犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと図書委員(2)

図書委員から
ラブレターをもらった純心。


犬女ちゃんは、
純心にお手紙のお返事を
書くようにけしかけていた。


自分がお手紙をもらったとき、
夏希にお返事を書かされた。
いや自発的に書くのを
夏希にお手伝いしてもらった
としておくべきか。


口に色紙を咥えて、
純心の前に差し出す犬女ちゃん。


『いや、普通は
ラブレターの返事、
色紙に書いたりしないから』


犬女ちゃんの場合は、
肉球手形こそが
最大のポイントだったから、
夏希が色紙にしたのだが、
色紙に書くとすれば
寄せ書きであろう。


寄せ書き風に
ラブレターの返事を書くのも
それはそれで斬新かもしれないが、
相手からすれば馬鹿にされてる
と思うのは間違いない。


それにこういうのは
秘め事であり、なんで誰かに
すぐに見られてしまいそうな
無防備な色紙に書くのか
意味がわからない。
色紙の寄せ書きに、
ガチで愛の告白している
ようなものである。


しかし、
犬女ちゃんだけではなく、
他のみんなにも
返事はちゃんとしたほうがいいと
勧められて、
純心も返事を手紙で書くのも
ありなのかもしれない
と思いはじめていた。


もちろん、
夏希やお嬢様、生徒会長からすれば、
その心中は決して
穏やかなものではなかった。
当然、嫉妬の一つもしてみせたが、
鈍感な純心であるから、
その反応はお察しだった。


それでも、
もし自分の場合だったらと考えると、
とても邪魔するようなことを
する気にはなれなかったし、
ちゃんと返事をしてあげて欲しい
とも思っていた。
外見だけではなく
心も美しい娘達なのである。


ただ一人、愛ちゃんだけは
今後の展開がどうなるのか
野次馬根性で面白がっていた。


-


返事を手紙で
と考えてはみたものの、
何と書けばいいのか
まったく思いつかない。
紙とペンを前に
頭をかきむしるだけである。
純心に文才はまったくなかった。


何を書けばいいのか
行き詰るたびに、
図書委員からのラブレターを
読み返す純心。


『なんてすごい文章なんだろう』


そのたびに純心は
そう思わざるを得なかった。


それはそうである。
文章を書き慣れた図書委員が
膨大な時間を費やして、
その時間がすべて凝縮された
便箋数枚なのだから。


それだけ自分に気持ちを伝えることに
一生懸命になってくれている、
そう思うと余計に
返事が書けなくなる
純心ではあったが、
少しでもその気持ちに応えるべく、
相手の言葉の一字一句を
きちんと受け止めようとして、
熱心に何度も読み返した。


最初に一度読んだときも、
もちろん真面目に
読んだつもりではあったが、
表面の字面だけを追って、
理解していた気になっていただけで、
深く理解出来ていなかったことに気づく。
行間にも意味があり、
そこかしこにも
隠されたメッセージを
見つけることが出来る。
まるで読書でもしているようだ。


図書委員には
間違いなく文才があると確信し、
文筆業を目指してほうがいいと、
どうしても伝えたかったが、
それはラブレターの返事としては
失格であったろう。


-


放課後。
犬女ちゃんは
再び図書委員の服を引っ張って
保健室にいる純心のところに
連れて行った。


純心が返事を渡すのをためらって
ぐじぐじしているから、
業を煮やした犬女ちゃんが、
図書委員を連れて来たのだ。


純心の前に図書委員を
連れて来た犬女ちゃんは、
やはりそのまま、
そそくさと保健室を
出て行ってしまう。


二人の話が終わるまで、
保健室のドアの前で
すっと待ち続けるつもりなのだ。




「て、手紙、
ありがとうな…」


純心は照れ臭そうに
顔を赤くしながら
図書委員にお礼を言った。


図書委員のラブレターには
別に付き合って欲しいなどと
書いてあったわけではない。
ただ純粋に対する気持ちが
つづられていただけだった。
だから返事としては間違いではない。


図書委員は顔を真っ赤にして、
緊張で固まってしまっている。


純心は下手なりに、
それでも心を込めて書いた
返事のお手紙を図書委員に手渡した。




ドアの前で待っている犬女ちゃんは、
なぜだかよくわからないが、
せつなくて、少し寂しい気持ちだった。
たまたま保険室に
戻って来た日向先生が、
事情を察して、
抱きしめて頭を撫でてくれる。


「エライね、あんたは」


犬女ちゃんは、
なんだかよくわからないが
そのまま鳴いてしまいたい
ような気分だった。


-


その後、
犬女ちゃんは少し後悔していた。
それは恋のライバルが
どうこうという話ではない。


お風呂のことだ。
今でもすでに
お風呂当番が四人もいて
毎日お風呂に入っているというのに、
これ以上お風呂当番が増えたら、
一日二回お風呂に
入ることにもなりかねない。


これだけ毎日
お風呂に入っているのに、
未だにお風呂が好きではない
犬女ちゃん。




もちろん純心と図書委員が
交際をはじめたというわけでもない。
以前、母にも語っていたように
今、特定の誰かと付き合う
という気はまったくない。


それでも友達として、
同じ群れの仲間として、
これからもっと
わかり合って行きたいと伝えた。


もちろん
図書委員の文才を褒め称えて、
いつか犬女ちゃんの物語を
書いて欲しいとも伝えた。
それがむしろ図書委員の気持ちを
より一層強くして
しまったのかもしれない。


-


「あー、
あたしもラブレター
書いてみようかなー」


冴えない顔でひとり言をいう夏希。


「私も書いてみたいですわ、
ラブレター」


お嬢様もやはり
今ひとつ冴えない顔だ。


「あら、
私もラブレターを書いてみようかと
思っていたところでしてよ」


生徒会長はすでに書く気だったらしい。


「お前ら、誰に渡す気なんだ?」


当の純心だけが何もわかってなかった。


「はぁ~」


高校生トリオは、
ダメだこりゃと言わんばかりに、
三人同時にため息をつく。
いや犬女ちゃんも入れて四人だ。


愛ちゃんだけは
相変わらず面白そうに
その様子を見ている。


「さすが
私が見込んだお兄ちゃん、
見事なまでの
鈍感なハーレム主人公ぶり
じゃあないですか」













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