犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとバレンタイン(1) 

もうすぐバレンタイン。


愛ちゃんは今度こそはと
はりきっていた。
ここまでほとんどいいところなし、
このままでは何のためにハーレムに
自ら積極的に参加したのかわからない。


ここで一発逆転を狙いたいところ、
そんな気持ちで純心の家を訪れる。




しかし純心の家には
純心も犬女ちゃんもおらず、
夏希、お嬢様、生徒会長、図書委員が
台所で何やらやっていた。


純心と犬女ちゃんは
どうやら日向ひなた先生と
犬女ちゃんの認定資格のことで
話があるらしい。


「お姉ちゃん達、お揃いで
一体何をやっているんです?」


「みんなでバレンタインのチョコ
つくっているんだよねー」


よく見ると夏希の頬には
溶けたチョコが付いている。


「それってまさか
純心お兄ちゃんに渡すやつ?」


「そうそう」


夏希の返事に
愛ちゃんはちょっと驚く。


「みんなで一緒につくって
どうするんですか!」


「みなさん、いわば恋敵、
恋のライバルじゃあないですか!
それがみんな一緒に仲良く
チョコつくるって
おかしくないですか?」


愛ちゃんの言うことも
もっともな話である。


普段はみんな仲がいいが
バレンタインは恋のライバルとして
火花を散らすみたいなイベントや展開を
愛ちゃんも期待していたことだろう。


「いやぁー、
そうなんだけどねー」


夏希はどう返事をしたらいいものかと
悩んだ顔をしている。


「やっぱ、
みんなで一緒にいるの楽しいしー、
今さらひとりに決めますとか言われても
困ると言うかー、寂しいと言うかー」


夏希の言葉に呆れる愛ちゃん。


「いやいやいやいや、
それは絶対おかしいですって!
この先みんな全員が
お兄ちゃんと結ばれて
結婚出来るわけじゃないんですよ!」


愛ちゃんはムキになって反論したが
ここからこの人達の
真のおそろしさを知ることになる。




「あら、そんなことはなくってよ、
日本や欧米が一夫一婦制なだけで、
世界には一夫多妻制の国も多くありましてよ」


生徒会長の言葉の意味が
ちょっとよくわからない。


『何を言ってるのでしょうか?この方は』


「みんなで国籍を移して、その国で結婚して、
日本に住めばすべて万事解決でしてよ」


生徒会長は無駄にグローバルなようだ。




「まあ、それは素晴らしいですわね、
このままみなさん一緒に家族になりましょう」


お嬢様にいたっては、
夫婦というのは
男女が家族として
一緒に暮すことだけだと思っている
可能性すらある。


もしくは地球上の生命はみんな家族だとか
ゆるふわな発言をしだしかねない。




「私は別に愛人とかでもいいですけど、
物書きはどこか後ろ暗いところがないと……
男と正妻と犬女と愛人だなんて、
面白い小説が書ける気しかしないですよね」


一番常識派だと思われた
図書委員ですらこの有様。


人間の環境への適応能力の高さには
ただただ驚くべきばかり。


図書委員がそれほどまでに
身を削って、魂をすり減らしてでも、
物書きになりたいというのにも驚きだ。




「そういうのもいいかもねー、
愛があれば国籍とか関係ないよねー」


夏希は国際結婚する女性みたいなことを
すごく気軽に言っているが
そもそも前提条件が大きく間違っている。


全員日本人なのに
ハーレムを実現するために
国籍を移すという話なのだが
わかっているのか心配になって来る。




「でもさぁ、
国籍移したら子供とかどうなるのかなー、
日本人同士でもやっぱり二重国籍なの?」


ハーレムをつくったら
子供もつくる気でいるらしい。
それがどういうことなのか
ちゃんとわかっているのか、
やはり人を不安にさせる発言。


「あ、そういえば、
みなさんにお伝えしていなかったですけど、
実は私、現在二重国籍なのですよ。
二重国籍の場合は、二十歳になったら
どちらの国の国籍にするか選べるんですの」


もはやキーワードがつながってるだけで
話の内容すら噛み合っていない、
いつものパターンになりはじめて来た。
 

その後も外国籍をお金で買うだの
マフィアもびっくりな
女子高生が笑顔で語ってはいけなような
内容の話が平然と続けられている。


「みんなの子供を、みんなで育てて
家族をつくればいいじゃないですか」


お嬢様は屈託のない笑顔で
最後にそう締め括った。




ここまで
その会話を聞いて来た
愛ちゃんはびびった。


『まずいですよ、これは……
この人達、頭はいいけど、
頭おかしい人達だったんですね……
一番厄介なタイプじゃないですか』




美少女達がみんなで
きゃははうふふしながらも、
しかしその実は恋の火花を散らす、
というラノベ風ハーレムの人達だ
と愛ちゃんは思っていたのだが、
実はリアルガチでハーレムを
目指している人達の集まりだった。


大人と子供の差というのも少し違う
それだけですべてを片付けられない、
常人とは違った価値観の持ち主、
ある意味で変人の集まりだったと言える。


かなり好意的に言えば
常識に捉われない
柔軟な発想の持ち主、
ということになるのだろうか。




とんでもない発言の連発に
いつもは大人びている愛ちゃんも
すっかり涙目。


『あたし、
国籍は日本がいいんですけど……』


そこは無理して参加しなくても
いいと思うのだが。




もう愛ちゃんもヤケクソで
この変人集団に一矢報いようと
流れをぶった切って叫んでみる。


「でも、でも、
みんなで一緒にチョコつくったら、
みんな同じ味のチョコに
なっちゃうじゃないですか!」




「……。」


一同は黙り込んで考える。


「そう言われれば、そうですわね」


「それはあまりよろしくなくってよ」


「チョコの味って
変えたほうがいいのかなー」


「市販のチョコ溶かしたのを
冷やして固め直しただけなんですけどね」


高校生女子一同みんな
なんだか妙に納得している。


『そこは納得するんだ……』











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