犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと京都・大阪(9)/道頓堀

そうそれは奇跡だった。
奇跡のタイミング。


無数の偶然が
積み重ならなければ
決して起こることはない、
そんなレベルの出来事。


純心達が
道頓堀を訪れたときは
奇しくも地元の人気
プロ野球球団である
阪神タイガースが
日本シリーズ優勝を賭け
最終戦を行っている
真っ最中であった。


その試合に勝てば
阪神の日本シリーズ優勝が決まり、
阪神は今年の日本一のチームとなる。


阪神タイガースは
地元関西を中心に
非常に熱狂的ファンが
多いことで有名なチームである。


そもそも
プロ野球ファンからすれば
この時期に日本シリーズが
行われていることが異例であり、
通常であればもっと早い時期に
行われているはずなのだ。


それが今シーズンを通じて
雨で順延などが相次いでいたため、
紅葉が真っ赤に染まる
ようなこんな時期まで
スケジュールが押して来ていたのだ。


それも積み重なった偶然の
ひとついうことになるだろう。




道頓堀は
阪神の優勝が決まった際に
ファンが集まる場所としても有名で、
道頓堀にある戎橋の上から
ファンが川にダイブすることも
日本中によく知られている。


すでに道頓堀に
集まって来ているファンもおり、
少しだけぴりぴりした空気も流れていた。


-


阪神の日本シリーズ優勝が決まると、
道頓堀にはどこからともなく
大勢の人々が集まって来て
あっという間に人で埋め尽くされる。


純心と犬女ちゃん、その一行は
そんな歴史的瞬間に
立ち会ってしまったのだ。


思い思いに万歳三唱するファン、
応援歌である『六甲おろし』を
大勢で合唱する応援団の人々。


犬女ちゃんも
そんな人々の熱気にあてられたのか
なんだか興奮気味であった。




そしてまた我慢しきれなくなって、
キレキレのアクロバティックなダンスを
大勢の人々の前で披露してしまう。


だが、まだここまではよかった。


「なんや、
あの可愛らしい
犬女のお姉ちゃん、
やるやないけー」


喜びに湧くファンの人達は
女ちゃんが舞う祝福のダンスを
そんな暖かい目で見てくれ、
一緒に大盛り上がりとなる。


-


だが熱狂的に盛り上がり過ぎて、
阪神ファン男性のひとりが
戎橋から道頓堀川に飛び込んだ。


阪神が優勝するたびに
ファンが川へ飛び込むのは
もはや恒例のお約束
みたいなものである。


しかしそれを見た犬女ちゃん、
きっと身投げに違いないと
勘違いし、自分も救助のために
橋の上から川の中へと飛び込む。


「馬鹿野郎!
お前泳げないだろう!」


その犬女ちゃんの行動を見て
純心は思わず大声で叫んでしまう。


このまま犬女ちゃんが
溺れてしまっては一大事だ、
純心もなりふり構わず
橋から川へと飛び込んだ。


「なんや、
あの可愛らしい犬女ちゃん、
泳げない言うとったで!」


純心の叫び声を聞いていた
ファンが次々と言いはじめる。


「そら、えらいことやがな、
助けにいかんとあかんやろ!」


いつの間にか
心優しい阪神ファンが次々と
犬女ちゃんを助けるために
川に飛び込むという
ひどい事態になってしまっている。


むしろそんな大人数で
一斉に川に飛び込んだら
下にいる人にぶつかって
余計に危ないだろう、
というぐらいの人数のファンが
やり過ぎの善意を見せてしまうことに。


どうやらここでもまた
犬女ちゃんの
ハーメルンの笛吹き男効果が
発動してしまったということか。
今回は川に飛び込むというところまで
しっかり本家の笛吹き男を
再現してくれている。


もうそろそろ、この際だから
犬女ちゃんの特殊異能力として
認定されてもいいんじゃないだろうか。




しかし大変残念なことに
犬女ちゃんは今ではすっかり
泳げるようになっていた。
いやむしろ泳ぎが得意になっている。


学校の保健医である日向先生と
純心が授業を受けている間に
溺れている人を助ける特訓を
積み重ねていたからだ。


そんなことはつゆ知らず
助けに飛び込んだ純心。
犬女ちゃんが介助犬と
同等の認定を取得するのに
まさか救助犬の真似事まで
練習していたとは、
さすがの純心でも
思ってはいなかった。
日向先生は
将来犬女ちゃんを救助犬にでも
するつもりなのだろうか。


しかし純心がそれを
知らなかったお陰で
道頓堀はなかなかカオスの
様相を呈してしまっていた。


もちろん最初に
飛び込んだ奴が一番悪いのだが。


-


翌朝の新聞には
阪神の日本シリーズ優勝に
湧くファンが道頓堀川に飛び込む
という記事が載っている


しかもそこに使われている写真は
純心が飛び込んだときの写真だった。


もう死んでしまいたい
ぐらいに恥ずかしいと思う純心。


純心はすべてを
なかったことにしてくれる
魔法の言葉を使うことにする。


『旅の恥はかき捨て』











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