異能力バトル主人公は毎回死ぬのが武器になる

ウロノロムロ

異能力バトル主人公は毎回死ぬのが武器になる

十代の青年、
その眼前には『ゼウス』と名乗る
マッチョな老人が立っている。


暗闇の中にある
ただひとつの扉を開いたら、
部屋の中にゼウスがいたのだ。


「僕は本物の神様ではないよ、
単なる転生エージェントだ」


ゼウスは自らをそう説明した。


「不条理なことに直面した人間は、
ゼウスを名乗ると、
妙に素直に受入れてくれるからね。
僕達エージェントは
みんなゼウスと名乗っているのさ」


どうやら今は不条理な状況らしい。


「君は死んでしまったから、
これからどう転生するかを
話し合うために、
ここで君を待っていたのさ」


薄々気づいてはいたが、
ゼウスの言葉に
ショックを受ける青年。


「クソッ!
やはり俺は死んでしまったのか!」


青年は
近未来の荒廃した世界の住人で、
謎の敵組織と戦っていた。


敵対組織から執拗に
狙われ続けている
サクラという少女を
守ることが彼の使命だった。


サクラを守ることだけが、
彼が戦う理由だった。


青年からすれば、
人類が滅びようが、
生き残ろうが、関係ない。
サクラが無事なら
ただそれだけでよかった。


敵対組織の罠に嵌り、
追い詰められ、
銃撃された際に
サクラを庇って
青年は命を落とした。


『サクラは、
サクラは無事なのか?』


青年がすぐに思ったのは
サクラの安否だった。
あの状況では、
援軍でも来ない限り、
おそらくは助からないだろう。


-


「彼女を救いたいのだろう?」


ゼウスは青年の考えを見抜いていた。


「なぜ俺が
考えていることがわかった?」


青年からすれば少し気味が悪い。


「さっきも言ったけど、
ここはいろいろと
不条理なことが起こる場所なんだよ、
まぁそれはいいじゃないか」


ゼウスは話を逸らした。


「そんなことより、
いい方法があるよ」


「君が別の人間に転生して、
彼女を守ってあげればいいんだ」


『転生?』


「君を君として、
あの世界に戻してあげるわけには、
残念ながらいかないんだけどね。
それだと転生じゃなくて、
ただ生き返っただけになってしまうから」


突然ゼウスが提案して来たことを、
青年はすぐには理解出来なかった。


「今から転生しても、
間に合う訳ないだろう?」


誰も当然抱くであろう疑問を
青年は問うた。


「時間とか時系列は
気にしなくていいよ、
僕は君を過去時間に
転生させることも出来るから」


「僕は君が望む時、すなわち、
彼女が危機に陥る時に合わせて
君を転生させ続けることが
出来るんだよ」


過去時間に転生出来る、
というのは理解したとして、
当然それはそれで次の疑問が生じる。


「それでは、
歴史が変わって
しまったりしないのか?」


「もっともな質問だね。
僕達からすると
彼女がここで
死んでしまうことのほうが、
歴史改変みたいなものなんだよね。


彼女がここで死ぬと、
この先、確実に人類が滅ぶから、
人類を管理する僕達としては
なんとしても彼女の死を
阻止しなくてはならないんだよね」


サクラが敵対組織から
執拗に狙われている理由を
青年は知らなかったが、
まさか人類の存亡が
掛かっている程の大事だとは
思っていなかった。




「この先、
もし今回のように力及ばず、
彼女を守り切れずに、
君が死んでしまったとしても、
僕が何度でも
君を転生させてあげるよ。
彼女を守り切るためにね」


「君は何度も転生して、
彼女をずっと守り続けて行けばいい」


青年にはにわかに
信じ難いことだった。


-


「転生するにあたって、
君が彼女を守り切れるように、
僕が特殊能力も授けてあげるよ。


少年漫画とかで
よく能力バトルみたいなのがあるだろう?
あんな感じの特殊能力だよ。


とは言え、僕はしがない
転生エージェントに過ぎないから、
死に関する特殊能力に
なってしまうわけだけど…


今の話に相応しい能力だと思うよ」


サクラを守るための特別な能力、
そんなものをくれると言うのであれば、
贅沢は言っていられない。




「その名も『魂の道連れ』だ」


「君が死ぬ時、
その時に彼女を攻撃しようと
考えている人間すべての魂を
根こそぎ、道連れにして
死ぬことが出来る。


つまり、君は死ぬが
彼女は確実に助かるというわけさ。


ただし発動条件に自殺は入らない。
少なくとも君は、
誰かに殺されないと、
この能力は発動出来ない。


自殺を含むと、
いろいろと乱用されて、
こちらも管理しきれなく
なってしまうからね」


確かに妙な発動条件が
付いているあたり、少年漫画の
能力バトルモノみたいだ。


「今まで君は勝ち続けて、
今回はじめて負けて死んだのだろうが、
これからはそうは行かなくなる。


きっと負け続けることになるだろうね。
君達の仲間の戦力は圧倒的に足りていない。
戦いを続けていられるのがおかしいくらいに。


そこで、
絶対絶命の場面では、
君が死ぬことだけが、
唯一彼女を救う方法になる
というわけさ。


この先、君はひたすら負けて死に続ける。
それでも彼女は間違いなく助かる」




青年が迷うことはなかった。
とにかく彼女を、サクラを救いたい。
ただそれだけが彼の願いだった。


-


最初の転生で、
青年は別の方法で
サクラを救うことは出来ないのか、
八方手を尽くしたが、
どうもその運命は
変えられそうにもなかった。


青年はこの転生で、
転生した自分が、
転生する前の自分に出会うという
不思議な経験をすることにもなった。


最初は違和感があったが、
それもすぐに慣れた。
前の自分も、今の自分も、
生きて来た年数は、ほぼ一緒なのだ。
どちらが本当の自分かなんて、
もはや彼自身にもわからなくなっていた。


当然、転生については、
ゼウスから固く口止めされていた。




前の自分がサクラを庇って死ぬ瞬間、
今の自分もサクラを庇って、
銃撃を浴びて一緒に死ぬ。


それで特殊能力『魂の道連れ』は発動する。
青年は薄れ行く意識の中で、
敵の大軍勢が理由もなく、
次から次へとバタバタ倒れて行く
面白い光景を目にしていた。


-


青年はその後も、
ただサクラを守るためだけに
何度も転生を繰り返した。


その中で青年は気づく。
自分が真っ先に敵陣に突っ込んで、
真っ先に死ねば、他に仲間の被害は
出ないで済むのだということに。


それからの青年は、
無闇やたらに、無謀に敵に
突っ込んで行くようになる。


敵もすぐに
殺してくれればいいものを、
なんだかんだと理由をつけて、
殺さずに捕まえて、
人質にしようとしたり、
嬲り殺しにしようとしたり
するものだがら、
青年も敵に対して、
無用に過激な挑発を
せざる得なかった。


真っ先に殺されるためには、
相当な工夫と努力が必要なのだ。


そんな彼はいつしか、
仲間からも狂戦士、もしくは
死にたがりの自殺志願者と
呼ばれるようになり、
孤立するようになっていた。


-


青年が、何度も何度も
転生を繰り返すうちに、
いつのまにか、
サクラの周りにいる
人間のほんとんどが
青年が転生したことがある
人間になってしまっていた。


サクラはずっと
ひとつの魂に守られ続けている。




しかしサクラは、自分の仲間が
次々と死んで行くのを嘆いていた。


「やたらに敵を挑発して、真っ先に死んで行く、
変な自殺志願者みたいなのばかりが仲間になるわ」


「どうしてこうも
あたしの周りには死にたがりの
頭おかしい奴しか集まって来ないのかしら」


「もう、何のかしらまったく…」











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