犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと文化祭(5)/ガールズバンドライブ

「犬女ちゃんガールズでーす!」


ステージに立つと夏希が叫ぶ。
ドラムがMCをするというのは、
結構珍しいのではなかろうか。


ステージ中央で犬女ちゃんが
遠吠えをしてみせる。


観客は湧き上がる。


バンドのメンバーみんな
会場の熱気につられて、
随分とハイテンションのようだ。


「みなさん、
犬女ちゃんがワンと言ったら、
ワン!と掛け合いしてくださるよう
お願いしましてよ」


とうとう、ついに
生徒会長自ら前説を
はじめてしまった。


「それでは、
そろそろいきますわよ!」


お嬢様まで珍しく声を
張り上げている。




ギターを構えて
ポーズを決めるお嬢様。


「Are you ready ?」


「yeah!」


観客が大歓声で応える。


『すげえ、ノリノリだなおい』


犬女ちゃんが
ワン!のパートを連呼すると、
観客が大合唱で
ワン!と掛け合いをする。


最後のトリだけあって、
観客のボルテージは最高潮。
テンションMAX、
はじめから総立ち状態だ。


パートの最後に
犬女ちゃんは絶叫する。




日本語歌詞は、
楽器を演奏している
メンバーが交互に歌って行く。
その間、犬女ちゃんは
舞台中央で跳ねて
踊りまくっている。


しかしながらこのバンド、
持ち歌が一曲しかない。
犬女ちゃんが歌える曲が
そうそうあるわけはないし、
練習する時間もなかった。


どうするのだろうと
純心が思っていると、
間奏で各パートのソロがはじまる。


『こんなのいつ決めたんだよ』




次の瞬間、純心は
もっと驚くことになる。


犬女ちゃんが舞台を飛び降り、
会場内の通路を走り回りはじめる。
当然ながら観客は騒然とする。


純心は犬女ちゃんが興奮して、
暴れ出したのかと思ったが、
どうやら演出らしい。
ちゃんと生徒会メンバーが
通路を確保している。


『お前、ロックな奴だな』




犬女ちゃんが
散々会場内を疾走すると、
突然客席の電気が消えて
その姿が見えなくなる。


ステージだけは照明が
当てられており、
演奏は続けられている。


それからわずかな間があり、
会場内二階の一番高い位置に、
スポットライトが当たると
そこに犬女ちゃんの姿があった。


演奏が一瞬ブレイクすると、
犬女ちゃんは会場内の
一番高い所で、
天に向かって雄叫びを上げる。




ワオォーーーーーーーーーン!




装着しているワイヤレスの
ヘッドセットマイクを通して、
犬女ちゃんの雄叫びが
会場内にこだまする。


スポットライトの円と相まって、
まるで月に向かって
吠えているようにも見える。


観客はまるで
犬の姿に似た神の使いでも
見てしまったかのように、
放心したままその姿に
見惚れてしまっていた。




夏希のドラムが再び
リズムを刻みはじめると、
各パートが一人ずつ
徐々に演奏に入って来て、
今度は女子メンバー達が
観客に呼び掛ける。


「さぁ、みなさん
まだまだいきますよー」


「みなさん準備はよろしくて?」


夏希と生徒会長の声に、
観客はみな我に返る。
あやうく魂が抜けたままに
なるところだった。


お嬢様は
大きく手を振り、
頭上で手拍子して
観客を煽る。




「Are you ready ?」


お嬢様の声に
観客が大合唱で応える。


「yeah!」


犬女ちゃんは会場の
一番高い場所から
観客を見下ろし、
ワン!のパートを連呼する。


観客も熱狂的に
掛け合いで応える。
熱気と温度が人々を
高揚させ、興奮させ、
会場全体が一つとなる。


『お前ら、エンターティナーかよ!』
『こんなのいつの間に練習したんだよ』


なぜかステージ慣れしている
犬女ちゃんガールズである。


-


『もうお前ら、めちゃくちゃだな』


純心は可笑しかった。
可笑しくて可笑しくて、仕方なかった。
よく考えたら、今日は一日
めちゃくちゃなことばかりだった。


犬女ちゃんが
『忠犬ハチ公』の
舞台を熱演したり、
それを見て大勢の人が
涙を流しまくったり、
犬女ちゃんの歌に
人々が熱狂したり、
頭がおかしく
なったんじゃないかと
疑いたくなるような、
めちゃくちゃなことばかりだ。


でも、めちゃくちゃ過ぎて、
最高に楽しかった。
こんなにも一日が
楽しかったことはなかった。
すべては犬女ちゃんのお陰だ。


よく考えたら、
犬女ちゃんと出会ってからずっと
毎日めちゃくちゃなことばかりだった。
でも毎日が最高に楽しかった。
すべて犬女ちゃんが
一緒にいてくれたからだ。


「お前ら最高かよー!」


純心は思わず大声で叫んだ。


純心はステージの上にいる
みんなに声援を送り続けた。


-


「Thank you !」


最後は、
歌詞の間に舞台に戻った
犬女ちゃんが
曲の終わりに合わせて
大ジャンプをして
演奏を締めくくる。


「ワンッ!!」


大歓声の中、
『犬女ちゃんガールズ』の
ライブは終了した。


後で聞いた話だと、
ライブの演出も
図書委員の考案だったらしい。


舞台裏では、
生徒会の女子メンバーが
抱えて犬女ちゃんを
二階まで運んだり、
見えないところで
タイミングの合図を送ったり、
なかなか大変なことに
なっていたようだ。




さすがにあれだけ暴れたら
犬女ちゃんも疲れただろうと
純心は思ったが、
犬女ちゃんは
まだまだ全然元気で、
明るい笑顔でワン!と鳴いていた。


『やばい、
俺のほうが全然体力ないかも』


こうして犬女ちゃんと純心の
文化祭初日のハードスケジュールは
すべて終了した。













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