犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんとガールズバンド(3)

今回のPVは、
ドルオタPの強い要望で、
ライブしているところを
撮影することになった。


わざわざ撮影のために、
講堂に数百人レベルで
生徒が集められる。
講堂があるあたりが
私立のお金持ち高校
という感じだが。


純心は青ざめいた。
ライブ演奏のことではなく、
文化祭当日、自分がここで
舞台の準主役を務めるなど
あり得ないことだと
今からすでにガクブルだった。




バンドの演奏は
三回行われることになっている。
一回目はリハーサルのようなもので、
段取りを理解してもらう。
二回目と三回目が本番で、
両方のよいところを編集で使うと言う。


ライブ会場の
雰囲気を出すために、
集まった生徒は全員立って、
いわゆる総立ちで
演奏を聴くことになる。


会場はやや薄暗く、
スポットライトの照明なども
凝った感じに演出されている。




生徒会メンバーが、
スクリーンを使って
集まった生徒に前説を行う。


スクリーンに表示されているのは
冒頭の掛け合いの部分だ。


---


Are you ready ?
( yeah ! )


ワン、ワンワン、ワーン、ワーーン!
(ワン、ワンワン、ワーン、ワーーン!)


ワン、ワンワン、ワーン、ワーーン!
(ワン、ワンワン、ワーン、ワーーン!)


ワン!(ワン!)
ワン!(ワン!)
ワン!(ワン!)
ワン!(ワン!)


ウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!ワーン!


---


「えー、
みなさんにはですね、
この()の部分のワンという
掛け合いをお願いいたします」


「それでは一度
私がワンの部分を
やってみますので、
みなさんには
掛け合いのところを
お願いします」


生徒会メンバーは
みんな学内では
トップクラスに頭が
いいというのに、
ワンという掛け合いの
前説をやらされている。
純心は同情せざるを得ない。


劇のこともあり、
純心は最近生徒会メンバーに
妙な親近感を抱きはじめていた。
生徒会長に無茶ぶりされ、
振り回されて可哀想だ、
というのが強かったが。


-


犬女ちゃんをはじめとする
バンドのメンバーは
ワイヤレスのヘッドセット
マイクを着けており、
楽器のスタンバイをする姿も
様になっていて、
なんだかとてもカッコよく
まるでいつもと別人のように見える。
普段の天然ボケっぷりからは
想像もつかない。




一回目の演奏がはじまる。


「Are you ready ?」


ギターをカッコよく構えた
ポーズでお嬢様が、
帰国子女ならではの発音で
ビシッと出だしを決める。


犬女ちゃんが、
ワンワン歌い出すと、
みんな呆気に取られる。


みなが予想した以上に
はるかに歌が上手くて、
驚いて茫然としてしまったのだ。
みなはつい掛け声を忘れていた。


だがとりあえず
演奏は最後まで続けられる。
犬女ちゃんがワンワン鳴く
パートが終わると
日本語歌詞は演奏をしている
女子が交替で歌う。


犬女ちゃんは中央で踊りながら、
アドリブで適当に鳴き、
掛け合いのように入って来る。
しかもなぜか音程を外さずに。


さすがの純心も犬女ちゃんに
こんな音楽の才能があるとは
思っていなかった。
ちょっと鳥肌が立ってしまう。


それは会場の
バンドメンバー以外全員が
そう思ったようで、
想像以上のクオリティに
会場は俄然盛り上がって来る。


-


二回目の演奏。


お嬢様のキレキレの
掛け声からはじまり、
犬女ちゃんの
ワンワンという歌声に
会場は一体となって
ワンワンと掛け合いをする。


もうそれは
知らない人が見たら、
数百人が集まって
ワンワン言っている
ただの変な集会にしか
見えないのだが、
そこはやはり
ライブ感のなせるわざ、
会場の一体感、熱気、温度が
みなの気分を高揚させて、
そんなことは一切気にならない。


純心もずっと
鳥肌が立ちっぱなしだった。




『犬女ちゃんガールズ』、
このハンドはカッコいい。


中央の犬女ちゃんは、
野性味あふれるワイルドな
パフォーマンスを見せる。


金髪碧眼のお嬢様が
そんなにキレキレで
ギターを弾いたら
カッコいいに決まっている。


汗を光らせ、輝いて、
正確なリズムを刻む夏希。
やはり夏希には汗がよく似合う。


大上段に構え、
アグレシッブに、
ダイナミックに動く生徒会長。
この二人のツインギターは
最高に華があって見栄えする。


眼鏡を光らせながら、
鍵盤をじっと見つめ
クールにキーボードを
弾く図書委員。


犬女ちゃんを
恍惚の表情で見つめ
一心不乱にベースを弾く
小夜子先生。
まぁこれはどうでもいいか。




三回目の演奏が
終わったときには
会場の全員から
大きな歓声が上がり、
拍手が鳴りやまなかった。


-


こうして出来上がったPVは、
学校の誰が見ても納得が行く、
いい出来に仕上がっていた。


ライブの映像に合わせ、
途中で学校の風景カットが
挿入されて行く構成になっている。


運動部や文化部、
委員会活動の面々など、
学校のいろんな生徒の
笑顔が次々と映し出されて行く。


全クラスを撮影した画も
カットインされているので
時間こそ短いが、
ほぼ全校生が映っているだろう。


ドルオタは案外、
本当に有能なPなれるかもしれない。


そこには曲の歌詞通りに、
いろいろとユニークな
個性を持った生徒達が
楽しそうに学校生活を送っている
日常が映し出されている。


そこに描かれているのは、
まさに『学園天国』だった。


-


ガールズバンドのPVも
大好評だったようで、
ひとまず安心する純心。


犬女ちゃんも
いい仕事をしてくれて、
まずは一つ片付いた
と思っていたのだが、
そうは問屋が卸さなかった。


「大学関係者のみなさまが
是非ライブで見たい
とおっしゃって、
ステージの時間
押さえておきましたので、
みなさんよろしくお願いしましてよ」


生徒会長の言葉に、
純心は愕然とする。


二日間しかない文化祭、
すでに犬女ちゃんのスケジュールは
いっぱいに埋まってしまっていた。
まさにアイドル並みに。













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