犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと動画(2)

動画の撮影は予定通り
学校で行われた。


一学期修了式の日に
騒動を起こしてからはや一か月、
まさかこんなかたちで、
再び犬女ちゃんを連れて
学校に来ることになるとは
純心もまったく思っていなかった。


まだ夏休みではあるが、
学校には部活に来ている生徒や
図書館で勉強する三年生やらで
そこそこに生徒がいる。


今日は夏希も真面目に
部活で汗を流している。


夏休みでも学校に
意外に人がいることに驚く純心。




今日は電車で学校まで来たため、
犬女ちゃんには人間に変装した
イオちゃんの姿で来てもらった。


イオちゃんと二人で
校内を歩いていると、
すれ違う生徒がじぃっと
イオちゃんを見つめて来る。


純心はイオちゃんの正体が
バレたのではないかと
どきどきしていたが、
どうやらそうではないらしい。


「あの子、すごい美人じゃん」
「まるでモデルさんみたいー」


すれ違うみながそんな風に
イオちゃんを見ているようだ。


『正体は犬女ちゃんなんだけどな』


一か月前にこの学校で
追い込みをかけられた
犬女ちゃんと同じ人物であるのに、
見た目が違うだけでこうも違うものなのか、
人間の人を見る目というのは
そんなものなのか、考えさせられる。


-


違った意味で正装している
イオちゃんの姿を見て、
ドルオタはえらく興奮していた。


「最高にビビッと閃きまくり、
イマジネーションが湧きまくりですぞ!」


『いや、それもういいから』


撮影現場には、
ジャガイモの姉妹達も来ている。
バックダンサーとして
一緒に踊ることになっているらしい。


『いやあ、
ぐだぐだになる
予感しかしないわ』


ちびっ子達も普段会っている
犬女ちゃんと雰囲気がまったく違うので、
最初はまったく気づいていなかった。


-


イオちゃん姿のシーンも撮るということで、
犬女ちゃんは来たときと同じ
恰好のままで待機していた。


この辺の演出は、
どうやら事前に生徒会長が
ドルオタに入れ知恵していたようだ。
いつの間にか生徒会長も
全面協力ということになっている。


『あんた、生徒会が
忙しいんじゃなかったのかよ』


撮影機材も生徒会長が持ち込んだのか、
ドルオタの手配なのかわからないが、
そこそこちゃんとしたカメラで、
いつの間にか結構本格的になっている。


純心もレフ板などを持たされたり、
スタッフとしてこき使われてしまう。




犬女ちゃんとちびっ子達が
お仮をつけて撮影がはじまった。


『二本足で
お面つけるんだったら、
犬女ちゃんじゃなくて、
普通の人間でいいと思うんだが』


まだ純心は納得がいっていなかった。


-


学校にいる生徒たちの間では、
ドルオタが本物のアイドルを
連れて来て撮影しているとか、
生徒会長がモデルを連れて来たんだとか、
噂が噂を呼んで、かなり熱い話題になっていた。


撮影がはじまると、次第に
そこそこの生徒が集まって来ている。


「あの人すごい綺麗だったよー」
「きっとモデルさんだよー」
「いや、あれはきっと
こらから売り出すアイドルじゃね」


憶測で好き放題なことを言っている。


『いやあれ、
お前らも知ってる
犬女ちゃんなんですけどね』


純心は野次馬の勘違い発言を、
ニヤニヤしながら聞いていた。


-


集まって来た生徒達は当然、
踊っている途中でお面を脱いで、
素顔で踊る演出だと思って見ていた。


しかし実際に脱げたのは、服のほうだった。


踊りの途中、バックダンサーである
ちびっ子達が紐を引っ張ると、
服がそのまま取れ、
その下にはスクール水着を
着ているという演出だ。


スクール水着が出て来た時点で、
集まっていた生徒の大半が、ズッコケた。
それは見事なコケ方だった。


しかも例によって
胸には平仮名で『かおる』と書かれた
白い布が着いたままである。


その場の生徒全員が、
生徒会長のスクール水着であることを
一瞬で理解してしまったではないか。


なぞ名札を取ろうと思わなかったのか、
生徒会長の名前アピールは
まったくもって謎であった。


『世界中に恥を晒すことになるんだが』


スクール水着だけでも
みんな度肝を抜かれていたのに、
イオちゃんはそのまま四本足で踊りはじめた。


つまりイオちゃんから、
本来の犬女ちゃんに戻ったのだ。


その場の全員が
何が起こったのかわからず、
ポカンと口を開けたまま、しばらく
犬女ちゃんの激しい踊りを見ていた。




みんなのその呆けた顔を見て、
正直純心は痛快だった。


江戸の敵を長崎で討つとは、
まさにこういう気持ちを言うのだろう。


所詮、人間が人を見る目など
この程度のものなのだ。
これだったらよっぽど
犬女ちゃんのほうが
相手の本質をわかっている。


いつかそのことを
みなに理解して欲しい。


このまま負けるわけにはいかない。
なぜかそんな風に思う純心だった。













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