犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと東京(1)

純心はいつか
犬女ちゃんを
東京に連れて行って
みたいと思っていた。


もちろん別に
田舎に住む少年が
東京に憧れているとか
そういう話ではない。


犬女ちゃんが
都会の環境でも
適応出来るのか
いつか試してみたいと
ずっと思っていたからだ。


案外日本人自身でも
気づいていない人が
多かったりするのだが、
東京は世界でも
稀有な巨大都市だ。


東京に適応出来れば、
世界中どこの都市に行っても
適応出来ると思っていい。


おそらく海外で
暮らすことも可能だろう。
もともと人間の言葉で
話すことが出来ないのだから、
今さら日本語だろうが、
英語だろうが、
他の言語だろうが
そこは関係ないだろう。


-


これまで犬女ちゃんは、
短期間のうちに行動範囲、
移動範囲を広げて来た
と言っていい。


最初は家とその近辺の
ごく限られた範囲でしか
行動出来なかったが、
それが町内会など
人間のコミュニティも
行けるようになり、
自転車で移動距離も伸び、
鉄道に乗れるように
なったことで、移動距離は
さらに飛躍的に伸びた。


大袈裟に言うと、
人類の移動距離の変遷、
それとほぼ同じである。
原初、自らの足で
歩くしかなかった人間の
行動範囲はごく限られており、
限られた範囲で
生活していただろう。


それが馬や船などの
移動手段を使うことで
移動範囲を広げ、
さらに鉄道や自動車の出現で
陸地の長距離移動も可能になり、
極めつけはやはり
飛行機ということになる。


犬女ちゃんにとっては、
おそらく海外というのが
最大の難関になるのでは
ないだろうか。


どんなに人間に
変装したところで、
人間ではないため、
そもそも国籍がなく、
パスポートが
絶望的に無理なのだ。
偽造パスポートでも
入手しない限りは。


他の動物同様に
荷物と割り切って
積荷扱いで
移動するとしてもだ、
人の姿をした犬女ちゃんが、
パスポートなしで
いいのかなど、扱いが
よくわからないことが多い。


純心もさすがに
犬女ちゃんを
海外に連れて行くつもりは
今のところないため、
そこまで真剣に
考えたことはなかったが。




そんな大それた話ではなくても、
もっと身近なところで
子供の成長に伴う
行動範囲の広がりと一緒だった。


純心と出会った
ばかりの犬女ちゃんは、
未就学児レベルもしくは
小学校低学年レベルの
行動範囲だった。
それがこの半年の間に
一気に広がったのだ。


もともと死んでしまった
おばあちゃんの
行動範囲が狭かっただけで、
本来であれば犬女ちゃんは
どこまでも行けた。


それこそ野良であったなら、
歩くなり走るなりして
日本全国を放浪していても
おかしくはないのだ。


-


「PVも文化祭も
大学関係者の方々に
大変評判がよろしくてよ」


生徒会長が高笑いしながら、
そう言った瞬間に
純心には嫌な予感がした。


そもそもずっと思っていたが、
『大学関係者』とは誰のことなのか
大学教授とかであれば
まだわかるのだが、曖昧過ぎて
あやしさすら感じてしまう。
大学の経営者や運営サイド
なのだろうことは
純心にもわかるのだが。


文化祭の演劇については、
結果的にやってよかったと
思ってはいるが、
それこそ終わるまで
生きた心地がしなかった。
犬女ちゃんなど
他にバンドまでやっている。


これ以上生徒会長の
面倒な無茶ぶりは
純心としては
お断りしたいところだ。


「それで是非、
犬女さんと純心さんに
会ってお話をうかがいたいのだ
そうでしてよ」


『あぁ、やっぱり』


「そこで、
これから毎日放課後は、
東京の大学に訪問してもらいと
思っておりましてよ」


『それって単に毎日
大学に営業に行って来いって
話ですよね?』


大学の広告塔として、
犬女ちゃんが学校に通うことも
了承してはいた純心だったが、
これはもはや営業も
お前達で行って来てくれ
と言われているに等しい。


「旅費はすべて
大学持ちですから、
気兼ねなく交通費は
使っていただけましてよ」


『いや、そこじゃなく、
そこも大事ではあるけどもだ』


「犬女さんが
いろんな世界を見るのには
またとないい機会でしてよ」


生徒会長もすっかり
純心の扱いに
慣れて来てしまっているようだ。
純心の痛いところを突いて来る。




とまぁ、結局
純心は犬女ちゃんと一緒に
東京の大学を回ることになるのだが、
ゆくゆくは東京だけにとどまらず
日本全国の大学すらも回ることになる。


ここから、
犬女ちゃんの旅が
はじまろうとしていた。











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