非人道的地球防衛軍

ウロノロムロ

エンディングでありプロローグ

人類最後の日。
人類にとって神にも等しき存在である高次元生命体の主『デウスエクスマキナ』は顕現した。
『デウスエクスマキナ』は人が思う神の姿をして現れた。
その姿は見る人によって異なっていたのかもしれない。
人それぞれがイメージする神の姿、自らが信仰する神の姿を、人々の目に映していたからだ。


眩く光り輝くその姿、眩く照らし出されるこの世界を見て、人々は思うのだ。
この世界に神が降臨して、人間は裁かれるのだと。


人の想像力が神を生み出した。しかし人間の創造主は神という大いなる矛盾。
人間は自らの想像力で生み出した神に縛られて滅びていくのだ。
高次元生命体の主『デウスエクスマキナ』は、人類にとって神にも等しい存在だったが、人間が想像力により生み出された神とは明らかに異なる存在だった。


高次元世界からの離反者であり、人類の協力者である『ドクターⅩ』の技術供与を受け、高次元の技術を飛躍的に発展させた地球防衛軍日本支部はこれまでに様々な平行世界の敵勢力を倒して来た。
そしてついに、高次元エネルギーに人間の生命エネルギー・精神エネルギーを加え、新たなエネルギーに変換することで、高次元エネルギーを消滅させる対エネルギーをその手に入れた。


『デウスエクスマキナ』は高次元エネルギーの塊でもあり、『デウスエクスマキナ』にとって人間は、自らを滅ばす可能性を秘めた唯一の存在となりつつあった。人類の可能性を恐れた『デウスエクスマキナ』は、人類すべてを消滅させる『人類最後の日』を宣告し、その約束の時が今まさに訪れようとしていた。


地球防衛軍日本支部は、人類の存亡を賭けて、高次元生命体の主『デウスエクスマキナ』との最終決戦に挑む。


地球防衛軍日本支部・進士司令官は、自らの肉体を、対高次元エネルギーシステムの生体ユニットとして組み込み、千載一遇の時を待っていた。


「常にすべての次元を見ている彼には、見え過ぎているが故に見えないことがある。ギリギリのその時まで彼に気取られぬように細心の注意を払って、機を窺うんだ。」


進士司令官は『ドクターⅩ』の助言をもとに、対『デウスエクスマキナ』兵器をすべて低次元に偽装して隠し、『デウスエクスマキナ』の目を掻い潜ってきていた。


日本列島の数千メートル上空に、この世界と超空間をつなぐゲートを出現させ、そのゲートの中から姿を現した『デウスエクスマキナ』。
数千メートルにも及ぶその姿は、雄大で、半透明に光輝いている。
空を覆っているにも関わらず、地表を影で覆うことはなく、後光で地上を輝く光に包み込む。
まさに人がイメージする神そのものが降臨したかのようである。


やがてその姿の胸部に光りが集中しはじめる。


「『神の雷』が来るぞ!」
「高次元エネルギー消滅フィールドを展開しろ!」


地球防衛軍日本支部、司令官代行・天野正道は叫ぶ。


胸部への光の集中が極限にまで達した時、
地上に向かって大量の高次元エネルギーが放たれる。それは巨大な光の柱『神の雷』となって、地球に突き刺さろうとする。
直撃すれば、地球に巨大な穴を空けて貫通し、そのまま地球を崩壊させる程の威力である。


天野の命令により、広範囲に展開された高次元エネルギー消滅フィールド。
ほぼ日本列島全土を網羅するほどにその範囲は広がる。
『神の雷』がフィールドに激しく衝突し、その瞬間、日本列島全土が閃光に包まれる。


その閃光が数十秒続いた後、『神の雷』は止む。
だが地球は破壊されてはいなかった。
消滅フィールドはそのエネルギーをすべて受け止め消滅させたのだ。


司令室からは歓声があがる。


そして人類の反撃がはじまる。
大量にエネルギーを放出し終え、動きが止まった一瞬、それが人類に残された唯一の好機。
低次元に偽装され隠されていた対『デウスエクスマキナ』兵器が解放され、その姿を現す。
一次元の点が線となり、その二次元の線は全体像を描き出し、さらにそれは質量を持った三次元の立体へと変換されていく。
成層圏上に建造されていた、この世界と超空間をつなぐ巨大な人口ゲート。
そのゲートの中から、高次元エネルギーを消滅させる対エネルギーによって形づくられた巨大な『神殺しの剣』が出現する。


進士司令官は、システムに蓄積されているエネルギーのすべてを『神殺しの剣』に注ぎ込んだ。


「今この時をずっと待っていたのです!」
「私の使命・役割を果たすべきこの時を!」


過剰なエネルギー変換にシステムは暴走して壊れる寸前である。
システムの生体ユニットとなっている進士司令官もまた苦痛のあまり絶叫する。
しかし彼の狂気にも似た執念が、『神殺しの剣』に宿り、成層圏から放たれる。


「神に等しいあなたを倒し、『神殺し』を以って、私の非道はようやく完結するのです!」
「私には親兄弟もおらず、家族もなく、愛する者も師も友も持たず、私の死にも悲しむ者は誰もいません。」
「信念を貫くために非情に徹する、それだけをただひたすらに想い、そのためだけに私は生きてきたのです。」
「私の使命・役割を果たすために!」
「今この時こそが、私が果たすべき、使命・役割なのです!」


進士司令官の断末魔にも似た叫びが響き渡る。


成層圏から超高速で落下した『神殺しの剣』は、そのまま光り輝く高次元生命体の主『デウスエクスマキナ』の胸部に突き刺さる。
本来、『高次元生命体の主』も『神殺しの剣』も実態を持たぬエネルギー体。
対消滅エネルギーである『神殺しの剣』が、高次元エネルギーの塊である『デウスエクスマキナ』を消滅させる。




司令室で、進士司令官の壮絶な最後を見届けるメンバー一同。


「悲しむ者はいるのです…。」


進士司令官のあまりの悲壮な最期に、財前女史は涙を流しながら呟いた。


『高いお志を貫こうとするあなたのことをずっと敬愛しておりました。
あなたのお志がわかればこそ、私自ら気持ちをお伝えすることはありませんでしたが。
心からお慕い申し上げておりました…。』


一条女史が、財前女史の心中を察し、彼女の肩にそっと手を置く。


「本当に最低だよねー、独善的でひとりよがりで、身勝手で自分勝手で、思い込みが激しくて、人の気持ちが全くわかってなくてー」
「これだけ長い間みんなと一緒にいたのに、自分の殻に閉じこもって、勝手にずっと独りで生きていると思い込んでるんだがら、あたし達が仲間だってわかってなかったんだから、もうどうしょうもない、救いようがない大馬鹿野郎だよー」


「……。」


気の弱い真田特務官は青ざめて今にも気絶しそうである。


極道の大親分は黙って司令官を見送った。


『自ら最後の死に場所として
大層な大舞台をこさえなさったもんだ。
その散り際、見届けさせてもらいやすぜ。』


「あんたのこういうところあたしはどうかと思うよ。
でもこれがあんたの信じる道だと言うなら、仕方ないさね。」
彩は天野傍らに寄り添う。


「進士さん、あなたは常に非情に徹し、信念を貫き続けた。
あなたがいなければ、あなたがつくったこの非人道的な地球防衛軍がなければ、人類は今まで生き残って来られなかっただろう。」


「でも俺は俺の道を行くよ。
嫁と子供をつくって、人を愛し、生命をつなぐよ。
お天道様に恥ないような、人の道を歩むよ。
この生命を全身全霊で謳歌するよ。」


天野司令官代理がそう言うと、彩は天野の胸に顔を埋めて泣いた。




青い空に光輝く粒子が無数に漂い、神秘的で美しい光景を見せていた。
その粒子も次第に消滅していき、最後には青い空だけが広がっている。
そして人々は、本能的に感じる。神を失ったことを。


-


これは平行世界に存在した結末、エンディングの一つ。
この物語は、地球防衛軍日本支部が人類最後の日を阻止するまでの長い道程と、メンバーの本当はゆるい日常を記したものである。
これから先、物語は天野正道が地球防衛軍日本支部に着任する日まで遡るが、パラレルワールドであるが故、その世界でも再び同じ結末となるのか、全く異なる結末に辿り着くのか、今は誰にもわからない。











「SF」の人気作品

コメント

コメントを書く