犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと沖縄(4)

シーサーちゃんに案内されて
犬女ちゃんと一緒に
島の海岸にやって来る純心。


白い砂浜と
コバルトブルーに輝く海。
海の青が一際濃くなっている
箇所の下には珊瑚があるらしい。
それが透けて見えるほど、
濁りのない綺麗な海なのだ。


『夏だったら泳げたのになぁ』
『この間、道頓堀川では泳いだけど』


その美しい海に
心洗われる思いの純心。
道頓堀川にダイブした黒歴史も
一緒に洗い流して欲しいところだ。


そんな美しい海岸で
犬女ちゃんとシーサーちゃん、
二人の美女がじゃれ合って
きゃっきゃうふふしているのは
もうここが天国ということで
いいんじゃないかと純心に思わせる。


-


そろそろ
夕暮れになろうかという頃
シーサーちゃんと一緒に暮す
老いてなお盛んなエロ爺さんが、
海岸にその姿を見せる。


「やはりここに来ておったか」


「シーサーちゃんは
ここが大好きでのう」


爺さんは優しそうな笑顔で
犬女ちゃんとたわむれている
シーサーちゃんの姿を見つめる。
それを見る限りだと、本当に
人の良さそうな好々爺なのだが。


「もうどれぐらい
シーサーちゃんと一緒に
ここで暮しているんですか?」


純心がそんなことを聞くと
爺さんは昔の話を語りはじめる。


「もうかれこれ
何十年になるかのう…」


「昔はワシも
シーサーちゃんと一緒に
東京に住んでいたんじゃが…


それはそれは大変でのう、
今とは比べものにならんほど
当時は犬女に対する偏見や
迫害がひどかった時代じゃからのう…


それでシーサーちゃんが
あまりに可哀想になってしもうて、
ワシはシーサーちゃんを連れて
一緒に逃げるようにして
この島にやって来たんじゃ…


名前もちょうど
『シーサーちゃん』だったしのお、
この島の人達は、
生きてるシーサーだ、島の守り神だ、
と言ってくれて
暖かく迎え入れてくたんじゃよ」


爺さんは珍しく真面目な顔で
長い白髭をずっと指で撫で続けいる。


「ワシはこの島に
シーサーちゃんと一緒に来て
よかったとずっと思っとるよ」


「もう何十年も
前の話になるがのう」


『爺さん、
いい話してるとこなんだが、
また頭から血流れてるかんな』


もし昔の犬女への
偏見や迫害がまだ強かった時代、
自分であったなら
果たして同じことが出来ただろうか、
純心は自分自身に問う。


今でこそ人権擁護団体やら
動物愛護や環境保護の団体が
犬女を擁護しはじめているが、
爺さんが若かった頃など
そんな概念があったかすらあやしい。
人間が生きて行くだけでも
精一杯の時代であっただろうから
仕方ないと言えば
仕方ないのかもしれない。




『いや、ちょっと待てよ』


『爺さんの年齢と
シーサーちゃんの年齢だと
時代が合わなくないか?』


シーサーちゃん、
犬女ちゃんよりはちょっと
お姉さんという感じはするが
人間の年齢で言えば
二十代女性ぐらいだろう。


片や爺さんの若い頃となると
もう何十年前の話になるのか。




「あぁ、それね、
シーサーちゃん、ああ見えて
ワシと同じぐらいの年齢だから」


「!」


「犬女ってのは、
ある程度成長すると
そこから見た目は
あまり年を取らなくなるんじゃな、
もちろん個体差とかあるけど」


「!!」


確かに、
ネットやメディアなどで
たまに犬女が扱われるときでも
あまり老けた犬女というものを
純心は見たことがなかった。


だがそれは犬女の寿命が
普通の犬と同じく
人間よりも短いためだと
ずっと思っていたのだが、
まさかそんな理由があろうとは。


「昔はワシも
若かったんじゃけどな、
今ではすっかりワシだけ
老いぼれてしまったわい」


そんな話を聞くとちょうど
海岸ということもあり、
爺さんがまるで
浦島太郎のように思えて来る。
ここは天国ではなく、
竜宮城ということになるのか。




『美魔女の犬女、
いや美魔犬女びまいぬおんなか?』


純心は自分でも
何を言っているのか
よくわからない。


犬女ちゃんにはいつまでも
可愛らしくいて欲しいと
純心は常々思っていたが、
自分だけが一方的に
見た目が老けていく
というのはそれはそれで
心中複雑なものがある。


自分がお爺ちゃんになっても
犬女ちゃんは見た目が
今と大して変わらない
ということになるのだから。


とういうことはだ、
この爺さんと
シーサーちゃんの関係が、
将来の自分と
犬女ちゃんの姿に
なるということか。


純心は改めてまじまじと
頭から血を流している
爺さんを見返してみる。


『ちょっと、これはやだ』


-


犬女ちゃんと
シーサーちゃんが
お互いに向き合って座る姿は
清水寺の大門で見た
一対の狛犬像にそっくりだった。


ペアの狛犬像は
一方が獅子で、
もう一方が狛犬だと言う。
であれば今は
シーサーちゃんが獅子で、
犬女ちゃんが狛犬
ということになるだろうか。


「犬女というのは
生涯にわたって
かけがえのない友に、
家族になってくれる存在じゃ」


「お主のことをこれからもずっと
命懸けで守ってくれるじゃろう…
それこそ悪霊ごときは
簡単に追い払ってくれるじゃろう」


爺さんはそう言うと笑い声を上げる。


「お主も大事にしてあげるんじゃぞ」




純心にとって
災いをもたらす悪霊を
犬女ちゃんが追い払ってくれる
魔除けであり、
守り神であることは、
今さら言うまでもなく
純心にはわかっていた。


神様の使いではなくても、
死んだおばあちゃんが
つかわしてくれた
純心にとって
かけがえのない守り神、
それが犬女ちゃんだ。




白砂の海岸で、
夕陽に照らされて
向き合う犬女ちゃんと
シーサーちゃんの姿は
やはりどこか神々しく見えて
なんと美しい光景だろうと
純心は思う。











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