犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと初詣

元旦、
いつもの女子メンバー達と
初詣に行く純心と犬女ちゃん。


二人して温かいコタツで
そのまま寝てしまっていたため、
家まで迎えに来た
夏希に叩き起こされた。
あやうく待ち合わせ時間に
遅れそうになるところだ。


早くしないと午前中が終わってしまい、
元旦ではなくなってしまうではないかと
みなに怒られる。


『そんなに元旦にこだわらんでも』




今年は割と近場の
そこそこ大きな神社を選んだが、
すでに人が押し寄せて来ており、
人の波に乗っていけば
そのまま目的地までは
辿り着けそうなぐらいの人の出だ。


晴れ着で来ているお嬢様と生徒会長、
二人の美少女の和装は何とも華やかで
襟元に巻かれたフワフワが
犬女ちゃんの尻尾を連想させる。


夏希と図書委員、愛ちゃんは
防寒機能重視スタイル。


こういうところで性格の差が
出るのだろうかと純心は思ったが、
晴れ着組はこの後もいろいろと
半ば公的な予定が入っているため
今日は一日この恰好だと言う。


『さすがセレブは違うもんだな』


電車移動と人混みを考えて
犬女ちゃんも人間に変装した
イオちゃんの姿になって
ここまで来てもらっていた。


-


参拝の行列にみんなで並ぶが、
相当時間がかかりそうな気配ではある。


お賽銭箱の前に辿り着くまでの間、
何をお願いしようかと考え込む純心。




『犬女ちゃんが
いつまでも元気で
幸せになれますように』


さすがにこれは限定的過ぎる。
犬女ちゃんさえよければ
まるで他はどうでもいい
みたいではないか。




『犬女ちゃんと母と
仲の良い女子メンバー達が
幸せでありますように』


これはこれで潔くはある。
身近な女子の幸せしか祈っていない。
約一名熟女も入っているが。


男子に対しては、完全に
幸せは自力でつかみ取れ
と言っているようなものだ。


その姿勢はおとこらし過ぎて、
漢同士で
「お前なら絶対出来るはずだ、
俺はお前の力を信じてるぜ!」
と言い合っているのではないか、
そこには熱い友情でもあるのではないか
と思わせるぐらいのものがある。


ただ同時にやはり狭い範囲しか
考えられない器の狭い男感は拭えない。
それに日向ひなた先生も小夜子さよこ先生も
対象外になってしまう。




『知り合いみんなが幸せになれますように』


ちょっと範囲が広がった。
せいぜい十数人規模だったのが
これだと百人は超える規模まで広がった。
純心と今まで同じ学校だった人も
知り合いと見なしていいなら
数百人を超えたレベルかもしれない。


だがどうしても狭い範囲のことしか
考えられない小さい男感は否めない。




この場合、
どこまで範囲を広げればいいのか、
それが問題ではないかと純心は悩む。


『日本人みんなが幸せになれますように』


なんだか国粋主義者のようになってしまう。
人種差別で訴えられる日も
そう遠くないような気がする。


それにこれだと
学校の交換留学生が入らないではないか。


もっとよく考えると、
犬女ちゃんて日本人じゃないだろう。
一番大事な犬女ちゃんが
外れてしまっては本末転倒というものだ。




もうこの際いっそこれでどうだ。


『全人類が幸せでありますように』


これはまた一気に大きく出た。
スケールがデカ過ぎる。
人類に対して若干上から目線な
神視点で物を言っているような
気がしないでもない。


そしてこれもよく考えると、
犬女ちゃんは人類に入ってなかった。
そう考えるとすべての生命体を
範疇に入れなくては
ならないのじゃないかと思えて来る。




『すべての命に幸あらんことを』


もはや完全に神視点になってしまった。
単細胞生物から人類に至るまで
すべての生き物が網羅されており、
生命賛歌の名曲『アメージンググレース』が
聞こえて来そうな勢いすらある。




こう考えると願い事というのは案外難しい。


『みんなが幸せになれますように』


そう、
『みんな』がいいのではないか。
物凄く境界が曖昧で、
ファジーと言えばファジーだが、
性別も人種も種族も特に指定するわけでもなく、
なんとなく、すべてをソフトに
包括しているような感じがする。


これだ、これしかない。
自分の若干優柔不断な性格的にも、
この曖昧さが一番合っているような気がする。


純心は長い行列を待ちながら
そんなことをひたすら考え続けていた。


せっかく美少女達六人と
初詣に来ているというのにだ。


-


「純心は何をお願いしたの?」


参拝が終わると、
お願いについて
夏希が純心に尋ねる。


「え?
そりゃまぁ、秘密だろ」
さすがに願い事を人に言うのは
照れがある純心。


「私は『無病息災、家内安全』と
お願いしましたよ」


「あ、あたしもそんな感じかなー」


夏希が少し照れながら
図書委員に同意する。


『え?
お願いって、そんな
お守りに書いてある効果
みたいなことお願いすんの?』


純心がそう思っているところに
生徒会長がドヤ顔で入って来る。


「あら、私は
『全人類が未来永劫
幸福でありますように』
とお願いしましてよ」


さすが生徒会長。
全人類でも対象範囲が広過ぎなのに、
さらに時間の概念まで組み込まれ
『未来』のお願いまで押し付けようとしている。
さらに『永劫』と
永遠に続くことを要求している隙のなさ。


一体どれだけ神様に
負担をかければ気が済むというのか。
神様ってもしかして生徒会長の
しもべなんじゃないだろうか?
ぐらいに思わせる。


お賽銭箱にいくら投げ込んだのか
純心はよく見ていなかったが、
お賽銭レベルの額で
神様に要求していい規模では
ないように思われる。
明らかに額に対してのお願いが
過剰要求というものだろう。
神社丸ごと一つ建て替えてあげて
いいぐらいの要求内容ではないか、
いやそれでも少な過ぎる。


こうなると大金持ちなのだか
ケチなのだかよくわからない。




「あら、私は
『すべての尊い命が
幸福でありますように』
とお願いしたのですよ」


動物好きのお嬢様が
人間以外の生き物すべての
幸せを願うというのは
まぁわからなくはない。


ただこれだと本当に
ミジンコレベルの幸福も
祈らなくてはならなくなる。


そもそも
生態系ピラミッドの中で
すべての生物の幸福を実現することは
可能なのであろうかと
哲学的なことを考えないと
いけないレベルだ。


また尊い命というのが
とってもセンシティブ過ぎる。
尊くない命というのが
あるかのような言い回しで、
その境界線や線引きがどこにあるのか
各界に波紋を呼ぶこと間違いなし。




しかしセレブ二人に比べ
自分が小市民であることを
思い知らされる純心。


『やっぱセレブは
スケールが違うわ』




それでは犬女ちゃんは
一体何をお願いしたのか。


『純心とずっと一緒に
いられますように』


おそらくはこれであろう。
犬女ちゃんの頭の中には
これしかないのだから。


でも
それはそれでいいんだ、犬女ちゃん。













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