犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと文化祭(9)/後夜祭

一般公開が終わると、
みなで片付けをして
後夜祭が行われる。


文化祭もなんだか
あっという間だった
ような気もする。


最初の企画段階から入れると、
数か月に渡って
準備されて来たものが、
わずか二日で終わってしまう。


片付けをしていると
終わったという解放感よりも、
少しせつないものを感じる。


-


後夜祭では、
グランドでお決まりの
キャンプファイヤーが
行われることになっていた。


夕暮れ時、
周囲も徐々に
暮れはじめてきており、
井形に組まれた木材からは、
大きな火柱が立ち昇る。


火の明かりというのは、
やはり電気の明かりと
全然違い、熱があり、
暗がりの中を
火で照らされる世界は、
なんだか非日常的空間に思える。


熱で体温が上がるので、
人のテンションも上がり
気味になってくるのは当然で、
みなしてなぜか異様に
はしゃいでいる。


犬女ちゃんも
キャンプファイヤーの火に
顔を赤く照らされて、
少し気分が高揚している
ようにも思える。


-


文化と相性が悪い
犬女ちゃんが、はたして
文化祭を楽しめるのかなどと
純心は心配していたが、
それはとんでもない間違いだった。


今年の文化祭で、
全校生徒の中で
一番活躍していたのは、
犬女ちゃんだと言っても
いいぐらいだろう。


多少強引な部分もあったが
無理矢理、犬女ちゃんは
人間の文化の壁を
打ち破ってみせた。
ぶち壊してみせた。


それが犬女ちゃんの
持っている力や強さであり、
バイタリティなのだろうと
純心は思う。


-


キャンプファイヤーを囲んで
フォークダンスがはじまると、
純心は犬女ちゃんとペアを組んで、
踊り方を教える。


次からはバンドの
メンバー達が並んでいる。




「犬女ちゃん、
文化祭楽しかったねー」


夏希は一緒に踊りながら、
犬女ちゃんに声をかける。


犬女ちゃんも嬉しそうに
ワンと返事をする。




「犬女さん、
ありがとうございました、
おかげで
とっても素敵な思い出が
出来ましたわ」


お嬢様は
天使のような笑顔で
お礼を言った。


ワンと鳴いて
お礼を返す犬女ちゃん。




「犬女ちゃん、
人間の文化に触れてどうだった?」


文化部寄りの人間として、
犬女ちゃんが人間の文化に
触れることが出来ないことを
残念だと言っていた図書委員。


明るい笑顔で
ワンと鳴く犬女ちゃん。
楽しめたということだろう。




「犬女さん、
よく頑張ってくださいましたわ、
本当にお疲れ様でしてよ」


生徒会長は
労いの言葉を掛けた。


生徒会長の思惑は、
犬女ちゃんのお陰で
すべて大成功だったが、
それは純心達からしても
同じことが言えて、
生徒会長が学校に通えるように
してくれなければ、
こうして犬女ちゃんが文化祭を
楽しむこともなかった。


無茶ぶりに思えたことも
純心と犬女ちゃんにとっては、
かけがえのない経験となり、
いい思い出にもなった。


まだこの先は
どうなるかわからないが、
それでも犬女ちゃんが
学校に通えるようになって
よかったと純心には思えた。


-


「犬女ちゃん、
あーしとも踊ってよー」


白ギャル黒ギャルが、
次の順番を待っていた。


「あんたの肉球、
あたいも好きなんだよ、
また触らせておくれよ」


スケ番のお京は
最後までばっくれないで
残っているあたり、
実は不良ではない
のではなかろうか。


「あたしもー!」


「肉球触りたいー!」


それを聞いた女子達が、
次々と犬女ちゃんと
踊ろうとしはじめる。




ここまで
犬女ちゃんの肉球に
触ることが出来ず
不満を抱いていた男子も、
フォークダンスであれば
自然な流れで、
肉球に触れるとばかりに、
犬女ちゃんのもとに押し寄せる。


「あんた達、
野郎共に肉球ぷにぷにを
渡すんじゃないよ!」


女子達は一致団結して、
犬女ちゃんの肉球を
死守する姿勢をみせる。


「我々は断固として、
犬女殿の肉球を
要求するのです、な!」


最近すっかり
影が薄い眼鏡が
男子達に決起を促す。


「おぉぉぉー!」


その呼び掛けに
賛同する男子達。


女子と男子で、
犬女ちゃんの肉球のために、
フォークダンスの順番をめぐる
争奪戦が繰り広げられる。


『一体、
何をやっているんだ、
おまいらは』


キャンプファイヤーで
火の担当ファイアーキーパー
であった小夜子先生は、
今回の文化祭で
結局犬女さまの肉球に
触れることが出来ずに終わり
地団駄を踏んで悔しがった。


『なんか平和だな』


そんなドタバタを
生暖かく見守る純心。
いつでも好きなときに
犬女ちゃんの肉球を
ぷにぷに出来る純心は、
余裕を見せて、
優越感にひたるのだった。




最後は暗い夜空に
打ち上げられた花火を
みんなで見上げて眺める。


こうしてみんなの
文化祭は幕を閉じた。











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