犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと図書委員(1)

「私もラブレターでも
書いてみようかな」


図書委員は
そんなことを考えていた。


純心から
犬女ちゃんがラブレターを
もらった話を聞いて、
ラブレターという手法に
ただならぬ関心を抱いたのだ。


図書委員は、
そのあだ名の通り
本を読むのが大好きだ。


小さい頃からずっと
本を読み続けて来て、
もう何万冊も本を読んでいるだろう。
もはや活字中毒のようなものだ。


いつからか、
読むばかりではなく、
自分でも書いてみたいと
思いはじめるようになり、
今では小説やエッセイもどきを
こっそり書いたりしている。


誰にも言ったことはないが、
秘かにネットの小説投稿サイトに
アップしたりもしており、
将来は文筆業につきたいと夢見ている。


そんな図書委員だから、
ラブレターで、文字で
気持ちを伝えるということが、
気になって仕方がないのだ。


-


ラブレターの宛先は、
もちろん純心だ。


純心とは中学生で
はじめて知り合ったが、
一緒に図書委員を
やっていたこともあり、
その頃から
秘かに恋心を抱いていた。


最初は、無口で
あまり他人に干渉しない
適度な距離感が
居心地が良かったが、
そのくせどこか
妙に気をつかったり、
優しかったりする
ところがあるので、
図書委員にとっては
すごく相性がいい人に
思えたのである。


図書委員の勘違いである
可能性も高いのだが、
十代の恋などは
得てしてそんなものである。


図書委員は
本当の名前を陽子というのだが、
純心はそれすらちゃんと
覚えているかあやしい。




同じ高校になったのは、
さすがにまったくの
偶然だったが、
知らない間に犬女ちゃんと
二人きりで一緒に暮らしていたり、
夏希はともかくとして、
学校でも有名な美少女や生徒会長と
いつの間にか仲良くなっていたり、
今ではどこか遠い存在に
なってしまったと、
純心のことはすっかり諦めていた。


それでも二学期になって
犬女ちゃんが
学校に通うようになってから、
クラスで犬女ちゃんの面倒などを
見てあげていたら、
また純心とよく話すようになった。


そういう意味では、
純心とまた親密になれたのが
犬女ちゃんのおかげなのは
間違いがなかった。


-


だから図書委員にとっては、
ラブレターを書くことは、
恋の成就を目的とした
ことではなかった。


自分の想いを込めた、
気持ちをつづった
ラブレターを書くこと自体が
目的であった。


図書委員はしばらくの間、
毎晩ラブレターを
書くことに没頭していた。


書いては破り、破っては書く、
そんなことを繰り返して行く。


夜テンションが高くなって、
勢いで情熱的なラブレターを書いて、
次の日の朝、読み返して恥ずかしくなる、
なんてことはしょっちゅうだった。


しかし、
夜中に勢いで書くラブレターは、
なぜあんなにも恥ずかしいことが
平気で書いてあるのだろうか。


時が経てば黒歴史になることは
間違いないだろうことが、
びっしりと詰め込まれている。


ときにはペンが進み過ぎて、
もはや現実世界から大きく逸脱した
妄想世界の出来事が書かれた
ラブレターが出来上がったこともあった。


それでも図書委員は
ラブレターを書いているのが
楽しかった。
だから自分が納得行くまで
何度でも書き直した。


ラブレターが完成したら、
彼女の初恋はそこで終わりを告げ、
ラブレターは渡されないまま
であろうことも
彼女は薄々気づいていた。


だから図書委員は
渡されることのないラブレターを
ひたすら何度も書き続けた。


-


しかし、ついに図書委員は
自分が納得の行くラブレターを
完成させてしまった。


図書委員はせつなくもあったが、
どうせだから渡しておきたい
という気持ちもあった。
複雑な乙女心だ。


だがそんなものを堂々と
本人に直接渡せるだけの勇気があれば、
大人しいなどと
人に思われることもないわけで、
図書委員には渡せるはずもなかった。


学校に持って来てはいたが、
どうすればいいかわからず、
下駄箱にでも入れて置こうかと
思い悩んでいた図書委員。
その目の前には
ちょうど犬女ちゃんがいた。




「犬女ちゃん、
これ純心君に
渡してもらえないかな?」


図書委員は犬女ちゃんに
ラブレターを渡してもらおうと考えた。
自分の初恋の終わりには、
それがとても相応しいように思えた。


犬女ちゃんは、しばらく
じぃっと図書委員を見つめている。


犬女ちゃんは、
図書委員から手紙を受け取らず、
彼女の制服を口で咥えて、
引っ張りはじめる。


「ちょ、ちょっと、
犬女ちゃん、どうしたの?」


図書委員は犬女ちゃんに
引っ張られるようにして、
校内を連れ回される。
ラブレターを手に持ったまま。


犬女ちゃんが、図書委員を
連れて行った先は、保健室だった。
そこには、犬女ちゃんが
戻って来るのを一人で
待っていた純心がいた。


自分がお手紙をもらったとき、
気持ちを伝えたくて書いたんだから、
ちゃんと気持ちを伝えなくちゃだめだと
夏希が言っていたような気がする。
自分はちゃんと手で渡してもらったのだから、
ちゃんと手で渡さないとだめな気がする。
犬女ちゃんはそんなようなことを
思っていたのだろう、きっと。


犬女ちゃんは、図書委員を
純心の前まで連れて行くと、
自分はそそくさと
保健室から出て行ってしまう。


顔を真っ赤にして、
純心の前に立つ図書委員、
その手にはラブレターが握られている。


図書委員は恥ずかしがりながら、
手に握るラブレターを
純心に差し出した。


犬女ちゃんは、
二人の話が終わるのを
保健室のドアの前で
じっと待ち続けている。


なんでかよくわからないが、
せつないような、少し寂しいような、
胸が苦しいような気持ちになって、
犬女ちゃんは、
部屋に聞こえないように
小声でクゥーンと鳴いた。













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