犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんといじめられっ子(1)

犬女ちゃんが常駐する
保健室には窓がある。
窓の外はちょうど
校舎の裏側になっていて、
自転車置き場が近くにあったが、
この高校では自転車通学者は
それほど多くはなかったため、
普段はあまり生徒も
通らないような場所になっていた。


犬女ちゃん、
何もないときは
ときどき保健室の窓から
外を眺めたりしている。


保健室の窓から
空の雲を眺めているのが
好きだったのだ。


変な形の雲や
美味しいそうな形の雲、
いろんな雲を見ていると、
なんだか楽しくなって来る。




犬女ちゃんがそんな
雲鑑賞を楽しんでいると、
自転車置き場に複数の
人間がいる気配を感じる。


「なんだかよ、
お前見てるとイライラして、
ムカついて来るんだよ」


「お前みたいなカス、
生きててもしょうがないから、
とっとと死んじまえばいいんだよ」


一人の男子生徒を、
三人の男子生徒が
取り囲んで恫喝している。
いわゆる、いじめが行われていた。


有名名門私立で、
進学校であっても、
やはりいじめはある。
そういう学校であるがゆえに
余計にストレスが
溜まるのかもしれない。




犬女ちゃんは、
嫌な感じがしていたが、
言葉がわからないし、
また人間が集まって
難しい話をしているだけ
かもしれないので、
窓からじっと様子を
伺っていた。


なんだか昔
自分達をいじめていた
純心の父親を思い出す。


純心の父親は、
怒ってキレて見境がなくなり、
暴力を振るっていたため、
厳密にはいじめの類とは
少し異なるのだが
弱い者に八つ当たりして
暴力を振るうという点では
大差はなかった。


いじめられっ子は、
恫喝に怯え、萎縮してしまい、
何も言えなくなってしまっている。


「ほら、とっとと金出せよ」


いじめは、恫喝ばかりではなく、
恐喝にまで発展しようとしていた。


別に彼等とて本当に
金が欲しかったわけではないだろう。
この学校に通っているのだから、
それなりに裕福な家庭の子であり、
おそらく小遣いも年齢不相応の額を
もらっているだろう。


彼らの目的は、お金ではなく、
他者を屈服させて、
人から大事な物を奪うこと、
それで自分が他者より
上位の人間であることを
確認して安心すること、
そんなところであろう。


そんなことのために付き合わされる
いじめられっ子もどんだ災難である。


「で、でも…」


いじめられる側が抵抗を試みると、
いじめる側は露骨な苛立ちを見せた。


「ああ、ホント、ムカつくぜ」


三人のリーダー格が、
いじめられっ子の胸ぐらをつかみ、
殴ろうとした瞬間、
犬女ちゃんは窓から飛び出して、
いじめっ子達に向かって吠えた。


これはただの話し合いではないことを
犬女ちゃんは確認したのだ。
現行犯のようなものである。


殴る寸前であったリーダー格は
思わずその手を止めて、振り返る。


犬女ちゃんは
何度もずっと吠え続けている。


「うるせえぞ!
このクソ犬女!」


いじめっ子達は犬女ちゃんに
向かって行こうとしたが、
遠くから物凄い勢いで走ってくる
小夜子先生の姿が目に入った。


「クッソ、覚えてやがれ!」


その場から走って逃げるいじめっ子達。




いじめられっ子は、
ひとまず難を逃れ安堵するが、
犬女ちゃんにお礼を言うわけでもなく、
体を震わせ、慌てふためきながら、
やはり小夜子先生が到着する前に
その場から走って逃げて行った。


小夜子先生が到着するのと
ほぼ同時に日向先生が、
現場に出て来る。


犬女ちゃんが
この学校に通うようになってから、
こんなに吠え続けたことはなく、
何かが起こっていたことを
二人は疑わなかった。


小夜子先生は、
現場から数人の生徒が
走って逃げて行くのはわかったが、
生徒の顔をまでは確認出来なかった。


言葉を喋れない犬女ちゃんが、
二人にここで起こっていたことを
伝える術はなく、
事の次第は犬女ちゃんだけが
知っているということになる。




「お姉ちゃんより、
私のほうが早く着いてました!」


「何を言っているの?
犬女さまがお呼びになっているのに、
私があなたなんかに
遅れをとるわけないじゃない」


犬女ちゃんが吠える声を聞き、
純心が駆けつけたときには、
小夜子先生と日向先生の姉妹が、
どちらが先に現場に到着したかで
言い争いを繰り広げていた。


二人ともこんなだが、
犬女ちゃんを心配してくれる
いい先生なのだ。
多分。











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