犬女ちゃん -見た目は美少女、知能は犬並みー(旧題:犬女ちゃんとピュアハート)

ウロノロムロ

犬女ちゃんと幼稚園(1)

母が海外に戻ってしまってから、
ちびっ子達が毎日家に遊びに来る
ということはなくなっていた。


純心の高校の友達、通称ジャガイモが、
都合悪いときだけ数時間、
純心の家で預かるだけに戻っていた。


子供慣れしていない純心ではあるが、
少し寂しいような気もしていたし、
同時にホッとするような複雑な心境である。


「明日ね、
ユウちゃんとユアちゃんの幼稚園で、
お泊り保育があるんだよね」


「海水浴とかにも泊まりで、
連れて行ってもらったし、
楽勝だよねって、話してたんだよね」


ちびっ子達を迎えに来たジャガイモは、
そんな話をしてくれた。


なんでもユウちゃんとユアちゃんが
通っている幼稚園では、夏休みの間に、
一泊幼稚園にお泊りする、
お泊り保育というイベントがあるらしい。
小さい頃からそういうことにも
慣れておきましょうということらしいが、
そんなことをする幼稚園もあるのか、
と今どきの幼稚園がどんなものか、
知らない純心は少し驚いた。


-


「お兄ちゃん、私なんか影薄くないですか?」


中学の部活が終わった愛ちゃんも、
純心の家に来ていた。


「まぁ、学校違うしな」


愛ちゃんが呼ぶお兄ちゃんは、
どうも今一つわざとやっているようで、
邪な感じがする、と感じている純心。


「夏休みは学校関係ないじゃないですか」
「もっとあたしとも遊んでくださいよ!」


純心の中では、中学生の愛ちゃんは、
まだちびっ子達と同じ扱いだった。
そんなに年齢も変わらないし、
むしろ愛ちゃんのほうが
しっかりしていることも多いのだが。


-


幼稚園で夏休みの間に行われるお泊り保育。
園児達は一晩親元を離れる不安を抱きながらも、
幼稚園に登園して来ていた。
中にはすでに泣きそうな顔をしている子もいる。


ユアちゃんとユウちゃんにとっては
親、姉妹と離れても、
それほど寂しいということもなかった。
他の子が一人であるのに対し、
ユアちゃんとユウちゃんは双子で、
いつも通りに相方が一緒なのだから、
それほど寂しさを感じることもないのだろう。




園児達は、先生と一緒に
ここまでの夏休みにあった出来事について
みんなでお話ししていた。


「ユアね、
いぬおんなたんと、
おともだちなんだよ」


ユアちゃんは少し誇らし気に
お友達に夏休みの話をした。


「いけないんだー、
おかあさんが、
いぬおんなに、ちかよっちゃ、
だめって、いってたもん」


しかし子供というのは残酷だ。
おそらくその母親は犬女に対して、
偏見を持っていて、
犬女に近寄ると危険だと思って、
子供に注意していたのだろう。


「ちがうもん!
いぬおんなたんはいいこだもん!
ユアのおともだちだもん!」


ユアちゃんは泣きべそをかきながら、
ムキになってお友達に反論する。


-


夕方、純心のスマホに着信がある。
ジャガイモからだ。


何かあったのかと思い、
電話に出てみると、
ジャガイモは慌てふためいて、
軽いパニック状態だった。
何を言っているのかまったくわからない。


「落ち着いて、落ち着いて話せよ」


「た、大変なんだよね!
ゆ、ユアちゃんとユウちゃんが
幼稚園からいなくなっちゃったんだよね!」


「じゅ、純心くんの家に行ってないかな?」


どうやら幼稚園のお泊り保育に
行っていたユアちゃんとユウちゃんが、
行方不明になってしまったらしい。


ジャガイモの話によれば、
ユアちゃんが幼稚園のお友達と
言い争いの喧嘩をして、
ユウちゃんはユアちゃんをかばったが、
他の園児達がみんなで
ユアちゃんとユウちゃんが悪いと言いはじめて、
その後、ユアちゃんとユウちゃんは
二人で幼稚園を飛び出して行ってしまったらしい。


修了式の自分の話を聞かされているようで、
純心としては身につまされる。


確かに母がいた間、
毎日のように家に遊びに来ていたので、
純心の家に来る可能性は高かった。
しかし母がいなくなって、
ちびっ子達なりにわかっていたのか、
最近は決まった日に、
ジャガイモに連れられて来るだけだった。


-


純心はジャガイモから、
幼稚園の場所を聞き出す。
幼稚園は純心にもわかるところだ。


「今すぐ犬女ちゃんを連れて行くから、
幼稚園で待っていてくれ」


「大丈夫、
きっと犬女ちゃんが
見つけ出してくれるから」


純心はそうジャガイモに伝えて、
電話を切った。


純心の様子で異変を察知した
犬女ちゃんは、横で
じっと純心を見つめている。


「ユアちゃんとユウちゃんが
いなくなっちゃたんだ、
一緒に探しに行こう」


「お前なら
ユアちゃんとユウちゃんを
見つけられるよな?」


純心の問いかけに、
犬女ちゃんはワンと
大きなひと鳴きで応える。


犬女ちゃんの顔は
いつになく凛々しかった。
大好きなユアちゃんと
ユウちゃんを必ず助ける、
そう決意しているように
純心には見えた。













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