非人道的地球防衛軍

ウロノロムロ

動かせない最終兵器

天野は進士司令官と一緒に地下へと通じるエレベーターに乗っていた。
地下を数分に渡り降り続けるエレベーター。
これほど地下深くに施設があることを知らなかった天野は少し驚いた。
一旦止まり、エレベーターを降りると、ホールには『チームJADOU(邪道)』の北條が待っていた。
『チームJADOU(邪道)』は大型兵器や特殊兵器の研究開発・運用を行う専門チーム。


「ここから先は司令官でも鍵がないと入れませんからね。」


北條はそう言うと、さらに別のエレベーターに二人を案内した。
エレベーターを乗り換えて、三人でさらに降りること数十秒。
ようやく着いた目的フロアで、北條は鍵を使って扉を開けた。


その扉を通ると広大なスペースが広がっており、大型兵器類が並んでいた。
天野はやたら天井が高いことに気づき、上を見上げる。
「大型兵器が専門ですからね、ここにビルを建てることも可能ですよ。」
天野の挙動を見て察した北條が説明する。


フロア内を歩いて行くとブロックごとに大型兵器を見ることが出来た。
開発中の新型戦闘機、地走砲、レーザー兵器、ミサイル等々。


「セキュリティはわかるのですが、この深さだと地上まであげるのが大変ではないですか?」


天野は率直に尋ねた。


「専用の搬送用エレベーターがありますから。
発進シークエンスとか、防衛軍基地らしく、ムショのいろんな箇所が割れたり変形したりして、中から戦闘機出てきたりするんですよ。カッコイイから一度見せてあげたいところなんですけどね。」


歩きながら北條は気さくに答えた。若干一条女史に通じる匂いを察知する天野。


「それに、これはオマケみたいなもんですよ。アレに比べれば。」


北條は笑みを浮かべならがら付け加えた。




重厚な扉の前まで辿り着くと、北條はセキュリティ解除をはじめる。
何重にも掛けられたセキュリティは解除に時間がかかるらしく、そのまま数分そこで待たされた。
ようやく扉が開き中に入ると、全長約百メートル、高さ数十メートルという巨大な黒い砲身が置かれていた。


「これが」


天野はその黒光りする砲身を見上げて思わず声に出す。


「そう、『仮称・高次元エネルギー集約砲』です。」


未確認飛行物体が日本を襲撃した際、現在の進士司令官が、『ドクターX』と呼ばれていた博士に借り受けて使用、未確認飛行物体を撃墜させた人類にとっては未知の大型兵器。
その存在は天野も知っていたが実物を見るのは今回がはじめてであった。


「砲身だけなのでしょうか?」


天野の質問に北條は答える。


「内部構造的には巨大な筒に、高次元世界をつなぐためのゲートが付いているだけなんですよ。
エネルギー炉も発射機構もこの世界とは異なる別の次元に置いてあるというものですから、我々も調査のしようがないというのが正直なところです。」
「使えたのも司令官が日本上空の未確認飛行物体を撃墜した時だけですからね。
まるで戦車の砲身だけをこちらの世界で借りて預かっているようなものですよ。」


北條がそう説明すると、ここまで口を閉ざしていた進士司令官が口を開いた。


「やはり次戦は無理ですかね?」


「残念ながら使える目処は全く立っていません。
そもそも次の戦いが地上戦であれば、使うのは難しいでしょう。
あの時は空に向かって撃ったので何とかなりましたが、地上に向けて撃つと地球に穴が空きますよ。
せめて出力調整出来るようにならないと。」


「でしょうね。」


進士司令官は軽く眼鏡を押す。
北條は笑いながら続けた。


「あの時も反動だけで地面に大穴が空きましたからね。こちらで用意した固定装置も見事に崩壊しましたし。後で博士に、そもそも反動が少ない兵器なのに、どうやったらそんな反動が起きるんだとこっぴどく怒られましたよ。」


理解を深めるために北條に再度質問する天野。


「そもそも高次元エネルギーとは何なんでしょうか?」


「博士によれば高次元世界にある無限エネルギーということですね。
本来高次元にアクセスさえ出来れば誰でも使用出来るということですが。」
「それを理解してもらうためには、もう少し順を追った説明が必要ですね。」


北條は天野が理解出来るよう分かりやすく順を追って説明をはじめる。


「博士は、他の次元から自由に物を取り出したり、仕舞ったり出来るんですが、
これはこちらの世界の概念ではクラウドネットワークが一番近いらしいんです。
ネットワークサーバーのクラウド領域を利用すれば、いろんな端末からデータをアップデートして保存したり、データをダウンロードしたり出来ますよね。ただしこれはデジタルデータに限る。」
「博士は別次元、おそらくは高次元のクラウド領域に物質そのものをアップデートして保存することが出来て、自由にダウンロードしてくることが出来る訳です。ただこの場合は、複製ではなくて物質本体なんですがね。」


「それってもしかして、猫型ロボットが便利なポケットから便利な道具出すやつと同じですか?」


天野の物言いに、北條は笑いながら答えた。


「そうそう、そんな感じです。もちろんあんなに便利じゃないですけどね。
我々も今それを博士から学んでいて、『仮称・多次元クラウドシステム』の研究を進めているんですよ。」


「高次元エネルギーは、本来高次元にアクセスさえ出来れば誰でもが使用して構わないものらしいんです。この世界で、そう、海に例えると、国家単位で領海などはあったとしても、この世界の海水は誰のものでもないですよね。誰もが自由に使えるものです。高次元エネルギーも本来はそういうものらしいんです。ただ高次元にアクセス出来る人間、というか生命体が今は高次元人しかいないですから。高次元人しか使っていないということですね。」


「では博士は噂どおり、高次元人なんですかね?」


「本人は何故かはっきり言及しないんですけど、おそらくそうでしょうね。」


『本来はすべての次元の存在が等しく平等に使えるという無限エネルギー、すべての次元すらも生み出した大いなる創造主の恵みということなのか?』
天野はそう感ぜずにはいられなかった。




今まで何度も聞いてきた説明を進士司令官は改めて天野と一緒に聞いていた。


「今使える高次元エネルギーはないんですか?」


天野は次の戦いを見据え、ストレートに聞いた。


「前回我々が使った量を、水道の蛇口からめいいっぱい出てくる水量だと例えると、今我々が使えるのは、水道の栓を閉めた後に蛇口から垂れ落ちる水滴ぐらいのものですよ。」


「それでも少しでもあるのなら使えないですかね?」


天野は一通りの説明を聞き腑に落ちたのか、やっと軍人らしいことを言いはじめた。
天野は次の戦いにあたり、漠然と考えていたことを話しはじめた。




「なるほど。」


進士司令官は天野の案に興味を示した。
北條も興奮気味に反応した。


「微々たる量を防衛兵器に転用するんですね。確かにそれであれば量は少なくても可能かもしれない。
しかし問題は、この世界の物質が高次元エネルギーに耐えられるかどうかですね。
『仮称・高次元エネルギー集約砲』の砲身も、この世界にはない物質で構成されていて、
砲の高出力には、この世界の物質では耐えられないんですよ。
まぁそこも低出力であれば、なんとなるかもしれないですけど。」


眼鏡を押す進士司令官。


「わかりました、私から博士に手伝ってもらえるよう依頼をしておきましょう。」


-


高次元エネルギーの話がひとしきり終わると、進士司令官は次の話をはじめた。


「今日は、もう一つ天野特務官にお見せしておきたいものがあるのです。」
「今はまだ動かせない最終兵器が。」


北條に案内されて進むと、再び重厚な扉の前に辿り着く。
それはもはや巨大な鋼鉄の門。
さすがに最終兵器が格納されているだけのことはあると天野は思う。
北條が時間を掛けてセキュリティを解除し、ロックを外す。
その扉の奥にあったのは、巨大な黒い人型の像。
天野はその雄大で壮観な光景に驚きを隠せない。


「こ、これが、最終兵器」


全長百メートルはあろうかという巨大な像を天野は見上げる。


「ロボットなんですか?」


天野の素直な質問に北條は再び説明をはじめる。


「いやそれすらもわからないんです。
我々も形状からして当初巨大人型ロボットだと思っていたんですが、内部がほとんどわからない。
人が搭乗するのではないかと思われる空間があるんですが、それ以外全く何もない。
『仮称・高次元エネルギー集約砲』同様に内部構造が全く存在していない。
他次元をつなぐためのゲートの痕跡が見られるため、起動の際に内部構造がゲートから出現する可能性もあるし、内部構造は多次元に置かれたまま動くのかもしれない。」
「もしくは全く別の使い方をする可能性もあります。
高生命エネルギー体が憑依して動かすのかもしれないし、搭乗者の鎧になるのかもしれない。搭乗者と生体的に融合や癒着する可能もある。」


要するに本当に全く何もわかっていないということだった。


「しかし、博士が持って来たのではないのですか?」


その天野の問いには進士司令官が答えた。


「正直博士もよくわからないで持ってきたようですね。
別次元で滅び去ってしまった文明の遺産を持ってきたと言っていましたから。」


適当な話しではあるが、あの博士ならやりそうだとも天野は思う。


「でも博士はここまで動かして持って来たんですよね?」


「博士の場合は、分子・量子レベルで分解して、別次元で再構築するぐらい出来ますからね。あてにしてはいけません。」


「本当にわからないことばかりなのですが。
これを構成する物質も、我々が近づくと非情に硬くなったりする。おそらくはこの地球上にはないぐらいの硬度にまで。ただ普段はものすごく柔軟性がある、それこそ人の皮膚と同じぐらいまで。
そして硬質化と柔軟化を定期的に交互に繰り返す。まるで呼吸でもしているかのように、緊張と緩和を繰り返すんです。」


北條の言葉に今度は進士司令官が問う。


「生きている金属ですか?」


「金属かどうかすらもわかりません。我々には金属のように見えるだけで、もしかしたらすべてが未知の生命体で構成されている可能も考えられます。すべてがナノマシンで構成されている兵器が研究されているように。
ただ、起動した際には、表面は硬質化したまま、間接に当たる部分が柔らかくなり、手足が動くのではないかと推測はされています。
先ほどの緊張と緩和を定期的に繰り返すことから考えましても、戦闘においても何かしら時間制限があるとも考えられます。」


天野はここまで聞くと、そう尋ねざるを得なかった。


「つまり、これを動かす術はないと?」


それに関しては進士司令官が答えた。


「博士が言うには、動かせる人間がいるそうです。この世界のどこかには。
もしかしたら平行世界の人間かもしれない、とも言っていましたが。
今我々も血眼になって探してはいるのですが、雲を掴むような話ですからね。」


進士の答えに天野はさらに疑問を抱いた。


「特定の人間なら動かせるということですか?」


「そうです。別次元で滅んだ文明の子孫がこの世界には居るそうです。
自分達の次元で文明が滅ぶ時、この世界に移住して来たのでしょう。
正しくはこの次元の平行世界のどこかに、ですが。」


「何かわかりやすい目印的なものはないのですか?」


「この世界で言うところの超能力を持っているはずだ、ということでしたね。
ただまだ能力に覚醒していない可能性もあるので、見つけるのは至難の技でしょうね。」


実際に人材担当の『チームGAKIDOU(餓鬼道)』などが血眼になって該当する人物を探していた。
この最終兵器自体の存在は知らされてはいないが。


「次の戦いにはまず間に合わないでしょうが。
しかしいずれこの巨人の力が必要となるでしょう。
特に大型生物、大型機械兵器との戦いでは。」


天野は進士司令官の言葉を聞いて気づいた。


『そうか、巨大人型ロボット兵器ではなく、光の巨人という可能性もあるのか。』











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