犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと卒業(1)

卒業式、
壇上で答辞を読み上げる生徒会長。


もうこれで学校で生徒会長の姿を
見ることもないと思うと
純心は寂しくもあり、
少しせつないような気分でもあった。


「心配しなくてもくってよ、
女子大生になっても今まで通り
家にはお邪魔させていただきましてよ」


昨晩、みんなの前で
先にそうガッツリ宣言されていたので
涙がこぼれるとかそこまでではない。
笑顔で見送ってあげられそうな気がする。


二学期になってからは
犬女ちゃんの他に
もうひとりいるパートナーと言っても
過言ではなかった生徒会長。


高校を卒業してしまったら
さすがに生徒会長と
呼ぶわけにもいかないし
なんと呼んだらいいのだろう、
そんなことも考えてみる。


『まぁでも生徒会長はこの学校の
終身名誉生徒会長みたいなものだしな』


純心にとっても生徒会長は
終身名誉生徒会長ということで
生徒会長のままでいいのではないか、
そんな風にひとりで納得していた。


-


今年卒業する三年生の中にもうひとり
純心と犬女ちゃんにとって、
因縁浅からぬ人物がもうひとりいる。


生徒会元副会長の今生河原こんじょうがわらルイ。


純心も犬女ちゃんも知らないが、
生徒会元副会長のルイこそは
二人の宿敵であり天敵でもあった。


あの夏の事件も、そもそもは
ルイが仕掛けたことであり、
スキー教室で
純心が遭難しかけたのも
もとをただせばルイに原因がある。


いつも誰にも気づかれないように
これまで二人に意地悪をして来ていたルイ。


犬女ちゃんが学校に通うようになっても
ちょっとしたいたずらや意地悪を
これまでずっと続けて来ていた。




それでもルイも
犬女ちゃんが
学校に通うようになってから
学校が賑やかで
いろいろ飽きなかったし、
いたずらや意地悪も出来たし、
それなりに楽しかったかもしれない、
などと思っていたりもする。




まだみんなが学校のそちこちで
別れを惜しんでいる真っ最中
ルイはひとり
校門へと向かって歩いて行く。


生徒会メンバーの後輩達は
先に挨拶に来てくれたが、
クライメイトや後輩達が
自分といつまでも別れを
惜しみたがりはしないことは
自分でもわかっている。


校門のところで立ち止まると、
振り返って
生徒会長のそばにいる
犬女ちゃんを見つめた。


『さよなら、犬女ちゃん』


視線に気づいた犬女ちゃんもまた
ルイのことをじっと見つめる。


ルイはそのまま校門を出て
学校を去って行く。


-


しかし犬女ちゃんには
何か妙な胸騒ぎがした。
それは虫の知らせ
だったのかもしれない。


学校を後にしたルイの後を
追って駆けて行く犬女ちゃん。
純心もそれに気づき
犬女ちゃんの後を追いかける。




通学路、歩道を
ひとりで歩いているルイの後ろ姿。


その横の車道に
突然黒のワンボックスカーが止まると
スライド式のドアが乱暴に開かれ、
中から現れた男がルイに襲い掛かり
そのまま車の中に連れ込み、
ルイを拉致して走り去る。


その様を見ていた犬女ちゃんは
すぐに全力で駆け出し
ルイを連れ去った車の後を追い掛けた。


犬女ちゃんのさらに後方で
その様子を見ていた
純心も追い掛けたが、
自動車と犬女ちゃんに
追いつけるはずもなく、
急ぎ学校に戻って
ルイが事件に巻き込まれた
可能性があることを先生に伝える。


-


車に連れ込まれ、
拉致されたルイは
大声を出せなにように
口をガムテープでふさがれ、
暴れないように
両手を紐で縛られている。


拉致した犯人は
どうやら二人組のようで
一人は車を運転しており、
もうひとりは後部座席に
座らされてるルイの横で
拳銃を握っている。


今生河原こんじょうがわらのお嬢さん、
少し大人しくしていてくださいよ。


なあに、
大人しくしていてもらえれば
手荒な真似はいたしませんって。


俺達は、あなたの
おじいさん、お父さんに
ちょっとした恨みがありましてね。


何年もの長い間ずっと、
あなたのおじいさん、お父さんに仕えて
裏の汚れ仕事を一手に
引き受けて来たんですがね、
先日用が済んだからって、
バッサリお払い箱にされたんですよ。


さすがにそれじゃあ理不尽過ぎて
こちらも納得がいかないもんでね。


だからあなたを人質にさせてもらって、
せめて退職金を沢山もらおうじゃないか
というわけなんですよ」


要はルイを誘拐して
身代金を要求しようということだろう。


以前ルイ自身が少し語ったことが
あるようにルイの家は、
生徒会長の家とは遠縁ではあるが、
闇の世界に身を置く修羅の一族であり、
ルイもいつかはこういうことに
巻き込まれるかもしれないと
思いながらここまで生きて来ていた。


そのためか、
このような状況におかれても
修羅の道を歩む一族の者には
こうした結末が待ち受けているのも
いたしかたないことだと
比較的冷静に受け止めていた。
どこか諦めてしまっているところが
あるのかもしれない。


-


「兄貴、さっきから車の後を
変な犬女が走ってついて来てますぜ!」


車を運転している男が
バックミラーを見ながら叫ぶ。


『!』


ルイがびっくりして
後ろを振り返り窓の外を見ると
確かに車の後ろを走ってついて来る
犬女ちゃんの姿がある。




知らないこととはいえ、
なぜ宿敵であり天敵である
ルイをそうまでして
助けようとするのか?


それは、犬女ちゃんだからだ。


それ以外に理由や理屈などはない。


目の前に困っている人がいたら
後先をまったく考えずに
まずいきなり親切を押しつける、
それが犬女ちゃんなのだから仕方がない。




「馬鹿野郎!
もっとスピード出しやがれ!」


銃を持った男が叫ぶと
車を運転している男は
車のアクセルを踏み込む。


いくら犬女ちゃんでも
速度を上げた車には
ついて行くことは出来ない。


あっという間に
置き去りにされてしまう。


しかしそれでも
犬女ちゃんは匂いを嗅いで
さらわれたルイの後を追跡する。













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