヶ月前で出来事である。
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