犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと夏休み最後の日(2)/個人レベルの社会実験編完結

「今世の中では、
人権擁護団体や動物愛護団体が、
犬女の人権を求める活動を行っていて、
社会的問題になっているのは
ご存じでしてよね?」


生徒会長は詳細な話をはじめる。


「大学の高名な先生方には
リベラルな方が多くて、
そうした活動にとても興味を
お持ちになっていて、
積極的に参加しておられたりも
するのでしてよ」


まだ純心にはまったく話が見えない。


「純心さんのお母様は
とても有名な犬女研究家でも
いらっしゃいますから、
そうした大学関係者の方とも
懇意にされておられたようでして、
例の、修了式に行われた
『犬女との共存を考える会』のことを
大学関係者の方々に、
お話をして回られましてね、
こんな面白いことを
している高校があると。」


確かに名目上は、
『犬女との共存を考える会』
となっていたが、実際は
単なる吊し上げに過ぎなかった。


「興味を持った大学の先生から、
我が校の理事長であるおじい様に、
問い合わせが殺到したそうですわよ」


「そこでおば様は、
私を通じておじい様に
提案をされたのでしてよ。
実際に犬女と共存していることを
大学関係者や世の中に
アピールしたほうがいいと」


純心にも段々話が見えて来た。


なるほど、
母も実の娘のように思っている
犬女ちゃんを晒し者にされて
悔しかったのだろう。
あの気丈な母なら
やりかねないことではある。


-


「この世論の中で、
我が校がいち早く
こうした新しい取り組みを
行うということは、学校としても
大変な宣伝となりましてよ。
大々的にマスコミに
取り上げてもらえる
可能性も考えられますわ。」


なるほど。
要は犬女ちゃんを
学校の広告塔として
使うおうと言う訳か。


「さらには様々な大学から、
指定校推薦枠を増やしてもいいから、
実際に共存生活をモニタリングさせて欲しい、
研究結果報告をして欲しい、
という申し出も多数来ているのでしてよ」


「大学の指定校推薦枠というのは、
実際に生徒募集に
かなりの影響が大きくて、
遥さんのように
入りたい大学の推薦があるから、
我が校に入学を希望する
という学生は実際に多いのでしてよ」


「進路を考える
中学生や父兄の方々にも
アピールが出来ますし、
学校側としてはいいことだらけでしてよ」


学校側にメリットがあることは
純心にも理解出来た。




「ただそれでは、犬女さんには
何のメリットもありませんから、
学校に通っていただいている間に、
盲導犬や介助犬と同等の認定資格を
取っていただくことを
考えておりましてよ。
すでにそちらの専門家も
手配しておりましてよ」


学校側はそれに対する
見返りを与えるということだろう。




「資格が取れれば、
犬女さんは普通の人間と同じように、
どんなところもフリーパスで
行けるようになりましてよ」


「純心さんの念願である、
犬女さんが、
あるがままの犬女さんとして、
人間と同じような生活を送る、
それが可能になるのですから、
悪い話ではないと思いましてよ」


それは取引きというより、
生徒会長のお願いのようなものだった。


純心もここ一か月ちょっと、
一緒に行動するようになって、
生徒会長のことは少しずつ
わかるようになって来ていた。
本当はとても純粋でいい人なのである。


今は例の若干面倒くさい
ツンデレを出すこともなく、
ただただ真面目に純心に
お願いしているのだ。




「犬女さんに
もし何かあるようなことがあれば
私が、いえ私達が必ずお守りしましてよ」


私達とはもちろん、
生徒会長の他に、
夏希とお嬢様のことを
言っているのだろう。
おそらくそんなことを
言い出すということは、
純心のところに来る前に、
夏希とお嬢様には
すでに話をしているのだろう。
いくら生徒会長でも、
みなの同意を得ずに
そんなことを言い出すはずもない。


純心が犬女ちゃんと
いろんなところに一緒に行きたい、
一緒にいろんな経験をしたいと思うように、
夏希もお嬢様も、そして生徒会長も
同じように思っているのだ。


「もちろん毎日ではなくていいのでしてよ。
週に二、三回来ていただければ」


いや、学校に行くとなれば、
犬女ちゃんの性格からして、
毎日でも一緒に学校に来ようとするだろう。


-


純心は悩んだ。
心配なことは山ほどある。
しかしこれが、
あるがままの犬女ちゃんとして、
人々と同じように共に生きるという
純心の願いに近づく、
またとない機会であることも
間違いはなかった。




やはり最後は本人の意思を
確認するしかないだろう。
どこまで理解してもらえるか
わからなかったが、純心は
一生懸命犬女ちゃんに説明してみる。


「お前は一緒に学校に行きたいか?」


犬女ちゃんは凛々しい顔をして、
純心の目をまじまじと見つめ
ワンと吠えて、頷いた。


犬女ちゃんからすれば、
行かないという選択肢は
あり得ないのだ。


純心が行くところ、
行っていいのであれば、
ただひたすらについて行く。
どこまでも、どこへでも。
それが犬女ちゃんにとって
唯一絶対の価値観なのだから。


-


一学期、修了式の日、
みなに追われるようにして、
学校を後にした純心と犬女ちゃん。
今まさにそのリベンジのときが
訪れようとしていた。


いや、そんな大それた話ではないのだが。


実は先日撮影された動画が
生徒達の間で話題になり、
犬女ちゃんに対する偏見や嫌悪も
柔和されてきているのだが、
そのことを純心はまだ知らない。


その際に
夏希や生徒会長、お嬢様が、
本当の犬女ちゃんのことを
知ってもらおうと、
LINEなどのSNSで呼びかけを
してくれていたことも。


きっと愛ちゃんに知られれば、
冴えない主人公にも程がある、
ダメなハーレムマスター
と言われてしまうことだろう。




こうして、純心が今まで、
個人レベルで行っていた
社会実験の真似事のようなものは、
学校生活へとその舞台を移すことになる。


そして犬女ちゃんは、
学校に通うことになる。













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