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犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと文化祭(3)/『忠犬ハチ公』

ご主人様の
お葬式シーン辺りから、
観客の涙腺崩壊がはじまった。
ご主人様とのお別れのシーンが
あまりに迫真の演技だったからだ。


いや犬女ちゃん的には、
やはり演技だと思って
いなかったのかもしれない。
その瞬間は、
本当に純心が死んでしまったと
思っていたのかもしれない。


悲痛な鳴き声をあげ続け、
ご主人様のそばを
離れようとしない
犬女ちゃんの姿に
観客は声を上げて泣いた。




人間の役者が、
様々な人生経験が
演技の幅を広げてくれる、
引き出しが増える
ということがあるが、
もしそれが
犬女ちゃんにも言えるのなら、
犬女ちゃんは名役者
ということになるだろう。


普段、元気で明るいから
忘れてしまっているが、
人間の立場で考えるなら、
この学校の誰よりも、
いや普通の人間では
考えられないような
ハードな人生を
送って来ているのだ。


生まれてすぐに、
生みの親から引き離され、
幼少期は育ての父親に
毎日暴力を振るわれ、
挙句の果てには包丁で刺され、
仲が良かった義理の兄弟と
お母さんとは離れ離れになり、
育ての父も目の前で死に、
その後、育ててくれた
優しいおばあちゃんも
死んでしまったのだ。


人間だったなら、
間違いなく心を病むか、
自殺したくなるような
生い立ちだ。


それでも犬女ちゃんは、
明るく元気いっぱい
毎日を一生懸命生きている。
それも野生のバイタリティが
あればこそだろう。


それだけのことを経験した
人間の十代など
そうそういるはずがなく、
そうした犬女ちゃんの
これまでの人生経験が
犬女ちゃんの表現を
迫真に迫るものに
しているのだろう。


ただ、演技ではないかもしれない。
その瞬間は本当に
そう思っているのかもしれない。
人間で言うなら、
役に入り込み過ぎるタイプ
ということだろうか。


その後、ご主人様の帰りを
ひたすら待ち続ける
犬女ちゃんの姿に
観客はただただ
泣き続けるだけだった。


-


生徒会長は、
舞台を見るために
駆けつけて来ていた
夏希、お嬢様と
一緒になって号泣している。


彼女たちはこれまで
何度も犬女ちゃんの献身を
目の当たりにし、
これと似たような状況に
立ち会って来たのだ。
彼女達の想いは
一般観客のそれとは少し違う。


自分で本を書き、
舞台を演出し、
稽古をずっと見ていた
図書委員ですら泣いていたし、
日向先生も泣いていた。


メイド喫茶から
慌てて駆け付けて来た
小夜子先生などは
大号泣だった。




舞台袖で、犬女ちゃんに
絶対見つからないように
見ていた純心も
泣きまくっていた。
声を出さないように
泣くのに必死だった。


今まで純心は
犬女ちゃんの
そんな姿や顔を
見たことがなかった。


いや純心は、
そんな犬女ちゃんを
決して見ることが出来ない
ただひとりの人間だった。


純心が一緒にいれば、
犬女ちゃんがそんな顔を
することは決してないのだから。


死んでしまった人間が、
自分の死を嘆き悲しむ人の姿を
決して見ることが出来ないのと
同じことである。


自分がいないことへの
悲しみの姿なのだから、
本当は純心には
絶対に、永遠に
見ることが出来ない
犬女ちゃんの姿なのだ。


-


最後に、
ご主人様の帰りを
ひたすらに待ち続けた
犬女ちゃんが
力尽きて絶命すると、
幕が降ろされる。




観客はみな泣きながら
スタンディングオベーション、
拍手喝采の嵐だった。


幕が降りると、
純心はすぐに飛んで行き、
犬女ちゃんを抱きしめて
声を上げて泣いしまった。


犬女ちゃんは、純心の背中を
優しくトントンと叩いてくれた。




カーテンコールが
行われると犬女ちゃんは
明るい元気いっぱいの笑顔で
観客の声援に応えた。
まるで名女優である。


-


純心は文化祭での
大仕事を終えて
ホッと安堵していた。


「みなさま、
本当にお疲れ様でしてよ」


生徒会長は例によって
号泣した後のボロボロになった顔で、
スタッフのみんなを労った。


犬女ちゃんをはじめ、
生徒会長、図書委員、日向先生、
生徒会メンバー達、参加者全員で
成功の喜びを分かち合う。


これだけ大きな何かを、
自分がその中心メンバーになり、
みなとつくりあげたことは、
純心にとってはじめての経験であり、
それをやり遂げたという達成感が
純心を熱く高揚させた。


それはこれからの
純心の自信となって行くことだろう。


そして純心はこの舞台で見た
犬女ちゃんの痛いほどの愛情を
改めて知ることになった。


-


「いや、すごい感動しちゃったよー」


「本当に心に訴えかける
犬女さんの名演でしたわ」


泣いて目を真っ赤にしている
夏希とお嬢様が合流した。


「うちらも負けてられないねー」


この後、講堂では
吹奏学部や軽音部などの
各種ライブが行われる
予定になっている。


『犬女ちゃんガールズ』の
ライブはその後ということであり、
文化祭初日の最後に近い公演となる。


その間、生徒会長は、
理事長と来賓を案内し、
接待するらしい。
まぁ生徒会長もいろいろ大変である。




純心は犬女ちゃんが
疲れていないか、ストレスが
溜まっていないか、心配だったが、
元気いっぱいの明るい笑顔で
純心に向かってワンと一鳴きしてみせる。


どちらかというと、
犬女ちゃんのほうが
純心よりよっぽど体力があるのだ。


犬女ちゃんの
はじめての文化祭はまだまだ続く。











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