非人道的地球防衛軍

ウロノロムロ

激闘!海底王国戦

約半日後、再び『海底王国』の軍勢が探知された。
巨大な水棲生物が三体、数十メートル級が十体、数メートル級が約百であった。
発見後、直ちに航空戦力の出動が命じられた。
上空攻撃は命中精度が低いとしても、敵に少しでもダメージを与えておかなくてはならない。


CGによる再現映像が司令室に届くと、三体の巨大な水棲生物はクジラであった。
クジラの周囲は巨大なタコ、イカ、エイ、クラゲ、そしてなんとクリオネで構成さていた。


「やー、大きいクリオネ可愛いー」


この状況でもメンタルが強靭過ぎる一条女史。
巨大な水棲生物の周囲にはトビウオが群れていた。
やはり先ほどのサメは部隊には加わっていなかった。
しかし半漁人や人魚の姿も確認出来なかった。


「おそらくは第一陣なのでしょうが。この構成は不可解ですね。
陸に上がって来られそうなのがタコ、イカぐらいしかいません。」


「やっぱり、エイとクラゲが空飛ぶんだってー。トビウオもかなー」


「その可能性が高くなってきましたね。クジラも空を飛ぶためのものでしょうか。」


「空飛ぶ白鯨とかー、確かに定番だよねー」


「今ゲートを通れたのがこれだけなのかわかりませんが、
二陣、三陣と後続が後から来る可能性もありますね。」


まさか千野と一条女史の話が噛み合うことになるとは誰も思っていなかった。




防衛軍の航空戦力は、水中の魚群に向け爆撃を繰り返す。
クジラは前回のサメよりも巨大でスピードも遅いため、攻撃は多少当たってはいた。
こうなるとますます敵がクジラ隊を出してきた意図が不明である。
クジラを先陣として突っ込ませることに意味はあるのか、盾にする気であろうか、司令室の一同は案じていた。


幸いここまでは敵の対空攻撃も見られなかった。トビウオが水面を飛び跳ねてはいたが。
いかに彼らと言えど、猛スピードを出しながら対空攻撃するのが難しいのか、そもそも対空攻撃の能力がないのかは不明だが、今のところ制空権は確保出来ていた。


しかし案の定、エイとクラゲ、トビウオが水中から浮上しはじめ、空に浮いた。


「まずい、制空権が!」


続いて、なんとクリオネまでもが空に浮いた。空に浮かぶ巨大クリオネはまさしく天使のようであった。


「やー、空飛ぶクリオネ可愛いー、超萌えるんですけどー」


誰も口にはしなかったが、進士以外全員同じことを思っていた。
ここまで来てまさか萌えることになるとは思っていなかった一同。




しかし空を飛ぶのに慣れていないのか、スピードは明らかに遅かった。
トビウオ、エイはともかくとして、クラゲとクリオネは明らかに水中のほうが速かった。
空気抵抗と水の抵抗を無視した話ではあるが、クリオネが空を飛んでいる時点でどうしょうもない。
クリオネはクラゲと共にそのまま徐々に水中に沈んで行く。


「やー、失敗して、顔隠すクリオネ可愛いー、超萌えるんですけどー」


一条女史のメンタル強過ぎる問題。




エイはその巨体で戦闘機を追い掛け回す。
トビウオも戦闘機を目掛けて突っ込んでくる。
おそらく頭上を飛び回る五月蝿いハエを追い払いたいのであろうか。
エイは速度が遅いとは言え、その巨体にかすっただけでもお終いだろう。


「トビウオって、形状的にはミサイルだよねー」


防衛軍としては、この後の空爆作戦に支障が生じるため、なんとしても制空権は確保しなくてはならなかった。


「おそらくは前回戦闘を踏まえ、急遽集めた敵の航空戦力なのではないでしょうか。
本能のままに追いかけているだけで、統制が取れた動きではありません。」


千野はトビウオ航空部隊に対する見解を示す。


「統制の取れた空飛ぶトビウオとかちょっとねー」




エイとトビウオとドッグファイトを繰り広げる航空部隊。
おそらく入隊時にはこんなことになるとは微塵も思っていなかったはず。


「俺がよく知ってるトビウオと違うんだが」


パイロットの愚痴が通信で聞こえる。


「気のせいだよ、馬鹿野郎」
「お前が釣竿を忘れてきただけさ」


天野がいたら、アメリカンジョークかよ、と突っ込むところだろう。




敵部隊は確実に、防衛軍が想定していた上陸ポイントへと向かっていた。
現場で事前にスタンバイしていた天野達にも緊張が走る。


「今のところ目標はイカとタコらしいぜ」


天野がそういうと石動が舌なめずりをする。


「美味そうな奴らじゃねか」


あくまで石動は食う気らしい。
世界各地の最も過酷な戦場を渡り歩き、補給路が絶たれて食料が無くなることは日常茶飯事、爬虫類、虫、蝙蝠と、動くものはなんでも食ったという猛者だから本人的には当たり前の感覚なのだろう。




こちらも前回の作戦を踏まえ、上陸ポイント周辺の海域には水中機雷が多数撒かれていた。
大型クジラはその巨体でかわすことが出来ずに、機雷を爆発させる。
その爆発は、天野が覗く高性能双眼鏡で視認出来るところまで迫って来ていた。


「『ピース9』が見たらものすごく怒りそうな光景だな」


クジラ達はダメージを追いながらも陸に向かって突き進んで来る。




クジラ達は浅瀬まで到達すると、咆哮と共に、その巨体の口を大きく開けた。
その瞬間、千野は叫ぶ。


「しまった!揚陸艇か!」


クジラの大きな口の中から、半漁人の群れが飛び出して来る。
それは見る見るうちに浅瀬を黒い影で埋めつくし、水を滴らせながら、ぞろぞろと陸に上がって来る。
その数は裕に数万を超えていた。
中には数が少ないながらも人魚もいるようだ。


さらに十体の中で一際大きなクジラの口からは、巨大なカニが出てきた。
ぞろぞろと巨大なカニが連なって、浅瀬から陸地を目指してカニ歩きをはじめる。
数十メートル級が数体、その後を数メートル級のカニがぞろぞろ続いていく。
巨大生物運搬の役割を担っているクジラもいるようだ。


おそらくこれが『海底王国』軍の地上制圧部隊であろう。


-


砂浜に上陸する敵地上部隊に対し、爆撃機が空から爆弾を投下する。
爆発で半漁人が砂と共に吹き飛ばされる。
敵が陸に慣れない内に急襲するのは、今回作戦の第一段階の鍵であった。
そのためにも、制空権確保は必須だったのだが、今は戦闘機がエイとトビウオを引きつけて牽制しており、地上からも対空ミサイルで援護射撃が行われている。


今回の作戦は爆撃が主で、『チームGEDOU(外道)』をはじめとする地上部隊の任務は、防衛ラインの内側つまり爆撃圏内に敵を封じ込めることであった。敵戦力の侵攻を防衛ライン内に押し留め、次の爆撃タイミングまでには防衛ラインの内側まで戻る。爆撃で撃ちもらした敵は地上部隊が倒す。その間、支援部隊は防衛ライン外から遠距離攻撃、援護射撃を行う。航空機の陸上作戦支援や近接航空支援というよりはむしろ、爆撃がメインで地上部隊が支援に近かった。
当然ながら航空部隊と地上部隊、支援部隊との綿密な調整、連携が必要となる任務であった。その現場総指揮を天野は任されていた。


敵への攻撃は空からの爆撃だけではなかった。
砂浜を進もうとする半魚人の足元でカチッと音がし、爆発が起こる。


「おいおい、地雷かよ、あれこそ条約がやばいんじゃねえのか」


詳細を知らなかた下衆達がざわめくと石動が口を挟んだ。


「今回はそれだけなりふり構ってられねえってことだ」


「まぁ、遠隔操作で全個一斉に機能停止出来る、回収も安全てタイプだ。この戦闘が終わったらキッチリ回収するさ。」


通信で天野が兵達のフォローをする。
『ピース9』に見つかったらやはり怒られるだろうな、と天野は思った。


-


砂浜は地雷、空からは爆撃の雨あられという過酷な状況の中を、半魚人兵達は脇目もふらず進んで来る。
一回目の爆撃が終了すると、今度は地上部隊による銃撃戦となる。
爆撃を乗り越えた半漁人を迎え撃つが、半漁人は手に銃だと思われる武器と、まるでクラゲのような形状をした透明でぷよぷよした弾力がありそうな盾を手に持っていた。こちらの銃弾はすべてその盾に取り込まれてしまう。硬さで防ぐのではなく、緩衝作用で威力を相殺し止めてしまうというものだ。これにより兵士達の実弾兵器はほぼ無効化されてしまっていた。


「くそ、あのぷよぷよしたの、なんとかならねえのか」


兵達から嘆きの声が上がった。


天野は銃撃部隊にある特殊銃弾を使用をするよう指示する。
その特殊銃弾は盾に当たり取り込まれるところまでは一緒だが、特殊銃弾は盾が持っている水分をすべて吸収し、小さく硬質化させてしまう。


「おっ、すごいじゃないかよ」


石動の通信に天野は応える。


「簡単に言うと、超強力な乾燥剤を弾丸にしたもんだな。
体内で飛び散って、細胞レベルで水分を奪っていくらしいぜ。
半魚人にも効果があるという話だから、試してみてくれ。」


こちらの世界の魚類の体内水分量は約七十五%、クラゲにいたっては約九十五%が水分で構成されている。人間でも約六十%は水分だ。当然魚類族も体内水分量は多く、その水分を奪うという兵器が考えられていた。
防衛軍は開戦までの一か月半を、こうしたとんでも兵器、いや対『海底王国』兵器の開発に費やしていたのだ。
石動達は特殊銃弾を半魚人達にも使う。


「確かに動きが鈍くなったな」




半魚人達の動きが止まったところで、今度は巨大カニ達が前に出て来る。
カニの硬い甲羅には弾丸が通用しない。


「硬てえな、こいつら」


「今度はこいつらが盾ってわけかい」


人間サイズ級のカニが石動達の部隊の面前まで迫り、その巨大なハサミを振り回す。
石動はそのハサミをかわす。


「ちょっと癪だが、たまには上官の言うこと聞いておくか」


天野との勝負で言われたことを思い出した石動は、カニの腕に飛びつき、その反動でカニを転がし、関節技を掛ける。


「おぉ!すげえ!カニにサブミッション決めてる人はじめて見たぞ!」


「人類初なんじゃねえか?」


「馬鹿言ってねえで、とっととやれ!」


石動はカニと格闘しながら、部下に指示を出す。


「こいつらカニ型兵器じゃなくて、単にデカくて硬いカニだ。前と後ろは進めねえ。後ろに回って関節狙え!」


「実弾は効きが悪い、レーザー光線で関節焼き切れ!」


数メートル級のカニを撃退する石動達の前に、数十メートル級の大型カニが姿を現す。


「こいつはデカいな」


怖気づく部下達に石動は言う。


「デカけりゃ、関節の的もデカいってこったろ、狙い放題じゃねぇか。
こりゃ今晩蟹食い放題だな」


「こいつら食う気ですか!」
「寄生虫とかウィルスとかいんじゃないっすか?」


石動の言葉に驚く部下達。


「火、通せば余裕だろ」


あくまで石動は食う気らしい。


-


空では戦闘機部隊が制空権確保のために奮闘していた。
巨大クリオネと巨大クラゲも再び空に浮上。
地上からの対空砲火でトビウオは撃墜出来ているものの、巨大エイをはじめとする巨大生物には効果は薄かった。戦闘機部隊は複数隊に分かれ、武装を替えては出撃を繰り返す。


巨大クリオネはやはり空を飛ぶのが得意ではないらしく、空でフラフラしてはビルに激突し、ビルをなぎ倒している。その度に司令室で萌えている一条女史。巨大クリオネに蹂躙される街、住民が見たら悪夢としか思えなであろう。巨大クラゲもクリオネと似たようなものであった。この二体は動きが遅く、攻撃部隊からすれば的のようなものであったが、クラゲの盾同様に緩衝作用によって攻撃がすべて受け止められていた。
空に上がった水棲生物は、飛び道具がないため、基本的に接触して敵を倒すしかないようだ。トビウオに至っては完全に追尾ミサイル状態。対戦闘機特攻専門と言ってよかった。


武装を交換して戦場に戻って来た戦闘機から新たな兵器が発射される。
その尖った先端は巨大クリオネとクラゲに突き刺さり、敵の体内で止まる。
そして二体の半透明の巨体の中がみるみるうちに黒、濃い緑色へと変色していく。さらに体表に巨大な瘤がいくつも出来あがり、見るも無残なグロテスクな姿となっていく。


「ぎゃー、クリオネちゃんがー」


クリオネちゃんの変わり果てた姿に悲鳴を上げる一条女史。


「そんなこと言って、考案したのは一条さんじゃないそうですか」


天野がいないため、代わりに気弱な真田さんが突っ込まざる得ない。


「天野っち風に簡単に言うとだねー、わかめと吸収パッドと癌ウイルスを合わせたようなものですよー」


「全然わからないんですが」


「水分吸収すると何倍にも膨張するわかめもどきと、超強力な水分吸収パッドの吸収機能をか掛け合わせて、体内転移速度を極限まで高めた癌ウイルスをさらに組み合わせたんですよー。
体内に入り込んだウィルスが、急速に体内の水分を吸収して膨張し、それが体内中に一瞬で転移していくってわけですよー」


ドヤ顔で説明する一条女史。


「ちょっとした怪我ならわずか数秒で治せる博士直伝の再生医療技術があればですねー、
癌細胞を一瞬で体内中に転移させるとか造作もないことですよー
キメラも私の得意分野ですしー」


「なるほど。博士の技術はバイオ兵器と相性がいいと言ってましたね、そう言えば」


「水棲生物への攻撃に、わかめとは皮肉がきいているな。」


財前女史も感心したように頷く。


「でもー、でもー、クリオネちゃんがー」


全く話題にされないクラゲが気の毒でもあるが、いずれにしても巨大クリオネとクラゲは内側から腫瘍で内部破壊され、機能停止となり落下する。巨大な音と共に地表には振動が走る。
案外生命は脆いものである。人間であれば、脳の血管が詰まっただけで破裂して死に至るし、腸が詰まっただけでやはり破裂して死に至る。そうした内部破壊を狙ってバイオウィルスに、巨大生命体でも耐えることは出来なかった。


-


「お前ら、そろそろ次の時間だ。前に出過ぎているぞ、防衛ラインまで下がれ」
「次はアレだから、防護マスクの着用を忘れるなよ」


通信で天野は全軍に指示を出し、自らも防護マスクを着用する。
次の爆撃機が上空を飛び、敵地上部隊に爆弾が投下される。
落下した爆弾が爆発し、化学兵器が散布される。


「本当になりふり構ってねえんだよな」


天野は防護マスク越しに呟いた。
地雷の次が化学兵器では、天野の真っ直ぐな性格からすれば嘆きたくもなるのだろう。例え、敵がこの世界の人間ではなかったとしても。
神経系が麻痺し動けなくなった敵部隊に、そのまま爆撃機から焼夷弾が投下される。
今回は化学兵器と焼夷弾がセットになっており、動けなくなった敵を圧倒的火力で焼き尽くす目論見だ。


-


戦場から少し離れたビルの屋上から、大親分と内通者の魚住さんが戦況を見つめていた。


「凄惨な現場なはずなんですがね」


大親分が低い声でそういうと魚住さんは相槌を打つ。


「えぇ」


「お腹がすいてきますね」


「えぇ」


「絵面があれなんですかね」


「蟹ですかね」


「焼き魚の匂いもしますしね」


確かに戦場からは焼き魚と焼き蟹の匂いが漂ってきている。


「人類の存亡がかかっているこんな時でもお腹がすくとは、人間は浅ましいですね」


大親分はしみじみそう語ると、魚住さんは頷いた。


「さもしいですね。私なんてもともとは同族のはずなんですがね。」


-


爆撃機が一機トビウオの特攻で撃墜されたが、限定的焦土作戦は成功した。
だが敵の数は減らず、むしろ増えて来てさえいる。
半魚人は燃え盛る同胞の屍の山を乗り越えて前に進み続ける。
『やばいな、こういう敵はやばい。徹底的に殺し合うしかなくなる。』
天野は敵のその姿を見てそう思わざるを得なかった。


敵の気迫に押され、こちらも防衛ラインを後退させざるを得なかった。
ここまで沿岸部ギリギリの狭い防衛ラインでなんとか凌いで来たが、それもどうやらここまでのようだ。
敵も増援があったのか、数がいよいよ増えて来ていた。
こちらもそれなりの死傷者が出はじめていた。
次はいよいよ敵の目的地であるロボット像群がある侵略スポットが圏内に入る。
敵の目的地で迎撃するしかない、天野はそう考えていた。
実際に防衛ラインは何重にも設定されており、最終防衛ラインは東京全てが圏内に入る。
当然その最悪のシナリオは避けなければならなかった。


-


天野からの防衛ライン後退の連絡を受けた司令室。
進士司令官は次のプランへの移行を了承し、通信を切った。
敵兵力が増えてきていることについては、司令室にいる者達も疑問を抱いていた。


「なぜ敵の数が増え続けてきているのか。」


進士司令官は眼鏡を指で押しながら呟いた。


「定期的にクジラが口を開け、中から兵が出てきているのは確認されています。」


財前女史が兵からの報告を伝えた。
分析担当の千野はその言葉に反応する。


「いくらあの巨大サイズのクジラでも、その内部構造を考えると、これだけの兵力が積まれていたとは思えません。このままいくと敵兵総数は十万を越します。」


「中ですごいぎゅうぎゅう詰めになってたんじゃないかなー、満員電車のすし詰め状態みたいにー


「それにだ、潜んでいたとしても、最初に一気に吐き出さないで、定期的に出してくるのはなぜだ。」


千野の話に財前が応じる。


「兵力を小出しにしているのでしょか。最初にすべて出していた場合、これまでのこちらの攻撃で兵力が激減していた可能性があります。」


「それは結果論じゃないかなー、一気に突破出来た可能性だってあるわけだしー」


「クジラの体内で敵が増産されているということもありますね。
あまり考えたくないことですが、クジラの体内にゲートが存在するということもありますかね。」


進士司令官の発言に千野は自問自答する。


「まさか、そんな、人口的にゲートをつくり出すことが、出来るのか?」


進士司令官は眼鏡を押しながら言う。


「もしそうであるなら、今後のゲートに関する秘密解明のために捕獲したいところですね。」
「が今は何としてもこの戦いを乗り切らなければなりません。
現状、クジラからの増援を前提にして考えなくてはなりませんね。
財前さん、対クジラ特殊任務の実行メンバーを至急選抜してもらえますか。」
財前女史は敬礼して、司令室を駆け出して行く。


-


天野は先駆けて、スーパーロボット像が並ぶ、敵の目的地に来ていた。
空の下に立ち尽くす十体のロボット像。
大型兵器開発・運用を担う『チームJADOU(邪道)』のメンバー達が、最後の調整を行っていた。
チームリーダーの北條が天野を見つけ歩み寄ってくる。


「すまないね、天野くん。
今回使える高次元エネルギーは微々たるものでね。
これでも博士に協力してもらってやっとこれだけ使えるようにしてもらったんだ。」


天野は北條に言葉を返す。


「こちらこそすいません、無理言って。
奴らにとって、ここはシンボリックなところですからね。
大型生物を使ってロボット像群をなぎ倒す派手な絵面を狙ってくるでしょう。
他の異世界に自分達の力を見せしめるために。
そこを一網打尽にしたいところですね。
せめて巨大生物だけでもここで撃ち取れば、後はなんとか。」


「最終調整が終わったら、みなさんはムショに戻ってください。
後は我々でなんとかしますので。」


北條は頭を掻きながら苦笑する。


「ではそうさせてもらうよ。
お恥ずかしなが血生臭いのはどうにも苦手でね。
我々のつくる物が一番多くの血を流させるというのにね。」


「みなさん技術者ですからね」


-


敵の軍勢は、いよいよスーパーロボット像群に迫ってきていた。
応戦する防衛軍地上部隊。
敵も長年の悲願を目前にして、血眼になって来ている。
天野の指示によりスーパーロボット像群にはフィールドバリアが張られる。
このフィールドバリアも高次元エネルギーを防衛利用として転用したものだ。
当然ロボット像群を死守することが目的ではない。
敵の大軍勢を出来るだけ引き付けて、一網打尽にすること。
特に、まともに戦えば相当な犠牲が予想される大型生物はここで何とかしておきたかった。


応戦部隊は攻撃しながらも徐々にフィールドバリアの左右後方に下がって行く。
ここでの敵の目的はあくまでロボット像の破壊であり、人間は二の次だ。
半魚人部隊の銃による攻撃は、フィールドバリアによって阻まれていく。
天野の思惑通り、巨大カニ、巨大イカ・タコがその巨体で、ロボット像群に向かって進んで来ていた。
巨大イカ・タコはやはり陸上での移動には時間がかかるようであった。
やがてスーパーロボットのレセプションが行われた会場敷地が、敵の軍勢に埋め尽くされる。




すでにその場から後退していた天野は指示を出す。


「総員ロボット像周辺から極力離れろ!」


巨大イカ・タコがその触手でロボット像に絡みつこうとするが、フィールドバリアによって阻まれる。高次元エネルギーで形成されているフィールドであるために、その触手は触れた瞬間消失してしまう。
巨大カニも同様にその巨大なハサミを消失されてしっまっていた。


総員のロボット像周辺からの撤退を確認した天野。
『そろそろ頃合いか』
仕掛けられていた装置のスイッチを押す。
フィールドバリアを形成していた高次元エネルギーが、フィールドバリアの形成を止め、ロボット像群の中に隠されていたエネルギー炉へと流れ、起爆装置により大爆発を引き起こす。周囲は閃光に包まれ、かなり後方にまで下がっていた天野達にも閃光が眩しかった。
その場にいた数万近い敵の大軍は一瞬にして消失。地表もかなり深く抉られて大穴を空けていた。




「これで本当に微々たる量なんだから、まいったもんだね」


天野はその威力を目の当たりにして、知らないうちに独り言を発していた。
未確認飛行物体を撃墜した際に、上空に撃たずに、地球に向けて撃っていれば、地球に穴を空けて貫通していた言われているほどである。
人類の手に負えるものであるのか、天野は危惧せずにはいられなかった。


後にこの映像は異世界で、敵の大軍勢を前に、敵もろとも自爆する名作アニメの名シーンを彷彿とさせると、大反響を呼んだそうだが、どこでどうやって撮影されていたかは今もって不明である。


-


地球防衛軍は敵約数万を一網打尽に打ち取ったが、敵軍勢は一向に減る気配を見せなかった。
巨大クジラが口の中から定期的に数万単位の増援を送り込んで来るからだ。
敵増援を止めない限り、防衛軍の勝ち筋は見いだせなかった。


財前女史は、対クジラ特殊任務のメンバーを集めていた。
敵勢力から寝返り、戦闘訓練を受けていた半魚人や人魚をメインに、
暗殺や特殊任務を専門とする『チームKIDOU(鬼道)』のコードネーム・カピパラ、諜報・工作を専門とする『チームSHURADOU(修羅道)』のコードネーム・流をはじめとするこの世界の人間も呼ばれていた。


そしてなぜか、以前天野に絡んでいた二人組と、似非関西弁の『魚人さん』が志願して来ていた。
ステテコ姿に腹巻をした禿・多古と、アロハシャツにサングラス、リーゼント姿の伊香である。


「お前ら居ても役に立たないだろう」


財前女史は容赦なく言った。


「やはり自分ら名前的にこの戦争参加しない訳にいかないと思うんすよ。
ムショでタコ・イカコンビで名前売ってる訳ですし。
ここで目立っておかないと自分ら出番ないと思うんすよ。」


伊香は少しバツが悪そうに言った。


「まじすか、自分兄さんらの男意気に胸打たれましたわ。
ねえさん、自分からもお願いしますわ。
兄さんらを男にしてやってください。」


すっかり自分は参加出来るつもりでいる魚人さん。


「死んでもしらんからな。」


時間が無いので、財前女史は適当に流すことにした。
死ぬのはあくまで自己責任。ここはそういう組織でもあった。


任務自体は極めてシンプルで、クジラの体内に潜入し、巨大クリオネと巨大クラゲを撃墜に追い込んだ、バイオウィルスを注入してくること。


-


司令室では、敵航空戦力掃討の為、エイ、トビウオ対策の準備が進められていた。


「事前に準備されていましたドローン部隊のうち百機を『チームMADOU(魔道)』に改造してもらいました。」


真田が進士司令官に報告をしていると、通信モニターに主任が映し出される。


「天才科学者である本田秀次にかかればこんなの他愛もないことです!」


続いて『チームGAKIDOU(餓鬼道)』山科がモニターに映る。


「こちらも問題ありません。事前にムショ内の方々にお願いしていたドローン操縦者のうち百名を今回作戦に割り振りました。」


比較的簡単に素人でも操作が出来るドローンに関しては、操縦者の人員確保を『チームGAKIDOU(餓鬼道)』が担当していた。
準備されたドローンはムショから輸送車で現場付近の敷地まで運ばれ、現地で離陸準備が行われた。


戦闘機、爆撃機は一旦ムショに戻り、その代わりに巨大エイ対策として、ティルトロータ式垂直離着陸機が用意されていた。
垂直離着陸機は離陸すると巨大エイのみを狙い、追いかける。
巨大エイの移動速度はそれ程早くはないため、ティルトロータ式の速度でも十分に追いつけるものであった。
巨大エイの背後に回った垂直離着陸機は、対巨大エイの武装を射出した。
垂直離着陸機より発射された巨大針形状の射出物が巨大エイに突き刺さる。
巨大針は極真となっており、超高圧電流が流される。
電流により全身が麻痺した巨大エイは急速に落下して行く。
垂直離着陸機はケーブルを切り離すタイミングを逃し、そのまま一緒に引っ張られる。
ビルに激突し、その壁面を崩しながら、巨大な音と振動と共に、地表に激突する巨大エイ。
垂直離着陸機もそのまま振り回されて吹き飛ばされる。
麻痺して動けなくなっている巨大エイの両翼をレーザー光線で焼き切る地上部隊。
飛行能力を失った巨大エイはまな板の上の鯉も同然であった。


トビウオ対策として、準備が整ったドローン百機が地上を離陸する。
トビウオは敵航空戦力に突っ込んでいく、追尾ミサイルのようなものであるため、ドローン編隊に向かい次々と突っ込んで行く。
トビウオが衝突した際に、ドローンからは電流が流される。
当然ドローンは当たった瞬間に吹き飛ばされるが、流れる電気はわずかでよかった。
致死レベルである必要は全くなく、十数秒程トビウオを麻痺させることが出来ればよかったのだ。
麻痺したトビウオは地上数十メートルの高さから落下する。
トビウオのサイズと硬度では、その高さから地上に激突した時点でペシャンコであった。
敵が半自動的にこちらに向かって来てくれ、避ける必要がないため、操作は誰が行おうと全く関係なかった。全くの素人でも問題なかったのだ。


魚類の体内水分量の高さを考え、電撃も有効な攻撃方法だと考えていた防衛軍は、電撃攻撃を攻撃プラン、シミュレーションに加えており、事前に武装は準備されていた。
トビウオ対策にドローンを使うという不測の事態、垂直離着陸機の撃墜というアクシデントはあったが、これでいよいよ敵航空戦力を掃討完了となった。


-


次の爆撃では、冷凍弾が投下された。敵が氷ついて固まったところを、衝撃弾を使い粉砕していく地上部隊。敵の水分を凍結させるプランであった。
敵航空戦力の掃討に成功し、敵戦力は地上部隊のみとなったものの、
数万単位で増え続ける敵に、防衛軍は徐々に押されていく。
防衛ラインも相当下がり、既に避難命令が出された範囲のギリギリまでに至っていた。
この先はまだ民間人が残っている可能性も高く、被害の拡大が予想される。
一刻も早く敵増援の原因となっているクジラを殲滅することが戦局の鍵となっていた。




「やべえな、これは…」


次の防衛ラインまで下がる途中、その光景を見た天野は愕然とした。
そこにはまだ避難を終えていない大勢の民間人がいた。
「なんでまだこんなに人が残ってるんだよ」
開戦前日から『ピース9』の過激派は決起集会を呼びかけ、反戦デモを行っていた。
そのまま開戦から現在まで反戦デモは継続されていた。
『ピース9』の内部に潜入していた工作員もこれを止めることは出来なかった。
戦場のすぐ横で反戦デモを行うなど命知らずにも程があるが、
自らの命を投げ打ってまで信念に準ずるのが『ピース9』の過激派。もはや殉教者のようでもある。
警官隊がデモを止めさせようとしても、過激派は徹底的に抗し、小競り合いとなっていた。過激派の集団暴行を受けて負傷した警官も後を絶たなかった。非戦のための暴力とは、矛盾する話だが、それが理性を失った人間というものかもしれない。
その数は十万人以上おり、次に決められた防衛ライン後退の時間までに、敵と応戦しながら、避難させることが出来るような規模ではなかった。


天野は司令室に通信回線をつなぐ。


「現在、まだ多くの民間人が残っています」
「民間人の避難が完了するまで、次の空爆を待ってください」
「このままでは多数の民間人が空爆に巻き込ます」


司令室の進士司令官は眼鏡を指で押しながら、顔色一つ変えずに答える。


「次の作戦予定時間の変更は認められません」
「時間内で可能な限りの民間人を避難させてください」
「そして必ず次の作戦予定時間までに、全軍次の防衛ラインまで後退してください」
「こちらも民間人の避難誘導に可能な限りの人員をまわします」


通信回線は一方的に切られた。


「くそったれが!」


天野は拳を叩きつける。
ハッキリ明言はされていなかったが、要は時間内に避難、救出が出来なかった民間人は見殺しにするということだ。









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