犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと全国行脚(2)

日本全国各地を回る
純心と犬女ちゃん。


十二月の北海道では
寒さに凍えそうになり、
新潟では積雪の中に
埋まって遭難しそうなり、
四国でお遍路さんの
一部を回ったり、
広島の平和記念公園で
戦争について考えてみたり、
わずかな短期間で
そんな旅をして過ごしていた。


後、残すは
九州と沖縄だけ
というところまで
ようやくたどり着く。


-


純心の大学を訪問して回る
まるで営業のような活動も
すっかり板についていた。


先方と連絡を取り
往訪日時を調整するのも
今では純心が自分で行っている。


生徒会長が丸投げ、
投げっぱなしだった
こともあるが、
すっかり犬女ちゃんの
マネージャーのように
なってしまっている純心。


純心は自虐的に自分のことを、
生徒会長にいいように使われる
『生徒会長の犬』
と言ったりもしていた。


小夜子先生ではないが
犬女ちゃんのご主人様が
犬奴隷というのは
いかがなものであろうか。




今ではもちろん
先方との約束時間は
しっかりきちんと守る。
以前の自分を棚に上げて、
時間を守れないのは
人として失格ではないか
ぐらいのことを最近では
口にするようになった。


地方では電車の本数が
極端に少ないため、
一本電車を逃すと
次はいつ電車が来るのか
わからないようなことが多い。
そのための下調べや
事前の準備もきちんと
やるようにもなっていた。


さらに今では
自分達が訪問するのが
どんな大学なのか、
自分達が会う人間が
どんな人間なのか、
ネットを使って
事前に調査もしている。


大切な犬女ちゃんを
変な人に会わせるわけにはいかない、
いつしかそんなことも
気にするようになった純心。


変な思想や政治的なことに
犬女ちゃんを利用されたくない、
純心としてはその一心だった。
今学校の広告塔に犬女ちゃんが
使われているのが、純心としては
ギリギリの許容範囲。




すべては犬女ちゃんを
思えばこその行動だったが、
結果としてそれはすべて
純心自身のためになっていた。


今ぐらいのビジネススキルや
ビジネスマナーがあれば、
例え、高校を出て働いたとしても
すぐにクビにされるような
ことはないだろう。
実務レベルでのビジネススキルなど
習うより実践で慣れたほうが早い。


犬女ちゃんの存在
それ自体がきっかけとなって、
純心はいろいろなことが
変わりはじめて来ていて、
確実に成長しているのだが、
本人にはまったくもって
そんな自覚はなかった。


そういう意味では間違いなく
ラノベ主人公並みに鈍感だと
言って問題ないだろう。


-


犬女ちゃんと一緒に
日本全国を回って、
純心はいつしか
日本各地に残る
犬女の伝承について
興味を抱くようにもなっていた。


興味のきっかけはやはり
京都の稲荷神社関連で
聞いた白狐さんの話と、
清水寺の大門で一対の
狛犬の像を見たことからだろう。


訪問した地方の大学教授に
その地域で昔から伝わる犬女の話を
純心は自ら積極的に尋ねた。


「ほう、熱心だね、感心感心」


「よかったら
うちの研究室に来ないかね?」


大学教授からは、そんな
お褒めの言葉をいただいたが
純心的には何を褒められているのか
ピンと来ず、はぁと応えるだけだった。
そういうところは犬女ちゃんの
天然ぶりに通じるものがある。
親が親なら子も子である
というところか。
もちろん親子ではないので、
どちらかというと
長年連れ添った夫婦は
よく似て来ると言ったほうが
いいのかもしれない。


-


大学教授達から聞いた
日本各地における
犬女の伝承として
一番多かったのが、
人間の身代わりになる
という話だ。


本来であれば人間女性が
神様への捧げもの、供物として
生贄にされるところを
犬女を身代わりにして
神様を誤魔化してしまう
という内容の伝承である。


人柱や人身御供というのが
さも当たり前のようにあった
時代でも犬女はやはり
不遇の扱いを受けていたらしい。


しかしその一方で
犬女が神様の使いとして、
崇め奉られていたという
地域伝承も残っている。


しかも面白いのが
そうしたほぼ真逆の伝承が、
同じ地域に残っていたりするのだ。


神様からつかわされた犬女を
神様への生贄として捧げる、
それでは単に人間が犬女を
神様に返品しただけ、
本国に強制送還されただけ
ということになってしまう。


まぁ日本は
八百万の神様がいる
とされている国だから
つかわした神様と捧げられた神様が
違ったとしよう。


神様Aが人間に送った犬女を
人間が勝手に
神様Bへの捧げものとして
貢いでしまいました。


それでは神様Bは鎮まっても
神様Aのほうは怒り心頭であろう。
むしろそっちの天罰のほうが
よっぽどコワイような気がするのだが
どうなのであろうか。


もしくは神様Aと神様Bが
人間を差し置いて
大喧嘩をはじめてしまい
甚大な被害を人間達は
受けるのではないだろうか。


犬女の地域伝承を調べながら
そんなことを妄想するのが
純心は楽しくて結構好きだった。


おそらく母も
犬女のことを調べているうちに
いつの間にか有名な
犬女研究家になったのだろう。
純心はここでも少し
母の気持ちを察することが出来た。


-


犬女ちゃんは
日本全国各地を回り
いよいよ訪問リスト・別名ノルマ
の最後にあたる
九州・沖縄に向かうことになる。


これを達成したら
今度こそ本当に
全国制覇を達成したと
言っていいのではないか、
純心は思う。


何をもって全国制覇と
言っているのか
未だにその定義が
曖昧なままではあるが。


確かに北は北海道から
南は九州・沖縄まで、
そしてその他日本各地を
これだけ移動している人は
日本人でもそうそういないだろう。


犬女ちゃんはいつに間にか
その辺の日本人よりも
はるかに遠い距離を移動し
はるかに広い範囲で行動する
ようになっていたのだ。




最後に予定されている沖縄は
本島ではなくさらに少し離れた
離島が目的地になっている。


もちろんそんなところに
大学はないのだが、
純心の母同様に著名な
犬女研究家の好々爺が
その島に住んでいると言う。


その人に犬女ちゃんを会わせるのが
今回のミッションということなのだろう。




「あなた達のためにも、
あの方には絶対会っておくべきでしてよ」


生徒会長はおそらく
何かを知っているようで、
ニヤニヤ笑みを浮かべながら
純心と犬女ちゃんにそう断言した。


生徒会長のそういう
サプライズ好きなところに
純心は若干イラっとしたが、
沖縄にも行ってみたかったので
ここは素直に犬女ちゃんと一緒に
沖縄へと向かうことにする。


そして確かにそこには
今までにないサプライズが
純心と犬女ちゃんを
待ち受けていた。













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