犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと沖縄(3)

「せっかくなので
水牛車にでも乗って
島内を観光して来るといいじゃろ」


爺さんの勧めで
純心と犬女ちゃんは
水牛車に乗りに行くこと。
一緒について来て
案内をしてくれる
シーサーちゃん。


『水牛って日本にもいるんだな』


東南アジアやインドなどのみに
生息していると思っていた
純心は水牛を見て少し驚く。


この島にいると、日本よりも
アジアの雰囲気を強く感じる、
海を隔てて分かれていても
やはりアジアが文化的に
つながっているのがよくわかる。




水牛車はその名前の通り
荷車に屋根が付いているだけの
見通しがよい車箱に人を乗せて
水牛が引いて歩く。


犬女ちゃんも
シーサーちゃんも
車を引く役を
やりたがったが、
ここは水牛さんの
見せ場なので
諦めてもらうしかないだろう。


観光客も水牛が
車を引くというのを
目的に来ているわけであり、
二人の見た目は美人名犬女が
引くというのでは
本来の趣旨とは違う。


それはそれで
ケモナーさんや
マニアな性癖の人には
人気が出そうな
サービスではあるが。


引く役をやりたがるのが
犬女共通の本能であることは
今回ここではじめて知った。


これまで
犬女ちゃん以外の犬女と接して
観察するような機会もなかったため、
それが犬女ちゃんという固体の好みなのか
種族に共通する本能的なものなか
知る術もなかったのだ。




ゆっくり歩いて
車を引く水牛さん、
歩いたほうがよほど早いのだが
それも言わないお約束だろう。


のんびりゆっくり景色を
楽しむことが目的であり、
機能的な移動手段のために
使っているわけではない、
さすがにちょっとイラチな
純心でもそれぐらいのことは
わかっている。




犬女ちゃんとシーサーちゃんは
結局、車には乗らずに
水牛さんと一緒に歩いている。


水牛が引く車に
犬女が乗って楽するというのは
彼女達の奥底に眠る
野生のプライドが許せないのか
もしくはただ単に
じっとしていられないのか
どちらかだろう。


彼女達からすれば
水牛さんの歩みが
ゆっくり過ぎて
歩いたことにすら
ならないかもしれない。


しかしながら
水牛車の周りを
犬女ちゃんとシーサーちゃんが
うろうろしている姿は
なんとも微笑ましくて癒される。
ほっこりする。




「今日のお客さんは幸運ですね、
シーサーが二匹も一緒ですから、
きっといいことがありますよ」


水牛車の案内人役が
そんなことを言って
乗客の笑いを誘う。


こんな環境で暮していたら、
例えどんな人間であったとしても
温厚になってしまうだろう、
自分の怒りやすい性格も
少しは直るのではないか
と純心は思う。


水牛車は
ゆっくりゆっくりと
集落を散策して行く。


-


しばらくすると
水牛が立ち止まる。


こういうことは
毎回あることだそうで
案内役の人もすっかり慣れている。


「止まってしまいましたね、
しばらくこのまま待ちましょう」


案内役の人が
柔和な顔を崩すことはない。


『これ、これだよ』


動けとムチを
入れるわけでもなく、
せかすわけでもなく、
水牛が再び動き出すのを
ひたすら待つこのゆるやかさ。


急いだところで
どうにもならないから
ゆくり待てばいいさぁ、
時間はいっぱいあるんだし、
と言われているようで
逆に雄大な時間の流れすら
感じてしまう。


「このまま
ずっと待ってるのも
みなさんお暇でしょうから、
ちょっと唄でも披露させて
もらいましょうかね」


案内人はそう言うと
車に積んであった
三線さんしんという
三味線に似た
弦楽器を取り出して、
古くから伝わる
沖縄民謡を唄いはじめる。


その独特の三線の音色、
ゆっくりと流れるリズム、
いかにも沖縄らしい曲、
それを聞くと何かが
心に染み込んでくるような
そんな気になって来る。




その音色に
気をよくしたのか、
犬女ちゃんは
二本足で立ち上がり
水牛のそばで踊りはじめた。


ゆっくりとした音色に合わせて
優雅な踊りを披露する。


それを見て
シーサーちゃんもまた
二本足で立ち、
曲に合わせて舞いはじめる。




水牛車を囲んで踊っている
シーサーと獣人、
それだけを聞くと
まるで妖怪絵巻か
何かのように思えるが。


可愛らしい異形の者達が
まるで宴で楽しく
舞い踊っているかのようで
それはそれは
見ていて心和む光景だった。











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