異世界にいったったwwwww
47
曇り空を眺め、酸っぱい匂いの空気を吸い込んだ。
壮一から渡された機関銃の弾も少ない。モグラは既に使い果たしている。
そのモグラは、岩肌を背に座してもたれかかり、兜を目深にかぶって寝ている。大胆というか、体力の限界がきているのだろう。
グリア自身、なんども気を失いかけた。睡魔、ストレス、知恵熱、殆どこれの繰り返しである。
顔を引っ込め、存在の分からない神に祈る。そして、自己嫌悪した。神など信用しないハズだった自分が情けなく、頼る気持ちを持っていたことに。
と、
「グリアさんよッ! お知らせだ! 大砲完成だ。」
支援部隊の男が、グリアの肩をゆする。
「なに、本当か!」
その男の後ろに、荷台の車輪と、ツギハギで、歪に鉄鋲を打たれた火槍の束があった。
厳密にいう大砲ではない。その場しのぎの大砲の偽物であるが、とにかく幸いであった。
「さて、どこに置きましょうか?」
ふむ、と暫くグリアは考えた。 閃がした。
「おそらく火槍の届く範囲であれば、“あそこ”におけばよいだろう」
指さしたのは、北の門であった。
(まさか、狂ってる。)
そう叫びたくなった男は、しかし、唾を飲むだけだった。
だが、グリアは言い終わらぬうちに、モグラや手の空いている男たちをまとめあげ、大砲を門のすぐ傍に運ぶため、足場の悪い階段を下った。
曇った空に微かな流れが生じた。
遠征軍、北の門攻略部隊、なかでも一番の死傷者をだしたのは、イヴァンの率いる部隊である。
みな、都市国家の夢のため、命を惜しまない覚悟で挑んでいた。
「強情だ。」
イヴァンは呟く。本音だった。火攻めも通用しない。力技も通用しない。だが、なにより、遠征軍の士気の低さ。
全てが、絶望的に映った。
何度目の敵前ターンを騎馬で行っていたイヴァンの目前に信じられない出来事がみえた。
岩肌の隙間に隠れた分厚い門が俄に開こうとしている。
イヴァンの体が硬直した。
だが、すかさず「皆の者、我に続け!」と勇敢に馬をはしらせた。
「いけません! イヴァンさま自らの先陣は危うくござる」
イヴァンを守った近衛兵と近くの歴戦の武士が、肩を並べて諌める。
しかし、その声は届かない。
諦めた周りの連中は、イヴァンを死なせぬように、我先にと、門へむかい全力で駆けた。
――門は徐々にひらく。
だが、イヴァンの先をゆく将兵の光景はここで途切れる。
まるで雷が平行に閃いたかのように、輝き、その後にくる轟音が地面を揺さぶる。
《穀物庫》の主要武士が、その一撃で殆ど肉塊となり、空中をバラバラに散る。鈍い血の色が大地の草に注がれた。
絶望の声をあげる暇なく死に絶える同胞。
イヴァンは、はた、と敵を背中にして、逃げていることに気がついた。
その彼を守るように、自軍の兵が、必死で大砲の壁となってくれているのを、遠目にみながら、逃げている。
また、一撃、強い煙に、強い光、そして死に絶える兵と武将。唇と手綱をもつ手が震えた。
グリアは無機質に、黄金色の縮れ毛をかきあげる。
「おい、どういうことだ!」
モグラが目を剥き、矢継ぎ早に質問をした。
「ああ。あのタイホウとやらと、壮一に渡されたキカンジュウという武器を少々参考にさせてもらったんだろう。」
モグラが呆れて、
「だろう……って、お前、知らないのか!」と怒鳴る。
酢を飲んだような顔で、頷く。
そう、タイホウを造らせた折り、キカンジュウを少々技術者に解体した部品などを詳細に記録はさせた。その後、どのようになるかは、技術者頼みであったのだ。
「ったく、それよりありゃあ、すげぇな。」
モグラは、数十人が“砲門”を押して北の門を出てくる友軍に嬉しげな目をやる。
その友軍の操る兵器は、黒馬の民の十八番でもある金属加工の特性を生かしたものであり、火槍を束にして、回転させながら連射をするというものであった。 そう、その形態はまさに、我々現代地球で知るところの「ガトリング砲」に近いものであった。 ババババババババ、と凄まじい紅蓮の球体を吐き出す。猛烈な勢いで遠征軍の連中をなぎ払う。
そして、その勢いの凄まじさに感化されたグリアの部隊の数十人が、遠征軍側にあろうことか、切り込みをかけにいった。
これにより、数で圧倒的に勝った遠征軍が、浮き足立った。
(行ける!)
モグラは確信した。
これを傍観していた遠征軍も旗色が悪くなると、物見をやめ、包囲に取り掛かった。
本陣に駆け戻ったイヴァンは、髪の毛を振り乱し、ほうほうの体できた。
薄笑いを浮かべた炎の魔術師は、
「まだ、炎の力、いらぬ、というか?」
青い顔だったイヴァンは、
「まだ、遠征軍の主力がある。」
「ほう、だが二万といえども、全て兵隊であるはずがなかろう。」
確かにそうだ、とイヴァンは考えた。
戦争とは、補給や、その他の支援も含めて兵力としてカウントされる。この場合、遠征軍の実質てきな兵力は一万五千と見積もるほうがよいだろう。
「だが、連中より多い。断然に!」
そうか、とまた笑うと、炎の魔術師は、アクビをして、本陣を出て行った。 (あんな男、もし頼れば、《蘇》からなにを言われるか)
内心の不安と、体の憔悴を同時に食らって、イヴァンは地面に倒れ込んだ。
「行くぞッ! 相手さんは、ビビってる。今なら切り込めるッぞ。俺に続け」 そう叫ぶと、門を飛び出し、走り出す。敵軍の死骸を踏みしだく。そこには数匹の主を失った馬の嘶きをきいた。
グリアは、手荒に馬の手綱を握り、鎧を付けているとは思えない速さで鞍にまたがった。
腰に佩いた大ぶりの剣を抜き出し、
「者共、いざッ!」
と、一直線に敗走するイヴァンの背中を追いかけた。
モグラが、
「グリア、まずいぞ。連中、おれらを囲んでやがる。」
だからなんだ、と言いたげに、馬上から後ろを振り返るグリア。
しょうがない、と観念し、モグラは敵の中に飛び込む。
門の内側にいた連中も慌てて後に続く。 グリアを先頭に、三角形の陣形が自然とできた。《穀物庫》の部隊は、軍の中腹を食い破られるようにして、割れてしまった。
黒馬の砦から、数マリ先に立群する森に“森の盗賊別動部隊”が密かに、機会を伺っていた。
別働隊には、途中雇い兵を持っている。これは、近くのあぶれ者を雇い入れた結果であり、総兵力、約七千となっている。
森の盗賊側の指揮官は、筋肉質な体つきと、傷跡の凄まじい、いかにも歴戦の男である。彼は皆から鬼瓦と呼ばれていた。公私共にこの呼び名を通すことにした。
「鬼瓦団長、いま、黒馬が優勢です。」
「そうだろう。」
遠目から、軍勢の動きを伺っている。
鬼瓦が、
「そうだ、雇兵を先遣隊に、本体をその二マリ後ろとして手薄になった遠征軍の本陣にゆこう。」
正確無比な戦術眼がひかる。
すぐさま、部下が雇兵の長まで話をつけにいった。
数刻後、
「なんじゃ、こちとら、まだ集団の動きがとれんのだぞ」
怒りを顕にした男がきた。
鬼瓦は、ほう、と驚く。
大変太った男で、体重はゆうに大人三人分であろう。むき出しの目玉。手入れのされてない髭面。丸太のような腕。
「ああ、貴殿が長か。」
「そうだ。」
「名は?」
「オイか? オイはザルだ。」
ざる、と記憶するように復唱する鬼瓦。
早速作戦の話だ、と話を持ち出す盗賊側。
まだ訓練中を切り上げ、不機嫌なザルであった。
しかし、鬼瓦の話が終わると、
「そりゃ、オイたちを捨て駒にするんじゃないか!」
と怒鳴った。
「まさか。」
「白々しい。」
険悪な空気が漂う。 鬼瓦の後ろに控えた衛兵が、武器に手をかける。 しかし、それを見逃さず、ザルが、本陣の出入り口に刺さった槍を引き抜き、たちまち、二つの首を跳ね飛ばした。
(なんとゆう武勇の持ち主だ)
鬼瓦は、素直に感嘆した。
充血した目が、荒い鼻息が、猛将という風にみえるが、元は彼は肉屋の主であった。
そのザルが、唾を吐き捨て、
「おい、あんたらの犬は躾ができとらん。」
と、イヤミをいう。
「なるほど、たしいた武勇だ。しかし、ご覧になればわかる。いま、戦局は黒馬が有利、我らも貴殿の後ろからではあるが戦う。間違いない。」
と、あの手この手で説得をし、ついに契約金の増額で決着がついた。
調練をしていた元農民の男達が、ザルの姿をみると、背筋が正しくなる。 「キサマら、今から殺し合いじゃ。」
一同は、理解できていない様子だった。
すると、
「いまから敵の遠征軍を潰しにゆく。」
とだけ怒鳴ると、足早に暴れ牛を引きずってきた。
ザルは、馬に乗れる体重ではいため、牛に跨り、戦争に赴く。 一見不格好な彼が、しかし一度戦場に出れば敵味方関係なく斬り殺す暴れ者であることはしれていた。 かくして、森の盗賊団は、変化しつつある戦場に向かった。
盗賊の先陣ザル率いる傭兵部隊が突破力となり、本陣を守った後詰を散々蹴散らし、あまつさえ、本陣の喉元に刃を向ける形となった。
「カッカッカ。弱い。こんなものか……。」
物足りなそうにザルは、顔を顰めた。
「貴様ッ、これ以上の狼藉は捨て置けぬ。」
若武者が一陣のうちを潜り、槍で一撃を突いた。
ザルは、ひら、と体を曲げ、牛の上から器用に太い朱槍を捌き、すかさず若武者に応戦する。
ザルの放った穂先が若武者の右肩を捉え、過たず腕を吹き飛ばした。
「……ッ、こんなもの!」
苦痛の色を抑え、腰元の剣で対抗した。
「ほう……久々の勇者だ!」
ザルは牛から降りると、槍を腰の高さにもってゆく。 若武者が「うおおおお」と、大きく振りかぶる。
「遅い!」
ザルは、空気をゴウ、と破り、若武者の首を刎ねて落とした。
胴体はザルの元まで歩いてきた。
だが、そこで途切れたように崩れ落ちた。
「なるほど、遠征軍の武士はかようにあっぱれ、益荒男ぶりを披露するか」 嬉々としてザルは牛に跨る。
無数の馬脚が大地で右往左往としている。
と、遠征軍の人垣を切り分けてやってくる人と牛がいた。
「邪魔だ、邪魔だ! なに、どうなっている。」
丸太の槍を轟々と振り回し、兵隊を弾き飛ばす。
その瞬間を見逃さず、朱槍を本陣の天幕に向ける。
その先に、年老いた老将が豁然と立っている。
壮一から渡された機関銃の弾も少ない。モグラは既に使い果たしている。
そのモグラは、岩肌を背に座してもたれかかり、兜を目深にかぶって寝ている。大胆というか、体力の限界がきているのだろう。
グリア自身、なんども気を失いかけた。睡魔、ストレス、知恵熱、殆どこれの繰り返しである。
顔を引っ込め、存在の分からない神に祈る。そして、自己嫌悪した。神など信用しないハズだった自分が情けなく、頼る気持ちを持っていたことに。
と、
「グリアさんよッ! お知らせだ! 大砲完成だ。」
支援部隊の男が、グリアの肩をゆする。
「なに、本当か!」
その男の後ろに、荷台の車輪と、ツギハギで、歪に鉄鋲を打たれた火槍の束があった。
厳密にいう大砲ではない。その場しのぎの大砲の偽物であるが、とにかく幸いであった。
「さて、どこに置きましょうか?」
ふむ、と暫くグリアは考えた。 閃がした。
「おそらく火槍の届く範囲であれば、“あそこ”におけばよいだろう」
指さしたのは、北の門であった。
(まさか、狂ってる。)
そう叫びたくなった男は、しかし、唾を飲むだけだった。
だが、グリアは言い終わらぬうちに、モグラや手の空いている男たちをまとめあげ、大砲を門のすぐ傍に運ぶため、足場の悪い階段を下った。
曇った空に微かな流れが生じた。
遠征軍、北の門攻略部隊、なかでも一番の死傷者をだしたのは、イヴァンの率いる部隊である。
みな、都市国家の夢のため、命を惜しまない覚悟で挑んでいた。
「強情だ。」
イヴァンは呟く。本音だった。火攻めも通用しない。力技も通用しない。だが、なにより、遠征軍の士気の低さ。
全てが、絶望的に映った。
何度目の敵前ターンを騎馬で行っていたイヴァンの目前に信じられない出来事がみえた。
岩肌の隙間に隠れた分厚い門が俄に開こうとしている。
イヴァンの体が硬直した。
だが、すかさず「皆の者、我に続け!」と勇敢に馬をはしらせた。
「いけません! イヴァンさま自らの先陣は危うくござる」
イヴァンを守った近衛兵と近くの歴戦の武士が、肩を並べて諌める。
しかし、その声は届かない。
諦めた周りの連中は、イヴァンを死なせぬように、我先にと、門へむかい全力で駆けた。
――門は徐々にひらく。
だが、イヴァンの先をゆく将兵の光景はここで途切れる。
まるで雷が平行に閃いたかのように、輝き、その後にくる轟音が地面を揺さぶる。
《穀物庫》の主要武士が、その一撃で殆ど肉塊となり、空中をバラバラに散る。鈍い血の色が大地の草に注がれた。
絶望の声をあげる暇なく死に絶える同胞。
イヴァンは、はた、と敵を背中にして、逃げていることに気がついた。
その彼を守るように、自軍の兵が、必死で大砲の壁となってくれているのを、遠目にみながら、逃げている。
また、一撃、強い煙に、強い光、そして死に絶える兵と武将。唇と手綱をもつ手が震えた。
グリアは無機質に、黄金色の縮れ毛をかきあげる。
「おい、どういうことだ!」
モグラが目を剥き、矢継ぎ早に質問をした。
「ああ。あのタイホウとやらと、壮一に渡されたキカンジュウという武器を少々参考にさせてもらったんだろう。」
モグラが呆れて、
「だろう……って、お前、知らないのか!」と怒鳴る。
酢を飲んだような顔で、頷く。
そう、タイホウを造らせた折り、キカンジュウを少々技術者に解体した部品などを詳細に記録はさせた。その後、どのようになるかは、技術者頼みであったのだ。
「ったく、それよりありゃあ、すげぇな。」
モグラは、数十人が“砲門”を押して北の門を出てくる友軍に嬉しげな目をやる。
その友軍の操る兵器は、黒馬の民の十八番でもある金属加工の特性を生かしたものであり、火槍を束にして、回転させながら連射をするというものであった。 そう、その形態はまさに、我々現代地球で知るところの「ガトリング砲」に近いものであった。 ババババババババ、と凄まじい紅蓮の球体を吐き出す。猛烈な勢いで遠征軍の連中をなぎ払う。
そして、その勢いの凄まじさに感化されたグリアの部隊の数十人が、遠征軍側にあろうことか、切り込みをかけにいった。
これにより、数で圧倒的に勝った遠征軍が、浮き足立った。
(行ける!)
モグラは確信した。
これを傍観していた遠征軍も旗色が悪くなると、物見をやめ、包囲に取り掛かった。
本陣に駆け戻ったイヴァンは、髪の毛を振り乱し、ほうほうの体できた。
薄笑いを浮かべた炎の魔術師は、
「まだ、炎の力、いらぬ、というか?」
青い顔だったイヴァンは、
「まだ、遠征軍の主力がある。」
「ほう、だが二万といえども、全て兵隊であるはずがなかろう。」
確かにそうだ、とイヴァンは考えた。
戦争とは、補給や、その他の支援も含めて兵力としてカウントされる。この場合、遠征軍の実質てきな兵力は一万五千と見積もるほうがよいだろう。
「だが、連中より多い。断然に!」
そうか、とまた笑うと、炎の魔術師は、アクビをして、本陣を出て行った。 (あんな男、もし頼れば、《蘇》からなにを言われるか)
内心の不安と、体の憔悴を同時に食らって、イヴァンは地面に倒れ込んだ。
「行くぞッ! 相手さんは、ビビってる。今なら切り込めるッぞ。俺に続け」 そう叫ぶと、門を飛び出し、走り出す。敵軍の死骸を踏みしだく。そこには数匹の主を失った馬の嘶きをきいた。
グリアは、手荒に馬の手綱を握り、鎧を付けているとは思えない速さで鞍にまたがった。
腰に佩いた大ぶりの剣を抜き出し、
「者共、いざッ!」
と、一直線に敗走するイヴァンの背中を追いかけた。
モグラが、
「グリア、まずいぞ。連中、おれらを囲んでやがる。」
だからなんだ、と言いたげに、馬上から後ろを振り返るグリア。
しょうがない、と観念し、モグラは敵の中に飛び込む。
門の内側にいた連中も慌てて後に続く。 グリアを先頭に、三角形の陣形が自然とできた。《穀物庫》の部隊は、軍の中腹を食い破られるようにして、割れてしまった。
黒馬の砦から、数マリ先に立群する森に“森の盗賊別動部隊”が密かに、機会を伺っていた。
別働隊には、途中雇い兵を持っている。これは、近くのあぶれ者を雇い入れた結果であり、総兵力、約七千となっている。
森の盗賊側の指揮官は、筋肉質な体つきと、傷跡の凄まじい、いかにも歴戦の男である。彼は皆から鬼瓦と呼ばれていた。公私共にこの呼び名を通すことにした。
「鬼瓦団長、いま、黒馬が優勢です。」
「そうだろう。」
遠目から、軍勢の動きを伺っている。
鬼瓦が、
「そうだ、雇兵を先遣隊に、本体をその二マリ後ろとして手薄になった遠征軍の本陣にゆこう。」
正確無比な戦術眼がひかる。
すぐさま、部下が雇兵の長まで話をつけにいった。
数刻後、
「なんじゃ、こちとら、まだ集団の動きがとれんのだぞ」
怒りを顕にした男がきた。
鬼瓦は、ほう、と驚く。
大変太った男で、体重はゆうに大人三人分であろう。むき出しの目玉。手入れのされてない髭面。丸太のような腕。
「ああ、貴殿が長か。」
「そうだ。」
「名は?」
「オイか? オイはザルだ。」
ざる、と記憶するように復唱する鬼瓦。
早速作戦の話だ、と話を持ち出す盗賊側。
まだ訓練中を切り上げ、不機嫌なザルであった。
しかし、鬼瓦の話が終わると、
「そりゃ、オイたちを捨て駒にするんじゃないか!」
と怒鳴った。
「まさか。」
「白々しい。」
険悪な空気が漂う。 鬼瓦の後ろに控えた衛兵が、武器に手をかける。 しかし、それを見逃さず、ザルが、本陣の出入り口に刺さった槍を引き抜き、たちまち、二つの首を跳ね飛ばした。
(なんとゆう武勇の持ち主だ)
鬼瓦は、素直に感嘆した。
充血した目が、荒い鼻息が、猛将という風にみえるが、元は彼は肉屋の主であった。
そのザルが、唾を吐き捨て、
「おい、あんたらの犬は躾ができとらん。」
と、イヤミをいう。
「なるほど、たしいた武勇だ。しかし、ご覧になればわかる。いま、戦局は黒馬が有利、我らも貴殿の後ろからではあるが戦う。間違いない。」
と、あの手この手で説得をし、ついに契約金の増額で決着がついた。
調練をしていた元農民の男達が、ザルの姿をみると、背筋が正しくなる。 「キサマら、今から殺し合いじゃ。」
一同は、理解できていない様子だった。
すると、
「いまから敵の遠征軍を潰しにゆく。」
とだけ怒鳴ると、足早に暴れ牛を引きずってきた。
ザルは、馬に乗れる体重ではいため、牛に跨り、戦争に赴く。 一見不格好な彼が、しかし一度戦場に出れば敵味方関係なく斬り殺す暴れ者であることはしれていた。 かくして、森の盗賊団は、変化しつつある戦場に向かった。
盗賊の先陣ザル率いる傭兵部隊が突破力となり、本陣を守った後詰を散々蹴散らし、あまつさえ、本陣の喉元に刃を向ける形となった。
「カッカッカ。弱い。こんなものか……。」
物足りなそうにザルは、顔を顰めた。
「貴様ッ、これ以上の狼藉は捨て置けぬ。」
若武者が一陣のうちを潜り、槍で一撃を突いた。
ザルは、ひら、と体を曲げ、牛の上から器用に太い朱槍を捌き、すかさず若武者に応戦する。
ザルの放った穂先が若武者の右肩を捉え、過たず腕を吹き飛ばした。
「……ッ、こんなもの!」
苦痛の色を抑え、腰元の剣で対抗した。
「ほう……久々の勇者だ!」
ザルは牛から降りると、槍を腰の高さにもってゆく。 若武者が「うおおおお」と、大きく振りかぶる。
「遅い!」
ザルは、空気をゴウ、と破り、若武者の首を刎ねて落とした。
胴体はザルの元まで歩いてきた。
だが、そこで途切れたように崩れ落ちた。
「なるほど、遠征軍の武士はかようにあっぱれ、益荒男ぶりを披露するか」 嬉々としてザルは牛に跨る。
無数の馬脚が大地で右往左往としている。
と、遠征軍の人垣を切り分けてやってくる人と牛がいた。
「邪魔だ、邪魔だ! なに、どうなっている。」
丸太の槍を轟々と振り回し、兵隊を弾き飛ばす。
その瞬間を見逃さず、朱槍を本陣の天幕に向ける。
その先に、年老いた老将が豁然と立っている。
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