非人道的地球防衛軍

ウロノロムロ

生まれ変わったイケメン改造人間

「しかしここもゾンビ兵とか半魚人とか増えたな」


『チームGEDOU(外道)』リーダー・石動不動は一条女史に呼びだされていた。
何でもゾンビ兵の強化について相談があるらしい。
その一条女史は何やら必死にノート型端末をいじっていた。


『海底王国』戦以降、戦死者の屍を再生医療で修復してゾンビ兵とする研究が進められていた。
魂を持たないゾンビ兵の頭にチップを埋め込んで動かす実験がムショ内で行われており、最近ムショ内でやたらにゾンビ兵を見かけるようになっていた。
もし万一遺族にでも見つかってバレたら大変なことになる。『ピース9』も黙ってはいないだろう。
また元同僚の姿形をした別の何かが、ムショ内をうろうろしているのも職員の精神衛生的によろしくないということで、ゾンビ兵は全員白い髑髏の硬質マスクを被っていた。
一条女史は骨模様の黒い全身タイツとマスクを強く推していたが、それは諸般の事情により却下。
代わりに黒の戦闘スーツをゾンビ兵は着込んでいた。
それについては「戦闘員感が足りないなー」と一条女史はいつも文句を言っている。


半魚人も同様に『海底王国』戦の際に、亡命して来た者、投降して捕虜になり寝返った者などがムショ内をよくうろつくようになっていた。捕虜に関しては、事前に同意書に同意させて、多かれ少なかれ洗脳と人格矯正のプロクラムは受けていた。同意書も半ば断れないような状況で同意させていたのではあったが。


-


「で、話ってのはなんなんだよ」


ノート端末を必死にいじる一条女史に石動は尋ねた。


「異世界人のテロ対策用に強化ゾンビ兵を考えているんだけどさー、どんなのがいいかなー」


スーパーロボット像のレセプションにて、魔界人によるテロ未遂事件があって以降、この世界に来た異世界人によるテロ行為、犯罪行為が多発して来ており、防衛軍は頭を悩ませていた。
難民・亡命者の問題を含め、地球防衛軍日本支部としても新たなテロ対策、対テロ組織、体制を講じていかなければならい。


一条女史は妄想を全開にして自らのアイデアを嬉々として語る。


「両肩に大砲とかバズーカ砲が着いているのはどうかなー、背中でもいいんだけどー」


「お前馬鹿か、あんな人型のもんに、そんなもん着けたら、撃った瞬間に反動で倒れるだろ」


一条女史はアイデアを却下されてムスっと頬を膨らます。


「じゃあ、手がブレードとかチェーンソーになってるのはどうだー、デカいハサミでもいいぞー」


「全然だめだろ。なんだよその対格闘戦に特化した仕様はよ。
いいか、指が五本あって道具が使えるってのはデカいんだよ。汎用性が桁違いなんだよ。」


再びむくれる一条女史。


「普段五本指で、戦況に応じて手が変形するとかならまだわかるけどよ。」


「お前、天才かよー」


「手の甲から巨大な爪が伸びるとかでもいいけどよ。」


「お前、アメコミかよー」


石動と一条女史の間でそんな会話がひとしきり交わされる。




「でもよ、そもそも今のゾンビ兵が、テロや犯罪に臨機応変に対応するとか無理だろ。
そこはやっぱ人間がやるしかねえんじゃねえの?」


「だよねー、やっぱ悪の犯罪と戦う改造人間とかだよねー」


「そこは別に改造されてなくてもいいだろ。」


「いやー、普通の人間が単体で異世界人に勝てるわけないっしょー」


「『海底王国』戦も結局物量作戦だったしー」


「そこは戦争とテロ対策一緒にすんなよ。」


「誰か改造人間に志願してくれる人いないもんかねー」


「そういやお前最近改造させろって言って来ねえな」


「お前もう筋肉増強剤打ちまくって改造人間みたいなもんだからなー」


「誰か志願者来ないかねー」


-


しかし意外なことに志願者は現れた。
異世界人のテロ犯を追跡中、『チームGEDOU(外道)』のメンバーが体中に銃弾を撃ち込まれて瀕死の重症を負った。
石動はすぐに一条女史のもとに駆けつけた。


「どうせー再生医療で治療されるんだろー」


これだけ再生医療が進んでしまえば、即死でなければ大概は治療が可能であった。
今や死人でさえ、肉体だけなら修復出来る。


「だがな、そいつは改造人間に志願するという遺言を残しているんだ。」


「ええー!」


一条女史は声を上げて興奮した。




一条女史はすぐにムショ内のデータベースにアクセスし、その彼の遺言動画を見た。


『自分は生まれてこの方、みんなからブサイク、ブサイクと言われ続けてきました。
女子からも、ブサイク、キモイ、ブタ、最低、死ね、などという罵声を浴びなかった日は一日もありませんでした。
おかげで女子とは一言も話しをすることす出来ず。当然ながら彼女などおらず、結婚も出来ず、子孫を残すことも出来ず、いやおそらく一生童貞で終わることでしょう。
せめて人の役に立ちたいと思い防衛軍に入りましたが、もし僕が死にかけるようなことがあれば、ブサイクのまま延命して生きるよりも、イケメンな改造人間になって生まれ変わりたい。イケメン改造人間になって女子にモテたい。イケメン改造人間になって人生を謳歌したい。人々の役にも立ちたいです。』


『人の役に立ちたい』の取ってつけた感が半端なかった。


「誰か、玉ネギ切ってないー?目から水が流れてるんだどー
これ泣いてあげてもいいやつだよねー?同情して泣いてもいいやつだよねー?」


「ああ、俺も目から汗が出やがってるぜ、筋トレして汗かき過ぎたな」


一条女史も石動も哀れ過ぎる彼に同情せずにはいられなかった。


-


とりいそぎ素体候補の彼は生命維持装置に移された。
一条女史は石動とどういう改造人間にしていくかを話し合った。


「定番のモチーフとしては、バッタ、蜘蛛、蝙蝠辺りかなー」


「おいおいもうちょっとましなもんにしてやれよ。
昆虫とか害虫みたいなのばっかじゃねえか」


「何言ってんだよお前はー、ヒーローの定番じゃないかー」


「いっそ熊とかどうだ?」


「馬鹿野郎―!熊とか見た目バッとしないだろうがー、地味なんだよー」


「脳筋らしい、パワータイプ推してきやがってー
どうせなら見た目重視してパンダとか言いやがれー」


「パンダは大人しいだろ。寝てるイメージしかないぞ。」
「じゃあ、いっそライオンとか虎でどうだ?」


「ライオンとか虎のヒーローはいまいちメジャーになれないんだよなー」




石動は発想を転換して考えた。いや、そもそもここから話はじめるべきだったのだ。


「じゃあ、もっと実用的に考えようぜ。そもそもテロ対策用なんだろ?
じゃあ、犯人追いかけるのに、そこそこ脚力が必要だな。脚が早くないといけねえな。
となると、チータとか、ジャガー、ピューマ辺りか。」


「いや地面走るだけじゃダメだろー」


「市街地なんだからビルの谷間をピョンピョン駆け回るぐらいじゃないとー」


「となると、インパラ?とかどうだい」
「パワーもそこそこあるんじゃねえかな、よくは知らないけど。」


「インパラかー、案外悪くないかもー
名前はインパライダーだねー」


「お前も結構ギリギリなとこ責めるな。俺でも知ってるやつだぞ、それ。
そもそもライダーって言ってるけど、何に乗るんだよ。」


-


次は改造手術の手法について検討された。


「骨格強化してー、細胞レベルで筋肉増強してー、インパラの能力移植する感じかなー
人口強化骨格やら特殊強化細胞使う感じでー」


「なんだ、手とか足とか切り離して、メカニックなもん着けたりするんじゃねえのか。」


「馬鹿野郎―、いくらあたしでも他人様の手足気軽にちょん切るのには抵抗あんだよー、医師じゃねえしー」


「なんだお前、いつも改造させろとか言ってる癖に、いざとなったらビビるタイプか?
それにちょん切って失敗したら、それこそ再生医療でまた生やせばいいじゃねえか、元の手足を。」


「お前、天才かよー」


石動の発言には一条女史も目から鱗だった。




「君を生まれ変わらせてあげるよー」


改造手術の間、一条女子は目を輝かせて呟いていた。


「私が君を生まれ変わらせてあげるよー
ついでにイケメンにもしといてあげるよー」


ちなみに手術自体は専門の医療スタッフが行い、一条女史は脇で見ていただけであった。




改造手術は無事成功し、遂に一条女史は念願の夢を叶えることになる。


「これが俺っすか?」


改造手術を受けた元ブサイク男性も、念願の夢を叶えることが出来た。


「君が思うイケメンがどんなかわからなかったからー
まぁどうせ女にモテればいいんだろうと思ってー
今女性に人気ナンバーワンのイケメン俳優みたいな顔にしておいたよー」


元ブサイクもイケメンに生まれ変わって、本当に嬉しそうにしている。


「ありがとうございます!俺本当に生まれ変わったんすね」


「まぁすぐにでもナンパにでも行きたいところだとは思うけどー
ちゃんと改造人間ヒーローとしてのお仕事はしてもらうからねー」
「じゃあ早速実戦練習で試しみようかー」


「相手どうするんですか?」


「目の前にいるじゃないー、脳筋ゴリラ怪人がー」


付き添いに来ていた石動はきょとんとした顔をしていた。


-


「おいおい、何でよりによってこんな狭いところやるんだよ」
ウォーミングアップしながら石動は問うた。


「インパライダーは市街地で戦うんだからさー
壁とかあるところじゃないと実戦ぽくならないだろー」


研究班のデータ収集担当が数人機材を調整している。
たまに忘れそうになるが、こう見えても一条女史は幹部クラスである。


模擬戦がはじまると、元ブサメンは変身してインパライダーに姿を変えた。
頭部に角が生え、体毛で覆われ、姿形は人間型のインパラといった見た目。まだ正義のヒーローというよりはインパラ怪人に見える。


「やっぱ変身ポーズは何かカッコいいの考えないとねー」
「カッコいい装備も必要かなー」


一条女史の発言をメモするデータ収集班。若干気の毒なような気もする。




「お前、俺が死なない程度には加減しろよ。
こちとら改造人間相手にするのははじめてなんだからな。」


石動は珍しく相手に手加減を要求する。相手は既に普通の人間ではないのだから仕方がない。


相変わらずパワー重視で拳を振り回す石動に、
インパライダーはその俊敏性を活かして、石動の周囲を飛び回る。
壁を蹴り、そのまま反対側の壁に飛び移り、また壁を蹴る。


「早いなこいつは」
「捕まえられればまだなんとかなるんだが」


インパライダーは天井と地面も使い、石動の周囲を飛び回り翻弄する。
元ブサメン、戦闘部隊の中でもかなり優秀だったようで、すぐに人間の力を超えた能力を使いこなしはじめる。
最後は壁を蹴った反動を利用して、石動の背後から飛び蹴りを入れる。
地面を二、三回転げ回って吹っ飛ぶ石動。


「痛てて」
「おいおい、正義の味方が背後からの飛び蹴りかよ」


「すいません、正面から行くと、石動さんのパンチに当たりそうだったんで」


インパライダーは頭を掻きながら謝った。


「まぁいいじゃないかー、インパライダーの戦い方の特徴が見えて来たよー、空中殺法って感じかなー」


「まさか自分が石動さんに勝てる日が来るとは思ってなかったっす」


その後、石動との力比べやら、鋼鉄をキックやパンチで破壊するやらの能力テストが行われた。
インパラのパワー不足を考えて、俊敏性とのバランスを崩さないように、パワーも強化されていたため、パワーもそこそこの威力であった。特に脚力がもともと強いこともあり、空中殺法からのインパライダー・反転キックは必殺技レベルの威力があった。
-


その後、インパライダーには専用のプロテクターやら装備が一式支給された。
現場までの移動手段として、専用バイクも用意された。バイクについては、インパラがバイクに乗っているというシュールな絵面になってしまっていたが。


「銃器は持たさないのか?異世界人相手だろ。」


石動の問いに一条女史はバツ悪そうに返事をした。


「一応考えてはいるんだけどねー、あんまり市街地で発砲して欲しくないんだよねー、一応法治国家だからねー日本はー」
「君達、異世界人摑まえる時、普通に発砲してくれるけど、結構大変なんだよねーこっちはー」
「出来れば肉弾戦で勝負して欲しいところだよねー」




実戦投入されたインパライダーは、次々と成果を挙げて行った。
不審な異世界人反応がキャッチされると、インパライダーは人間態でマシンに乗り現場へ急行。
現場で戦闘になると、変身してインパラ形態で交戦、不審異世界人を捕縛した。状況によってはそのまま殺害することも許可されていた。


そこで捕まった異世界人は防衛軍に連行され、尋問される。
尋問で供述される内容は、従来ルートで入手出来る情報と異なる系統のものが多く、異世界と異世界人の新たな情報を入手するための有効な手段となりつつあった。
現在、通称ムショと呼ばれる防衛軍施設内には、異世界人テロリストや犯罪者を投獄するための本物の刑務所が増設され、『ムショ中のムショ』という訳の分からない呼ばれ方をしていた。


敵との戦いに連戦連勝で結果を残せば、増長しはじめるというのが正義のヒーローのテンプレートではあるが、インパライダーもまた例外ではなかった。
そもそも普通のブサイクが、女にモテたい一心で、改造人間にまでなってイケメンの容姿を手に入れたのだ。その上人気ナンバーワンのイケメン俳優に匹敵する顔。
当然女にモテモテだったし、女遊びも激しかった。


パトロールと称して、街行く女子を口説き、ラブホに連れて行くのが日常。事件発生時は真面目に任務をこなしていたので、大目には見られていたが。
情事の最中に不審異世界人の通報を受け、ラブホから現地に向かうという、洋画のアクションものなどでよく見られるシーンも、しょっちゅうであった。


「わりわり、仕事の連絡入ったから」


「ちょっとまだ途中じゃない!」


「また今度連絡するから」


「あなた何の仕事してるのよ」


「うーん、正義の味方?」


「馬鹿じゃないの!もう知らない!」


こんなお約束が恥ずかし気もなく繰り返された。
今の仕事をしっかりやらないと、自分が手に入れたものが失われるかもしれない、という自覚だけはあるようだった。


モテない時期が長過ぎた反動であろうと、みんな大目に見ていたが、インパライダーの傲慢で強欲な色欲はとどまることを知らず、肥大化して行った。夜の淫らなパーティーやサークル活動にも精を出すようになり、昼夜を問わず女遊びに全力を尽くすインパライダー人間態。まるで中毒者や依存症患者のようになっていた。
防衛軍のムショ内でも、インパライダーは『淫パライダー』で、『淫らなパーティーの夜のライダー』なのではないかと噂されるぐらいであった。
また、インパライダーの脚力を活かした夜の技がすごいらしいとも噂されたが、夜の営みにどのように脚力が活かされたのかは定かではない。


-


その傲慢な欲望はそれだけでは終わらず、遂には様々なことに強欲さが見られるようになった。
インパライダーは様々な要望を一条女史に出し、強引に押通しはじめた。


「自分、翼人族との戦いでは空が飛べなくて苦戦しました。俺も空を飛べるようにしてください。」
『女の子抱きかかえて空飛ぶとかヒーローの夢っしょ』


インパライダー人間態はそんなことを考えていなくもなかった。


「確かに一理あるけどな。再改造というのはどうなんだ?」


石動は一条女史に問う。


「私も複数の能力を併せ持ったキメラには興味あるし、やぶさかではないんだけどねー
イメージ的には鳥類の羽根よりも蝙蝠の羽根かなー」
「改造の実験データ取れて、戦闘データの収集も出来るしー、まぁいいかなー」


インパライダーは再改造手術を受けて背中に蝙蝠の羽根を手に入れた。




これに味を占めたインパライダーは、次から次へと再改造要望を挙げて来た。


「自分、巨人族との戦いで近接格闘になって苦戦しました。
近接格闘になった際に、不意の一撃で相手の隙をつくれるように、尻尾を蛇にしてください。」
『プレイ中に蛇とかもうエロスの象徴っしょ、これ』


「確かに一理あるけどな。毒で相手の体を麻痺させたりも出来るしな。」


「改造の実験データ取れて、戦闘データの収集も出来るしー、まぁいいかなー」


インパライダーは再改造手術を受けて尻尾が蛇になった。




インパライダーの要求はさらにエスカレートしていく。


「自分、戦闘中相手の動きを拘束したいんで、体から触手が出るようにしてください。」
『触手ニュルニュルプレイとかもう最高っしょ』


「確かに一理あるけどな。戦闘中、中距離から敵を拘束出来たら余計な戦闘も減るな。」


「改造の実験データ取れて、戦闘データの収集も出来るしー、まぁいいかなー」


インパライダーは再改造手術を受けて体からタコとイカの触手が出るようになった。




インパライダーがいろいろと要望して、一条女史が実験、データ収集と称してそれを叶え続けた結果、最終的にインパライダーはやらかした感が半端ない姿になっていた。


「あー、インパラに蝙蝠の羽着けた時点で気づくべきだったよねー
見た目まんま悪魔だよねー、これー」


「蛇とか触手とか、もう意味分かんねぇな、これ」


インパライダーは、インパラをベースに、蝙蝠の羽、蛇の尻尾、手の甲や体中からタコとイカの触手がニュルニュルと出ている合成獣キメラのような姿になっていた。


「やっぱり、ヒーローは『心・技・体』だよねー」


「だな」


とにもかくにも、こうして一条女史の改造人間をつくるという念願の夢はかなえられた。




数日後、一条女史を見かけた石動が傍に寄って来た。


「お前が言うから、この間特撮番組見たんだけどよ。


改造人間じゃなくても、スーツタイプでよくないか?」


「そうなんだよねー、次はそれかなー」


一条女史は次もまだやる気だったらしい。











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