犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと大晦日

結局、純心の大掃除は
大晦日まで
かかってしまっていた。


もういよいよ今年も終わり。


今年は長かったような
あっという間だったような。


師走、
普段は厳かな師ですら
走ってしまうぐらいに
忙しいから師走、
そんなことを誰かに
教えられたような気がする。


それを言えば
自分の今年一年は
走り通しだったような気もして来る。
今年一年というよりは
犬女ちゃに再会した
四月以降の九か月ではあるが。


その前の三か月は比較すると
あまりに内容が薄過ぎて
ほとんど印象にないぐらいだ。




純心は大掃除の最後の仕上げに
今年一年の思い出のアルバムを
つくってまとめていた。


犬女ちゃんと純心、二人のアルバム。


夏休みにおばあちゃんの家で
古いアルバムで
まったく覚えていない
父の姿を見たときから
アルバムというのも
ちょっといいのではないかと
ずっと思っていた。


デジタルデータ全盛のこの時代に
紙媒体であるアルバムというのは
若干古臭さを感じるが
そのアナログなところもまたいい。




アルバムの写真を見ていると
その内容があまりにも支離滅裂過ぎて
思わず自分でも笑ってしまう。


文化祭で犬女ちゃんが
歌っている写真があるかと思うと、
北海道で犬女ちゃんが
雪に埋もれている写真があったりもする。


沖縄でシーサーちゃんと
一緒に撮った写真もある。
これは研究家的には
貴重なツーショットだろうから、
大学の教授達に見せたら
喜ぶのではないだろうかなどとも思う。


そこで純心、
生徒会長に言われていたのに
すっかり忘れていた
大事なことを思い出して
軽く絶望する。


『やべえ、年賀状まだ書いてない』


-


「なんで私が大晦日に
あなたの年賀状書きの
手伝いをしなくてはならないのでして?」


純心は生徒会長に泣きついて
年賀状作成を手伝ってもらっている。


家のパソコンがしばらく使っていない間に
すっかり動かなくなっており、
ノートPCを持って来てもらったのだ。


「生徒会長がよこした
年賀状送付先リスト百枚以上あるんだから
宛名を手書きとか無理に決まってるでしょ」


純心が反論すると
生徒会長は余計に怒った。


「だから早いうちから
年賀状出すようにお願いしておりましたのよ」


「まぁ、いいじゃない
大晦日にこうやって
みんなで集まって
まったりすんのもさー」


犬女ちゃんとたわむれている夏希。
まったりしているのは
夏希達だけなのだが。


「これ犬女さんとのアルバムですの?
素敵なアルバムですわね」


さっきまで純心が
整理していたアルバムを
お嬢様が見つける。


「どれどれ」


図書委員が興味津々にアルバムを開く。
小説のネタでも探しているのか。


「あー
あたしも見たいー」


夏希と犬女ちゃんも
アルバム鑑賞に参加。


「なに?犬女ちゃん
雪だるまの中に埋まってるの?
超うけるー」


「これがシーサーちゃんなんですのね、
すごい綺麗な犬女さんですわね」


動物大好き、
獣医を目指すお嬢様は
やはりシーサーちゃんに
目が行くようだ。


「私も姿ははじめてみましてよ」


『なんで生徒会長まで
そっち参加してんだよ、
こっち手伝えよ』




結局、純心は全国行脚で会った
秘密結社『大学関係者』のメンバーと
クリスマスパーティーを
手伝ってもらった学校の知り合い
全員に年賀状を出すことになった。


去年は年賀状など
まったく出さなかったことを考えると、
これもまた
犬女ちゃんがもたらしてくれた
人とのつながりなのか、
すべて犬女ちゃん効果なのか、
などと純心は思う。


もちろん年賀状に使われた写真には、
犬女ちゃんと純心、
二人が仲良さそうに写っている。


宛名印字の段階でプリンターが壊れ
最後は手による宛名書きを
みなに手伝ってもらい、
なんとか純心は今日中に
年賀状を出すことが出来た。
さすがに明日到着は無理だろうが、
多分三が日以内には着くだろう。


-


「せっかくだから、
まだちょっと早いけど
みんなで年越しソバ食おうぜ」


「あ、いいねー、
家でも食べるとは思うけど
ソバなら二回食べても平気だしねー」


大晦日だしこのまま新年を迎えて
みなで初詣に行くという案もあったが、
年越しは家で過ごしたい
という話に落ち着いた。


純心にもその気持ちはよくわかる。
二年越しで家を空けてしまうというのは
高校生からすれば少し気が引ける。
高校生ぐらいの年齢には、
まだ拠り所としての
家という存在が必要なのだろう。


その後は、年越しソバは
温かいのがいいか、冷たいのがいいか、
などとどうでもいいような話をして
みなでまったり過ごす。


-


夜は犬女ちゃんと一緒に
コタツに入って
のんびりテレビを見て過ごす純心。


犬女ちゃんは
犬の血を引いているというのに
おこたが気に入ってしまったらしい。


純心が見ているテレビを一緒に見て
長時間お笑い番組では純心と一緒に笑い、
長時間歌番組では鼻歌のようなものを
歌ったたりする。


『最近ますます人間ぽくなって来てるよな』


おこたが温かいため、ときどき
コックリコックリ居眠りをして、
ハッと目が覚め、体をびっくとさせ、
首を横に振ったりもしている。


『お前は除夜の鐘をきくまで
寝ないと言い張る子供か』


そんな犬女ちゃんも可愛くて、
純心は胸がキュンキュンして
しまうわけだが。




近所のお寺からだと思われる
除夜の鐘が聞こえはじめる。


テレビでも新年の
カウントダウンが。


時計の針が0時を回って、
ついに新しい年へと切り替わる。


「あけましてあめでとう」


純心の年始の挨拶に
犬女ちゃんが応える。


「わん!」


純心と犬女ちゃんにとって
新年はどんな年になるのだろうか。




結局その後、二人はそのまま
温かいコタツで寝てしまった。













コメント

コメントを書く

「ファンタジー」の人気作品

書籍化作品