犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとハロウィン(4)

ハロウィン限定スイーツを
満足行くまで食べ、
再び街を徘徊する一行。


すっかり日も落ちて、
夜のハロウィンらしい
ちょうどいい雰囲気に
なって来ている。


もしかしたら、
今回はこのまま何事もなく
普通に終われるのではないか
と淡い期待を抱いている純心。




そういうときに限って、
小夜子先生が
また余計なことを思いついた。


ここまで犬女さまと
ロクに絡むことが
出来ていない小夜子先生は
焦っていたのだ。
なんとかここで犬女さまに
アピールしておきたいと。


『はっ!
犬女さまが四つ足なのに、
犬奴隷が二本足で歩いているのが
お気に召さないのではないかしら』


ボンテージ風の
セクシー衣装を着た
小夜子先生が犬女ちゃんを
リスペクトした挙句、
四つ足で歩く姿は、
変わった性癖を
人に見せたくて仕方がない
マジモンの露出変態おばさん
にしか見えなかった。


『やばい、先生がまた
率先して変なことはじめた』


これが担任の先生かと思うと
純心も泣けて来る。




『おばさんがまた変な悪目立ちを
はじめたじゃあないですか。
これではせっかくの私のメイン回が
台無しじゃあじゃあないですか』


小夜子先生に、
対抗意識を燃やして、
愛ちゃんも四つん這いになる。


今回の言い出しっぺ
であるにも関わらず、
ここまでロクに
アピールが出来ていない
愛ちゃんもまた
焦っていたのだ。


「犬女お姉ちゃんのコスなんですから、
四つ足は当然基本じゃあないですか」


小夜子先生と愛ちゃんは、
にらみ合い火花を散らす。




そこから先、
後はもうお察しだった。


「そう言われれば、
そうかもしれませんわね」


お嬢様は何の疑いもなく、
愛ちゃんの発言を鵜呑みにした。


『そこはスルーするとことろだから!』


心の叫びも届きそうにもない。


「そう言えば、いつか純心家で
犬女ちゃんの真似して遊んだね」


夏希も昔を懐かしんで、
犬女ちゃんの歩く真似をはじめる。


『そこは家だけにしとけ、な』


「まずは気持ちから、
犬女さんになり切るということでしてね。
そういう泥臭い考えも嫌いじゃなくってよ」


生徒会長も何か違った方向に
勘違いしはじめた。


『そんなお高いお着物で、
そんなことしちゃダメ絶対!』


「犬女ちゃんの気持ちがわかれば、
犬女ちゃんのいい話が
書けるようになるかもしれない」


作品のためには、
自らの自尊心を犠牲にする覚悟が
図書委員にはあるようだ。


『ここで作家魂、
見せなくていいから!』


六人もいると
純心もツッコむのが大変だ。




あっという間に、
純心は四つ足で歩く
六人の美女達に
取り囲まれてしまった。


機会があれば
是非誰かにやってみて
もらいたいものだが、
街中を人間が
四つ足で歩くというのは
かなり目立つ。


人間普段見慣れないモノには
恐怖を抱いて、
反応してしまったりもする。


それが六人もいるのだから、
まず目立たないはずがない。
しかも六人全員が
相当な美女である。




最初こそ、
仮装した大勢の人々も
悪目立ちしようとしている
若い馬鹿者がいる、
という感じの反応であったが、
あまりにも異様過ぎたため、
次第にマジモンのガチ変態が
ハロウィンを装って、
乱入して来たのではないかと
いう反応になりつつあった。


「ハロウィンの仮装でも、
さすがにあそこまでしないでしょ?」


「あれガチ、変態なんじゃね?」


純心はもうこの場から
逃げ去りたいぐらいの
心境だったが、
こんな姿の女子を
置き去りにして行こうものなら、
どこかのやんちゃな男子に
お持ち帰りされてしまうのは
まず間違いなく、
逃げるに逃げ出せない。
むしろ逆にそういった
悪い虫が寄って来ないように、
威厳のあるマスター、ご主人様を
装わなくてはならなかった。


『ああ、もういっそ殺してくれ』


-


だが、そんな純心にも
救いの手が差し伸べられた。


今年大流行した
ケモノアニメのキャラに仮装した
女子集団が大挙して通りかかる。


その一人が、
純心達一行を見て言った。


「うちらもケモノキャラなんだから、
四つ足じゃないとダメじゃね?」


この救世主なんだか、
ただの馬鹿なのかわからない
女子の一言で、
形勢は一気に変わる。


純心達の前を通りがかっていた
何十人もいたケモノ女子が
一斉に四つ足になりはじめたのだ。


それまで目の前を遮っていた視界が、
一気に開けてしまう様は
もはやモーゼの海割りレベルだ。


「あいつやべえよ、やべえ」


「マジモンで、しかも
マスター中のマスターだろ」


純心はただの変態扱いから、
人々からリスぺトすらされてしまう
キングオブ変態マスターに
クラスチェンジを果たしていた。
いつの間にか勝手に。


『俺、何にもしてないんだけど』


ここまでであれば、
救いでもなんでもないのだが、
これが街中のケモノキャラに仮装した
女子の間に伝播してしまい、
いつの間にか、
今年のハロウィンの流行になっていた。
街中に大量に溢れ出し、
彷徨う四つ足ケモノガール達。


純心達一行はその隙に、
そこから姿を消した。


小夜子先生は
まだ物足りなかったが、
これでも一応は
教育者の端くれである以上、
生徒達を夜遅い時間まで
連れ回すわけにもいかない。
ましてや中学生まで
一緒にいるのだ。


一時はどうなることかと
冷や冷やしていた純心は
無事帰るまで
生きた心地がしなかった。




そして、なぜか地方都市で
起こったそのブームは
東京の渋谷にまで伝播してしまい、
四つ足ケモノガールが
渋谷にも大量に出現し、
世間を大いに騒がせることになる。
おそらく誰かが動画で配信したのを
渋谷の女子が真似して流行ったのだろう。


-


翌日のニュースでは、
『ハロウィンで若者の暴走!
四つ足ケモノガール大量出現!』
という感じで取り上げられ、
社会問題扱いされていた。


純心はおそろしくて、
その日はTVでもネットでも、
ニュースをまったく見ることが
出来なかった。













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