犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとクリスマス(8)/12月24日

おじいちゃんおばあちゃん達と
子供達によるクリスマス・イブ。


純心と犬女ちゃんが主役の
『忠犬ハチ公』のお芝居は
ただでさえ年を取って
涙もろくなっている
お年寄りの涙腺を見事なまでに
崩壊させることに成功した。


なまじみんな犬女ちゃんと
仲良くなっていただけに
可哀想な犬女ちゃんの姿に
心底感情移入してしまっている。


「犬女ちゃん、
おばあちゃんと一緒に
ここで暮らしましょ、ね?」


「おじさん達が大事にしてやるから」


現実とお芝居の区別が
つかなくなっている
おじいちゃんおばあちゃんが続出。


『あれ、お芝居だから』
『俺、ちゃんとまだ生きてるからね』


「いやあれ、お芝居ですから」


「でも、犬女ちゃんが可哀想じゃない」


感情が昂ぶりすぎてしまっているため、
もはや普通のロジックが通じない。
今は何を言っても無駄だろう。


どうしてお芝居を観た直後、
しばらく現実に戻って来られない
お年寄りがたまにいるのだろうか
と純心は以前から不思議ではあった。


確か死んだおばあちゃんも
テレビのドラマを見て
こんな感じだったと
おぼろげに思い出す純心。


-


午後は音楽会が開催される。


当初屋外に設営された会場で
行われる予定だったが、
雪と寒さのため、急遽場所が
室内に変更になった。




まずは
『犬女ちゃんガールズ』が
前説と司会を兼ねて登場。


「みんなちゃんと
いい子にしてたかなー?」


「今夜は
サンタクロースさんが
来てくださいますから
遅くまで起きてちゃだめですよ」


夏希とお嬢様は
幼児番組の司会が
出来るのではないかと
思わせるぐらいに
こういうのが上手い。


「犬女ちゃんが
『ワン』と鳴いたら、
みなさんも『ワン』と
お返事してくださいましてよ」


『ワン』の掛け合い部分を
生徒会長みずから
ちびっ子達に説明して
練習などを行う。


生徒会長と子供の相性が
いいとは思えなかったが、
案外子供好きなのかもしれない。


子供達は面白がって
何もなくても『ワンワン』
連呼して飛び跳ねはじめる。
子供によくありがちなパターンだ。


みんなに『ワンワン』
連呼してもらって
犬女ちゃんも大張り切り。


演奏の間中、みんながひたすら
『ワンワン』言っている
よくわからないライブになっていたが
会場も盛り上がってはいた。


このノリは
おじいちゃんおばあちゃんには
キツイかとも思われたが
元気な子供達の姿にニッコリ、
暖かい目で見守ってくれている。


『ネット放送見てる人には
やばい集会にしか見えないだろこれ』


-


バンド演奏が終わると
そのままみんなで
クリスマスソングを歌うコーナーに。


今度はお嬢様がピアノを弾き
生徒会長がバイオリンを奏でた。
こういうときは普段の
ポンコツぶりが嘘のように
スーパー才女ぶりを発揮する。


美少女達が奏でる美しい音色に
おばあちゃんはうっとり、
おじいちゃんはその見た目にうっとり。
子供達は元気に歌ってニッコリ。


『ジングル・ベル』などの明るい曲では
体育会男子が上半身裸のマッチョな姿で踊り、
今度はおばあちゃんがうっとり。


『赤鼻のトナカイ』では
トナカイに扮した犬女ちゃんと
夏希サンタの即興コントが
舞台上で繰り広げられた。




最後は会場全員で
『きよしこの夜』を大合唱。


窓の外に舞い降る雪、
いつの間にか外が
一面の銀世界へと変わっている
ことに純心は改めて気づく。


『これでクリスマスパーティも終わりか』


パーティーの終わり
というのはどこかせつない。


せっかくの
クリスマス・イブだというのに
わざわざ手伝いに来てくれた
学校関係者には感謝の言葉しかない。


みんなにもそれなりには
楽しんでもらえただろうか、
純心はちょっとセンチになりながら
そんなことを考えた。


-


夕方、さすがに
十二月だけあって
日が暮れるのも早い。


外はすでに暗くなっており、
飾り付けられた
イルミネーションが
夜の闇の中で一際輝く。


「わぁっ、綺麗」


子供達の素直な反応が
微笑ましくもある。




子供達とのお別れ。
おじいちゃんおばあちゃんは
外までお見送り。


涙を流しながら
再会の約束をする
おじいちゃんおばあちゃん、
子供達も頷いている。


そんな光景を見て
高校生メンバーももらい泣く。


おじいちゃんおばあちゃんは
子供達を乗せたバスが
見えなくなるまで
手を振って見送った。






純心達もまた
熱烈な感謝の言葉と
別れの挨拶をされる。


「今日は楽しかったよ」
「ありがとう!」


熱いおじいちゃん達は
純心達に力強い握手を求めて来た。


おばあちゃん達は
涙を拭いて鼻をすすっている。


「元気でな」
「いつでも来いよ」


そんな感動の場面で
本当に申し訳なさそうな
気まずい顔の純心。


「いや、明日もまた片付けに来ますんで」


本当は今日中に
すべて撤去したかったのだが、
運搬車の都合などで
片付けが少し残ってしまっており
明日もまた来なければならない。


しかし感極まったお年寄りには、
通じていない感が半端ない。


「達者でな」
「また遊びに来てね」


そんなお年寄り達の
熱烈なお見送りがずっと続く。


『これ明日すげぇ来づらいんだけど』




案の定、翌日まだ
残ってしまっている片づけに行くと
おじいちゃんおばあちゃんは
きょとんとした顔をしている。


「あれ、今日もまた来たの?」


『あぁ、やっぱりか』


-


降り積もった雪に
太陽の光が反射して
まぶし過ぎるぐらいにまばゆい。


その雪の中を
喜んで走っている
犬女もまた眩く見える。




犬女ちゃんと
再会してから約九か月。


純心ははじめて
積極的に、能動的に
自分から他人と関わり、
ごく身近な人以外の
他人のために
何かをしようと思い、
成し遂げた。


これまでも
いろんなことがあったが、
すべて純心は巻き込まれただけであり、
犬女ちゃんがもたらしたものだった。


純心を突き動かしたのは、
やはり大好きだった今は亡き
おばあちゃんへの想いと、
そのおばあちゃんが
再会させてくれた
犬女ちゃんの存在だった。


人間そんなにすぐに
変われるものではない。
しかし犬女ちゃんと再会してから
ちょっとずつ純心が変わりはじめて
ようやく今ここまで辿り着いた。


これからも逡巡しゅんじゅんしながら
純心は成長して行くのだろう。
犬女ちゃんと一緒に。











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